

開志専門職大学
お仕事について教えてください。
山田知生
私はスタンフォード大学のスポーツ医局でアスレチックトレーナーという仕事をしています。


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アスレチックトレーナーとは何をするお仕事ですか?
山田知生
スポーツ選手が練習や試合をする中で、けがや病気をしないようにコンディションを整えて万全の状態にする、その役割がまず一つです。二つ目の役割は、もしけが人が出た時には、素早く対応してリハビリテーションやトリートメントを実施。すぐに選手が競技に復帰できるようにします。


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どのくらいの間、スポーツ選手の健康管理のお仕事をされているのですか?
山田知生
アメリカの准医療国家資格を取って23年。スタンフォードに勤め始めて今年で20年になります。


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スタンフォード大学の健康管理の指導法や施設は、他の大学とは違うと聞きますが。
山田知生
施設といったハード面に関しては、選手が練習しやすくするためにアメリカンフットボール競技場、バスケットボールアリーナ、プール、陸上競技トラックが一つのスポーツ医学センター内にコンパクトにまとまっています。競技場間は歩いて移動できるようなシステムになっています。


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一カ所に集約されていて便利ですね。
山田知生
他の大学では、バスケットボールアリーナからフットボール競技場までは車で行かなければいけなかったり、スポーツ医療センターが三つも四つもあったりします。スタンフォード大学では一元化しています。


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学生にとって、一カ所に集約されていることの利点は?
山田知生
いろんなスポーツの選手が一か所に集まってきて、さまざまなスポーツの指導を経験できるチャンスがあるのが良い点です。スポーツは狭い社会なので、バスケットをやっていると4年間バスケットアリーナだけを行ったり来たりするだけで、他のアスリートと触れ合う機会がありません。


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せっかくいろいろなスポーツ選手がいるのに、それはもったいないですね。
山田知生
教育の面から見て学生にとって良い点は、水泳の選手とトラックの選手が隣合って話をすることができるというように、違う分野のスポーツのいろいろな話が聞けるので、学生の視野が広がることです。


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スタンフォード大学には、アメリカを代表するスター選手がたくさんいるのですか?
山田知生
80年代や90年代はテニスのジョン・マッケンローやゴルフのタイガー・ウッズといった多くのプロアスリートを輩出しました。2002年に私が大学に勤め始めてからは、五輪メダリストやNBA(全米プロバスケットボールリーグ)で活躍している選手、アメリカンフットボールでは一位指名でNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)に入団した選手、あるいは野球のMLB(メジャーリーグベースボール)で活躍する選手などがいました。現在でもプロレベルの超一流選手ぞろいです。


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多くの選手をサポートしてこられた山田先生が、この仕事に就かれたきっかけは何ですか?
山田知生
最初は、アスレチックトレーナーになろうとは思っていませんでした。中学から本格的にスキーを始め、ずっとスキー一筋でした。


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それがどうして、アスレチックトレーナーを目指されたのですか?
山田知生
高校卒業後もスキーを続ける中で、プロスキーヤーとしてアメリカに遠征することがありました。その時に自分と同い年くらいの20〜21歳の学生アスリートたちと出会いました。競技後に開催された交流会で、「今は競技をやっているけど、いつかは引退する。第二の人生の方が長いから、スポーツだけをやっていて、たとえスポーツで成功したとしても、それでは人生で成功したとは言えない」というような学生たちの話を耳にしたのです。普通、そんなことは親に言われてもピンと来ないのですが、同じ世代の子たちが言っていたら違います。


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そんな大学生と比べて、当時の先生はどんな感じでしたか?
山田知生
彼らは、控室で本を読みながらウォームアップをしたり、1回目のレースの終了後、次の競技に出るまでに少しでも時間があると、一生懸命レポートを書いたりしていました。私は何をしていたかというと、ただじーっと競技にフォーカスしたり、人と喋ったりしていました。そこに違いを感じました。


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勉強と両立している様子に驚かれたのですね。
山田知生
今は彼らと同じ実力だったり、あるいは自分がちょっと上かもしれないけれど、長い目で見たら、たとえ今日この競技に勝って、そして競技人生で成功したとしても、人生という競技ではこの人たちに負けるなと思いました。


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このことがきっかけで、大学進学も視野に入ったのですね。
山田知生
そうです。ところが90年代前半の日本では、17〜18歳の高校生が大学を受験するのが当たり前で、もしそのタイミングで大学受験をしなければ、今ほど社会人入学枠が充実していなかったので、大学に入るようなチャンスはほとんどありませんでした。


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アメリカは違ったのですか?
山田知生
アメリカでは17〜18歳で大学に行く人もいれば、行かないで働いたり旅をしたりと、他の経験をしてから23〜24歳で大学に行く人もいました。


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24歳までプロスキーヤーだった先生は、その後のキャリアを考えアメリカでの進学を考えられたのですね。
山田知生
何歳でも大学受験のチャンスのあるアメリカ。すでにスキー競技でアメリカに行ったことはあったので、自分にとってすでにドアが半分開いているアメリカという国に行って、あとの半分のドアを自分で開けて、アメリカの大学で学ぼうと思いました。


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大学では何を専攻されましたか?
山田知生
在学中にスポーツ競技のテントでボランティアをしていて、アスレチックトレーナーの仕事を間近に見る機会がありました。自分がスキーをしていた時に、こんな風に体のケアをしてもらっていたなと思い出し、興味を持ちました。そしてサポートされる側からサポートする側になろうと、アスレチックトレーニングを専攻することにしました。


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仕事のやりがいは何ですか?
山田知生
まだ地に足が着いていない18歳ぐらいの学生が大学に入学してきます。そんな成長段階にある学生たちも、大学の4年間で成長します。その成長する過程で、私は彼らと行動を共にしたり、指導したり、助けてあげたりといろいろな面で関わりを持ちます。学生は私を必要としてくれて、私もトレーナーとして働きながら、彼らたちから多くを学ぶことができます。


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互いに磨き合うことができる環境なのですね。
山田知生
アスレチックトレーナーの仕事は、選手生活を通じて、彼らが人間として成長していく過程をそばにいてしっかりと見届けられる仕事です。そんな風に選手の成長過程に関われることにやりがいを感じます。


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スタンフォード大学の学生たちから得たものはありますか?
山田知生
私はずっと、後世のために誰かに引き継いでほしいものが、きっと自分にもあると思っていました。ただ、30代から40代前半まで、私はその問いに答えられませんでした。それを見つける意識をもたらしてくれたのが、この大学の生徒たちでした。彼らは、スポーツだけでなく学問にも優れ、人間性も高く、卒業後すぐ起業して地域や国や世界を良くして、それを継続したいという願いを持っています。


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具体的に何を後世に残したいと思われたのですか?
山田知生
そんな学生たちと過ごしたことで、私が後世に残したいものの答えが分かったのです。スタンフォード大学の健康管理の指導法を習得した私は、疲労大国の日本に住む人たちに、疲れを予防し、疲れを早期に解消する方法を伝えたいと思いました。


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確かに日本人はいつも疲れている気がします。
山田知生
日本では疲労で過労死する人、うつ病になってしまう人が多いですね。そこで、一般の方を対象に、日本の疲労社会を変えるための健康について伝えたいと思いました。


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アスレチックトレーナーの経験を生かそうと思ったのですね。
山田知生
そうです。スタンフォード大学のスポーツ選手は、例えると自動車レースの最高峰、フォーミュラ1に出場するスポーツカーのようなもので、アスリート界の最高峰にいます。私は長年、スタンフォード大学で一流選手たちの体調を管理し、フォーミュラ1に出場するようなスポーツカーを治してきたので、大衆車も治せると思いました。スポーツカーではなく大衆車、つまり特別なアスリートではなく、私たちのような普通の人を対象にして、健康について伝えたいと思いました。


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それを伝えるために本を出版されたんですね。
山田知生
日本の疲労社会を変えられたらという気持ちを込めて、疲れない体にするためのヒントを満載した本を2018年に出版しました。2021年にはさらに、脳と体が「疲れない・バテない・壊さない」をテーマにした本を出版しました。


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とても興味があります。
山田知生
一般の人たちにも分かりやすいように科学的に健康について説明した本です。「お医者さんに行く前にこれをやっておけばいいですよ」と、健康に対する知識を身に付けてほしいという願いから書きました。私の本がひとつの健康ツールになればという気持ちです。


開志専門職大学
学生のうちにやっておいた方が良いことはありますか?
山田知生
よく「世界に出ろ」と言いますが、いきなり世界に出なくても日本のいろいろな地域で暮らしてみるのも良いと思います。もし新潟に住んでいるなら、東京や関西に住んでみるとか。あるいは地元以外の人たちと積極的に交流してみるとか。


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まずは身近なところからですね?
山田知生
小さな異文化の積み重ねが大切です。変化を怖がらず、変化を起こす力のある人間になってほしいと思います。地元以外の土地に出て行って、地元以外の人に出会う。その延長線上が海外なのかもしれません。


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講義ではどんなことを話していただけますか?
山田知生
大きく分けて二つです。一つ目はスペシャリストとしてアスレチックトレーナーの仕事の内容と経験とその知識・技術についてを話します。二つ目は、海外に住んで30年経ちますが、移民の私がどうしてスタンフォード大学のディレクターになれたのかについて話します。


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特別な能力をお持ちだったのでしょうか?
山田知生
技術が高かったということだけではなくて、職場に無いもの、職場の人たちが持っていないものを私が持っていたからです。自分にしか持っていないもので人をまとめ、人がついてくるようにプッシュする。人と距離を置くのではなくて、人をまとめられるようになる方法についてお話できたらと思います。


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先生の場合は、人をまとめる力があったのですね。
山田知生
みなさんはそれぞれ違うものを持っているはずなので、私の経験談によって、それが何なのか考えるきっかけになってくれればと思います。


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山田先生の特別講義、とても楽しみです。本日はありがとうございました。
特別講師 山田知生氏
スタンフォード大学スポーツ医局アソシエイトディレクター
東京都出身。24歳までプロスキーヤーとして活動した後、アメリカに留学。マサチューセッツ州立ブリッジウォーター大学をアスレチックトレーニング専攻で卒業後、サンノゼ州立大学院でスポーツ医学とスポーツマネージメントの修士号を取得。2002年秋よりスタンフォード大学アスレチックトレーナーに就任。18年に日本で出版した『スタンフォード式疲れない体』(サンマーク出版)はアマゾンビジネス書ランキングで1位を記録。21年には『スタンフォード式 脳と体の強化書』(大和書房)を出版。

