

開志専門職大学
山田さんがこれまでにサイボウズで何をされてきたかを教えてください。
山田理
そうですね、サイボウズができて2年くらいの時に入社しまして、ずっと管理部門を担当してきました。入社直後から上場に向けて取り組み、半年後にマザーズ上場、2002年には史上最短で東証2部への上場を果たすための体制整備をしました。それと同時に人事としてメンバー(社員)を増やしていくと共に、制度や研修なども試行錯誤しながら作り上げて行きました。


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史上最短! そして、サイボウズは、働く時間や場所が自由な「働き方改革」で有名ですね。
山田理
会社が成長していく中で、過去にサイボウズの離職率が28%にまで上がってしまいました。これは人を100人採用したら、1年で28人も辞めてしまうということです。

山田理
そこから脱却するために、一人ひとりが働きやすい会社にするためにいろいろな仕組みを改善し、継続的に取り組んできました。今は離職率3%にまで下がりました。


開志専門職大学
サイボウズはどのような事業を手がけているのですか?
山田理
ITを使って効率的に情報を共有するためのグループウェアというソフトの開発と普及に取り組んでいます。


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グループウェアとはどのようなものでしょうか?
山田理
FacebookやTwitterの会社版ですね。組織の中で情報を共有することによって、一緒に目標達成を目指します。共有する情報はメンバーのスケジュール、会議の議事録、今日お金をいくら使ったとか、こういうことで困っているなど、さまざまな内容です。


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サイボウズのグループウェアのユーザー数は?
山田理
日本、アジア、アメリカで約100万人に上ります。企業数では約13万社です。


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山田さんはアメリカのサイボウズの社長さんも務めているとか?
山田理
グローバルにチャレンジしようということで、2014年、アメリカに単身でスーツケースを一つだけ持って上陸しました。アパートのリビングルームをオフィスにして、現地のスタッフを一人、さらにまた一人と雇って、アメリカでのチーム作りを始めました。


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アメリカでのご苦労とは?
山田理
実は、日本本社で叩き出した離職率を軽く超えて、一時、アメリカでは56%の離職率を記録したんですよ。


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雇った人の半分以上が辞めてしまうということですね?
山田理
事業を立ち上げていかないといけないので、人をどんどん採用する必要があったんですが、サイボウズのことはアメリカでは誰も知らないわけです。だから、うちの会社のカルチャー(企業文化)にフィットする人が現れるまで採用し続けました。日本で経験した組織作りをアメリカでは早回しで実行しました。


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サイボウズのカルチャーとは?
山田理
端的に言うと「自立分散型」のチームです。一人ひとりが主体的に存在していて、イキイキワクワクした気持ちで働けること。100人いたら、それぞれの個性を生かした100通りの働き方がある、という考え方を大切にしています。また、公明正大で、組織の中に隠し事を作らないことです。


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さて、山田さんはアメリカのサイボウズの社長以外に、日本では取締役副社長でしたね。でも、その肩書を少し前に変えられたと伺いました。
山田理
はい、今は取締役副社長ではなく、組織戦略室長になりました。


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どうしてですか?
山田理
従来型の会社の意思決定は一部の幹部に限られています。いわゆる階層型組織ですね。しかし、取締役だからとか、副社長だから言っていることが正しいというわけではないんです。だから、権限や権威ではなく、その人の言っていることに共感してくれることの方が大事だと思うんです。


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確かにそうですね。それで自ら副社長を降りたのですか?
山田理
自分自身が肩書を外すことで変化が起こることを期待しました。


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収穫はありましたか?
山田理
一つは自分の気持ちが軽くなりました(笑)。ただ、サイボウズは僕が作ってきた組織なので、肩書を変えても僕は僕であって、まだ影響は与えているかもしれません。でも、このような大胆なことをあえて実行に移すことで、後に続く人たちにメッセージを発したかったのです。


開志専門職大学
山田さんに続いて、肩書を外す人は社内に現れましたか?
山田理
まだ出てないですね(笑)。青野が「社長の肩書を外したい」と言ってますが、まだ様子を見ましょうかと話しています。でも、逆に一般の社員を社内公募で取締役にしました。


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と言いますと?
山田理
「取締役になりたい人」を募集して、手を挙げた人17人全員を取締役にしたんですよ。


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本当に自由な組織ですね。
山田理
サイボウズでは取締役だけで意思決定するわけでなく、経営会議には誰でも参加できます。また会議のビデオは全社員に公開されます。意思決定の仕組みでも、うちの会社は2歩も3歩も世の中の先を行っていると思います。


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ところでコロナ禍で世の中は一気にリモートワークに移行しましたが、サイボウズはコロナ禍以前からリモートワークが進んでいたと聞いています。そんなサイボウズでもコロナで何か変化はありましたか?
山田理
サイボウズではもともとグループウェアで組織のメンバー同士が情報を共有しながら、多くの社員がグループウェア上のバーチャルなオフィスで働いていましたが、それでも出社する人はそれなりにいたんです。

山田理
そしてパンデミックになって、実際に出社できない、または出社しない方がいいという流れになり、9割以上が在宅勤務になりました。そこで起こった変化は、グループウェアでのテキストの書き込みが5倍伸びたということです。


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チャットのようなことですか?
山田理
そうです。全員バーチャル勤務になると、オフィスでの会話がなくなったわけです。それで、テキストでの情報交換が活発になったようです。


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社員はどこに住んでもいいのですか?
山田理
出社しなくて良くなったので、この際、住みたい場所に移住しようと、社員はどんどん引っ越しています。明石だったり、福岡だったり、新潟だったりとバラバラです(笑)。


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オンラインでつながればどこでもいいというわけですね。
山田理
でも、時々は東京のオフィスに皆で集まることもあるんですよ。そんな時に「前もって言ってくれないと、移動時間がかかるので急には出社できない」と言われるようになりました(笑)。そういうこと(どこに住んでもいい働き方)が当たり前になるといいな、と思いますね。


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逆にリモートワークが進んだことの弊害はないでしょうか?
山田理
新しく入社した人や若いメンバーにとっては、皆で同じ場所にいない分、一体感を感じにくい、疎外感を感じてしまうということはありますね。ですから、できるだけリアルに集まれる機会も作っていかないといけません。皆の顔をリアルに見て安心してもらうためにもオフィスは必要です。


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さて、アメリカでのお仕事のお話を聞かせてください。2014年からアメリカで働いてみていかがですか?
山田理
私は今、カリフォルニア州のシリコンバレーにいます。ここは世界最高のITのサービスが生み出されている場所です。ここで人を採用すると、以前はGoogleにいたとかSalesforceにいたという人材にも出会います。外から見るとアメリカってすごい!シリコンバレーってすごい!と思うものですが、いざ現地でいろいろな人に会うと、すごい人もいるけど、そうでもない人もいて(笑)、現状を肌で感じることができます。


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そこで日本の企業としてどう勝負していくのでしょうか?
山田理
いかに差別化を図るかということになります。アメリカ人のようになろうと思ってはいけません。アメリカ市場でアメリカ人に勝てるわけがありませんから。


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ということは?
山田理
日本独特の良さを売り込むのです。外国人としてアメリカ市場に乗り込んでアメリカと同等に戦おうと思っても無理です。アメリカ人が持っていないもの、ものづくりのこだわりだったり、チームワークのノウハウだったり、そのような素晴らしい日本の文化や商品をいかにこのアメリカ市場に持ち込めるかが成功のカギとなるわけです。


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アメリカに同化しないということですね。
山田理
そうです。アメリカ人と戦うのではなくて、アメリカ人にも必要だけれど彼らが持っていないものを提供するのです。


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サイボウズがアメリカ市場に提供するものとは?
山田理
チームワーク溢れる社会です。そういう社会を作っていくための仕組みを提供します。

山田理
そして大切なのは、それを求めている人をいかに探すか、ということですね。その人のニーズに合わせるんじゃなくて、こちらが提供するものを求めている人を探すのです。

山田理
日本人はとかく「相手に合わせる」という、個性をなくす教育を受けていることが問題だと思います。空気を読み過ぎなんですよね。


開志専門職大学
一人ひとりの個性に合わせた働き方を提唱している山田さんとしては、日本ではもっと個性が尊重されるべきだということですね。
山田理
今のままでは、個性がある人がどんどん海外に流出してしまいます。アメリカに長く暮らす日本人を見ると、皆さん一癖も二癖もあります。でも非常に自立しているし、強いと思いますね。


開志専門職大学
日本ももっと個性豊かな人々が暮らしやすい社会にすべきなのでしょうね。実際にアメリカで働いて、日本を客観的にご覧になっている山田さんのご意見、勉強になります。

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それでは次に日本の大学生が学生時代に経験しておくべきことについてアドバイスしてください。
山田理
本当に自分がやりたいこと、興味を引くことがあれば、なんでも手当たり次第に経験してほしいということです。若いうちは何が正解かなんて分からないんですから。何にでも挑戦してほしいですね。


開志専門職大学
山田さんご自身もそうでしたか?
山田理
僕なんて外国語大学でペルシャ語を専攻したのに、銀行に入行して、そこを辞めてベンチャー企業のサイボウズに転職しました。そして、若い頃は全く想像もしなかった「組織作り」の仕事をしています。でも、その時々でやりたいなと思ったことに取り組んで、新しい知識を吸収して経験を積んできたからこそ今があるわけです。


開志専門職大学
迷ってないで挑戦したもの勝ちということですね。
山田理
答えなんてないんですよ。例えばYouTubeが面白そうだと思えば、自分で動画を撮影してアップすればいいんです。インスタもやってみて、いかにフォロワーを獲得するのが難しいか、自分で経験すべきです。大学というのはそういういろんなことに挑戦できるファーストステップだと思います。


開志専門職大学
勇気が出てきました。
山田理
僕も54歳になった今になっても、ずっと、やりたいと思ったことに挑戦するということをやり続けています。挑戦していけば選択肢は広がっていくのです。選択肢を狭めるのは自分自身です。


開志専門職大学
いろんなことをやることで選択肢が広がる?
山田理
例えば、日本人って野球を始めたらそれを20年も30年も続けたりするでしょう? でもアメリカのスポーツ選手を見てください。中学や高校ではバスケットやったり、アメフトやったり、テニスやったりシーズンごとにいろんなスポーツに挑戦します。いろんなことに挑戦して、得意なものに出会えて、それで大学の奨学金をもらったりするんですよ。


開志専門職大学
なるほど。日本では一つのことにこだわり過ぎるということですね。
山田理
最初に野球を選んだ人がずっと野球をやって芽が出なかった場合、もしかしたら途中でサッカーにも目を向けていたらそっちで成功したかもしれません。一つのことにとらわれずに、どんどん新しい挑戦をしたらいいんです。「石の上にも三年」なんて格言に負けてはいけません(笑)。


開志専門職大学
それでは最後に特別講師としてどのようなお話をしていただけるかを教えてください。
山田理
繰り返しになりますが、個性や自分自身を大事にしてほしいということを伝えたいです。そして、いかにイキイキワクワクと働いていくかについて提案したいと思います。


開志専門職大学
山田さんが今もやりたいことに挑戦し続けているというお話を伺って、とてもポジティブな気持ちになれました。特別講義を楽しみにしています。
特別講師 山田理氏
大阪府出身。高校3年の夏にアメリカのテキサスとカリフォルニアに1年間留学。大阪外国語大学を卒業して1992年、日本興業銀行に入行。2000年にサイボウズに中途入社。主に財務、人事、法務の統括業務に当たり、社員が働きやすい職場にしていくサイボウズ式の働き方改革を実現する。14年から現在までサンフランシスコに進出したアメリカ法人、サイボウズUSA社長を務める。21年9月、サイボウズ株式会社副社長から組織戦略室長に就任。著書に『最軽量のマネジメント』『カイシャインの心得』。

