

開志専門職大学
大西さんが取り組まれているお仕事について教えてください。
大西正之
人工知能やクラウドコンピューティングという技術を含めた最新のITソリューションを顧客に提供するグローバル組織を率いています。顧客は国際的な製造業です。ITの力で全世界に影響を与え、良い変化をもたらすことが私たちの活動の目的です。私たちが提供しているのは製品そのものではなく、顧客の企業価値を高めるためのお手伝いです。


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グローバル組織ということは、一緒に働く仲間が世界中にいるんですね? 何人くらいのメンバーで構成されているのですか?
大西正之
チームの人数は数十名で全世界に散らばっています。私は米国カリフォルニアのオレンジ・カウンティーの自宅から働いています。


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対面式で会えないスタッフとどのようにコミュニケーションを取っているのですか?
大西正之
常にスタッフの実績を評価し、相手に伝えるようにしています。また、スタッフによっては厳しい状況になっても警告を発しない人もいるので、1週間に1回、一対一のオンラインミーティングを持ったりもします。しかし、私としては何曜の何時と決める必要はなくて、今話すべきだと思ったらすぐに話し合いの場を持つようにしています。


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大西さんはフットワークが軽いんですね。
大西正之
私は、ランダムな形でメンバーの悩みや問題点を拾うように努めています。でも、前の会社のシスコもそうでしたし、今のマイクロソフトもそうなんですが、問題を自己解決できる人が実際は多いです。


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シスコもIT企業として有名ですが、シスコからマイクロソフトにはいつ、どのような理由で転職されたのですか?
大西正之
マイクロソフトに移ったのは2020年9月です。前の会社で働いていた時に複数の企業からお声がけをいただき、その中からマイクロソフトに決めました。


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日本に比べるとアメリカの方が転職する人は多いのでしょうか?
大西正之
アメリカでは「ジョブ型雇用」と言って、雇われると特定の仕事に従事します。日本のように雇われた後に総務をやったり、営業に異動したりといった「メンバーシップ型雇用」とは異なります。私の場合はITの技術職としてそのキャリアを上げていったわけですが、キャリアアップのためにもっと良い環境が用意されればその新しい場所に移るといった感覚です。もちろん、移った先々での愛社精神は、その会社に所属している間は感じます。


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それでは、マイクロソフトのどのような点が魅力的だと思いますか?
大西正之
マイクロソフトはご存知のようにビル・ゲイツが起こした、ソフトウエアを開発、販売する会社です。私が魅力的に思うのは、マイクロソフトがITソリューションによって「人の生活を豊かにしていく」という企業の使命を明確にしている点であり、私もこれに賛同しています。


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大西さんがもともと海外に出ることになったのはどのような経緯だったのですか?
大西正之
前の会社で、社内のヘッドハンティングで海外異動のチャンスを得たのです。そこで日本法人を一旦退職し、米国本社に転籍しました。


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それまで海外で働いたことがなかったんですよね? 大きな決断でしたね。
大西正之
しかも、年齢はすでに30代後半でしたし、家族も子どももいました。でもそれを自分が海外に挑戦できない理由にはしたくありませんでした。


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海外には憧れていたんですね?
大西正之
最初は中学生の頃から見聞きしていた洋画や洋楽の影響で、憧れを抱き始めました。その後、社会人になり、ITの技術者として仕事をしている中で、ITは全てアメリカの技術で回っていることを知り、できればアメリカで通用する人材になりたいと思うようになったのです。


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30代後半で踏み出した海外はどうでしたか? 最初からうまくいきましたか?
大西正之
日本で働いていた頃から英語は話せたのですが、アメリカに実際に来た途端、相手が何をしゃべっているのか聞き取れなくなったのです。


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どういうことですか? 同じ英語なのに?
大西正之
自分の英語力が落ちた!と最初は焦りました。しかし、そうではありませんでした。それまで私は日本からアメリカに出張に来ても、あくまで「お客さん」だったのです。つまり、アメリカ側の人は私に話す時に、より分かりやすくゆっくりと気を遣ってくれていたわけです。ところが私もアメリカ本社で働くことになるともう「お客さん」ではありません。以前は私が話しやすいように質問してくれたりもしていましたが、そのようなこともなくなり、自分で積極的に会話に割って入らないと、話す機会も永遠にないのだと気付きました。


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でも、そのことに早い時期に気付いたのですね。
大西正之
そうですね。しかも、今では世界中のメンバーや顧客を対象にしているので、これからも言葉と文化の壁は私にとって永遠に続きます。でも、それを楽しみながら乗り越えていきたいです。


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大西さんの英語でコミュニケーションを取るコツとは?
大西正之
あくまで第二言語なので完璧を求めないこと、そしておどおどしないことが大切です。端的に伝える工夫をすることで、英語力だけでなく日本語でのコミュニケーション能力も上がります。


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そしてアメリカに来て15年が経つわけですが、アメリカで働く醍醐味は何ですか?
大西正之
ビジネス規模の大きさと速度の速さです。ITの世界では新しい技術に触れる機会が多いです。仕事と私生活のバランスの良さもとても気に入っています。


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私生活と言えば、カリフォルニアでのプライベートでの楽しみは?
大西正之
昔から自転車と釣りが趣味だったのですが、ここは海沿いのバイクロードなど自転車で走りやすい環境が整備されています。ビーチまで自転車で10分、そこで釣り糸をたらせば必ず釣れます(笑)。


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恵まれた環境ですね。
大西正之
もともと私はチームで動くことよりも個人で動くのが好きなのです。それで自転車も釣りも自分の好きな時に一人で楽しめるのが魅力です。それが今暮らしている場所では満喫できます。


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さて、話を数十年前に戻します。どんな小中高時代を過ごしましたか?
大西正之
中学は卓球部と図書部、高校はバレーボール部と写真部に所属し、まったりと過ごしていました。今もそうですが、あまり群れない性格で仲の良い数人と過ごすのが好きでしたね。それから勉強を頑張った記憶は全くありません(笑)。


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将来は何になろうと思っていましたか?
大西正之
子どもの頃はロクロを回す陶芸家に憧れていました。でも、憧れ過ぎて恐れ多くて始められない状態が続いており、いまだにやったことがありません。


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陶芸家も一人でできる仕事ですね。大西さんは自由人なのですね。
大西正之
陶芸家に憧れた後は、ハリウッド映画やMTVの映像に影響を受けて、「外国人相手に英語で会議するとか、かっこいいなあ」と夢見ていました。


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今まさにその夢を現実のものにしていますね。さて、夢を手にした大西さんが、今の大学生に学生の間にやっておくことをアドバイスするとしたら何と言いますか?
大西正之
まず、できるだけ早いうちに世界を知ってほしいです。


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世界に飛び出すということですか?
大西正之
そうです。日本にいてインターネットを通じて世界を知った気になったとしても、それは体験したことにはなりません。実体験による比較が重要なのです。


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具体的にどういうことですか?
大西正之
実際に体験することによって、物事をいろいろな角度から見ることができるようになります。例えば、この物体は丸か四角かと質問されて、ある人は丸、ある人は四角と答えたとしましょう。どちらが正しいか?となった時に、実はその物体は茶筒で、どの角度から見たかによって形は変わる、つまり両方の答えが正しいということなのです。


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なるほど。日本国内にいるだけでは多様な見方を習得するのは難しいということですね?
大西正之
多様な視点を習得することで人生の幅が広がります。日本国内から出ないで、「アメリカはこうらしい」とか「日本人はこういうところがある」と批評する人がいますが、私はそれを聞くと「実際にアメリカに行ったのか?本当に知っているのか?」と言いたくなりますね。ぜひ、自分で体験して、その上で幅の広い考え方を身に付けてほしいです。

大西正之
次に大学生に言いたいのは、全てのことに対して「なぜか?」と考えることを身に付けてほしいということです。


開志専門職大学
理由を考えてほしいということですね。
大西正之
そうです。一般的な日本の教育では、知識を一方的に受け取るだけで、それはいわば学生たちが思考停止させられているようなものだと私は思います。思考停止を防ぐためには、常に「これはどういうことだろう?」「なぜだろう?」と考える習慣を身に付けることです。ちりも積もれば山となる、ではないですが、そのような一人ひとりの小さな心掛けが積み重なって、日本の経済力や国力を高めていくことにつながると考えます。


開志専門職大学
早い時期に世界を知る、理由を考える習慣を身に付ける、この二つが大西さんからのアドバイスですか?
大西正之
まだあります。「60歳になった時に後悔しない生き方は何かを定義する」ことも大学生に言いたいです。


開志専門職大学
長期的展望に立った人生設計ということですね。
大西正之
実は私自身ができていなかったので、若いうちにやっておけば良かったと後悔していることでもあるのです。


開志専門職大学
そうなのですね。確かに若い時には意識しないかもしれないですね。ちなみに大西さんは60歳の時にどうなっていたいと考えているのですか?
大西正之
会社に許可をもらっているのですが、私はビジネスコンサルティングの副業をしています。本業の傍ら、60歳になった時にはその副業もさらに充実させたいと考えています。


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お仕事以外で力を入れていることはありますか?
大西正之
自分のやりたかったことは一通り実現できたので、次は「世界で活躍したい人を支援する活動」にも力を入れています。そして、実際、開志専門職大学をはじめ、日米の多くの教育機関で特別講義などの活動を行っています。


開志専門職大学
今、日本の若い人に向けても講義を行う中で、彼らについてどんな印象を抱いていますか?
大西正之
今の若い人はあらゆる面でとても真面目です。そして生まれた時からデジタル化された生活を送っているので、アナログ時代に生まれた私の世代とはベースが違うと感じさせられます。

大西正之
また、経営者世代に目を移すと、日本ではITや世界の動きについていけていない経営者の多さが非常に目に付きます。人工知能も、ますますなくてはならない存在になります。ですから、若い人には必要不可欠となる分野を極めることで、未来への可能性を切り開いてほしいです。


開志専門職大学
大西さんは次回の開志専門職大学の特別講義で、どのようなことをお話しされる予定ですか?
大西正之
いつの時代も、時代の流れに取り残される人は必ずいます。ITの流れ、世界経済の動き、セルフブランディングの進め方などをお伝えすることで、皆さんや、皆さんで作り上げる日本という国の将来に役立つお手伝いをしたいと思っています。


開志専門職大学
ありがとうございます。特別講義を楽しみにしています。
特別講師 大西正之氏
Microsoft
シニアディレクター
1968年大阪府生まれ。20歳でアメリカのカリフォルニア州に短期留学。その後、大阪商工会議所、製薬会社でシステム開発に携わった後、インターネット技術者に転身し、Cisco Systems, Inc.に転職。2007年にCisco Systemsの米国本社に転籍し、渡米。同社で世界各地のメンバーを統括するシニアマネージャー職を経て、20年9月より現職。カリフォルニア州オレンジ郡在住。

