シリコンバレーにも近く位置しておりIT系やコンピューター分野でも多数の大企業から出資を受け研究、開発を行っている。現在(2017年)まで104人以上のノーベル賞受賞者を輩出している。
世界大学ランキング
・アメリカ公立大学ランキング(総合):第2位(2019年)
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U.S. NEWS大学学部課程ランキング 2019
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著名な卒業生
アンドリュー・グローヴ - 米インテル社共同創業者
エリック・シュミット - 元米Google社会長兼CEO
スティーブ・ウォズニアック - 米アップル共同設立者
ポール・オッテリーニ - 米インテル 社CEO
里見治紀 - セガサミーホールディングス代表取締役社長
孫正義 - ソフトバンクグループ代表取締役社長
ロバート・マクナマラ - 米国国防長官/世界銀行総裁
ノーマン・ミネタ - 元米国運輸長官、日系米国人初の閣僚
牛尾治朗 - ウシオ電機創業者
北城恪太郎 - 元日本IBM代表取締役会長
緒方貞子 - 国際政治学者・元国連高等難民弁務官


開志専門職大学
野村先生が取り組まれている研究について教えてください。
野村泰紀
理論物理学という学問に取り組んでいるんですが、これはたとえば、宇宙の仕組みについて子どもの頃、「宇宙の果てや始まりはどうなっているんだろう」なんて不思議に思ったり、思わなかったりするじゃないですか。

野村泰紀
僕はそういうことを思う子で、しかも普通の人は大人になると忙しくて忘れちゃうけど(笑)、僕の場合はいまだにそれについて思いを巡らせているというわけです。


開志専門職大学
手強そうな、すごそうな学問ですね。
野村泰紀
すごいかどうかは分からないけど、身近なところでは携帯電話。あの仕組みも量子力学という物理学によるものです。

野村泰紀
昔だったら大きなスーパーコンピュータでもできなかった機能が、今はこんな小さな携帯電話に収まっているんです。


開志専門職大学
それも物理学のおかげ?
野村泰紀
そうですね。でも、分からないことはいまだに多くて、大きな問題としては、現代物理の基礎となる二つの理論を一緒にしようとすると、両方とも正しいはずなのに、うまくいかないということがあります。


開志専門職大学
どれとどれを一緒にしようとしているんですか?
野村泰紀
一つは何人もの天才の力で作り上げた量子力学。もう一つはアインシュタインがほぼ一人で作り上げた一般相対性理論ですね。アインシュタインは量子力学にも貢献した人ではあるのですが。


開志専門職大学
アインシュタインの相対性理論は有名ですね。
野村泰紀
アインシュタインは、方程式で宇宙を表しているのですが、彼は宇宙は静止していて、ずっとそのまま存在するものと考えていました。ところが、彼の方程式によると、宇宙は収縮するか、膨張することになってしまいます。


開志専門職大学
方程式とアインシュタインの考えが合わない?
野村泰紀
それでアインシュタインは、宇宙が静止しているという答えが出るように方程式を変えたのです。ところが数年後、宇宙は膨張しているということが分かりました。


開志専門職大学
ということは?
野村泰紀
彼の最初の方程式が合っていたことになります。彼の最初の直感の鋭さとともに、彼ほどの人間でも先入観にとらわれて間違うことがあるというエピソードです。


開志専門職大学
全体像が把握できないのですが、そういうことができたアインシュタインがすごいということは分かりました。宇宙は方程式で表せるんですね。
野村泰紀
はい、宇宙はほぼ物理学で説明できます。宇宙はもともと、ぎゅうぎゅうに密度の高い状態にありました。密度も高ければ温度も高かったのです。しかし、それが膨張に伴い薄まり冷えていって、現在見るような宇宙になったのです。



開志専門職大学
そういうことを調べたり、考えたり、計算したりするのが野村先生のお仕事なのですね。
野村泰紀
そうなんです。人間と動物の違いは、論理を使って物事の成り立ちをそうやって解明していけることです。


開志専門職大学
未解明だったことが「分かった! やった!」という瞬間ってあるのでしょうか?
野村泰紀
はい、自分が疑問に思っていることで誰も解明していないものというのがあって、それについて考え続けていると、ある時「あ、そういうことなのか」と腑に落ちる瞬間があります。

野村泰紀
「単にこうなっているだけじゃないか」と理解できるのです。そういう瞬間って、走っているときや風呂に入っているときに起こりがちですね(笑)。


開志専門職大学
どういうことについて考えついたんですか?
野村泰紀
たとえば、近年の観測には宇宙が1つじゃなくて、たくさんあることにしないと説明できないようなものがあります。これはどういう意味かということについてです。

野村泰紀
具体的には、量子力学では全てのことは確率的に起こる、言い方を換えれば、それぞれの結果に対応した世界があります。いわゆるパラレルワールドです。

野村泰紀
実は、この量子的パラレルワールドと、観測から示唆されるたくさんの宇宙というのは同じものであるということに気づきました。


開志専門職大学
世界はたくさんあるんですね。宇宙もたくさんある、と。
野村泰紀
はい、僕が提唱している量子的マルチバースという理論では、宇宙はパラレルにいくつもあるということです。


開志専門職大学
それに気づいたのはどういうときでした?
野村泰紀
2010年頃です。オフィスで寝ているときでしたね。その考え方に基づいて、いろいろチェックしてみたらうまくいきそうだとわかりました。



開志専門職大学
話を大学に移します。先生が教えているUCバークレーにはいつから?
野村泰紀
僕はポスドク(ポストドクター:博士研究員)として、2000年にバークレーに来ました。その後、シカゴにあるフェルミ国立研究所に移りました。そこの人たちは皆プロの研究者でした。

野村泰紀
僕としては、学生たちとやりとりする中で新たな発見や気づきがある方がいいと思い、またバークレーに戻ることにしました。


開志専門職大学
学生たちとやりとりする方が気づきがあるとは?
野村泰紀
学生が相手だと、彼らはかなり基本的なことでも遠慮なく素朴な疑問としてぶつけてくるんですね。それを受け止めることで「あれ、そうだな。確かにそうだ」って思えることが大事なんです。

野村泰紀
プロの研究者が相手だと、なかなかそういうやりとりは生まれません。あくまで僕個人の見解ですが(笑)。

野村泰紀
たとえば金融の専門家が集まっている場で、「お金とは何ですか」と改めて聞きませんよね。「そんな基本的なことを聞いてどうするんだ?」ということになります。しかし、「お金とは何だ?」と考えることで、新しいタイプの通貨が生まれたりもするのです。

野村泰紀
世の中が変わるときって、実は基本に立ち戻ることがきっかけになったりするということです。


開志専門職大学
なるほど。学生とそういうやりとりをしたいということで、UCバークレーに戻られたんですね。
野村泰紀
2003年に助教授として戻りました。


開志専門職大学
どんな大学か教えてください。
野村泰紀
主に研究を目的にした大学で、研究大学としては全米でもトップクラスです。在籍した研究者がノーベル賞を受賞した数は104人で、全米トップです。

野村泰紀
元素の発見もバークレーの研究者がかなり貢献しています。


開志専門職大学
元素周期表の元素ですか?
野村泰紀
そうです。16個の元素がバークレーで発見されていますね。


開志専門職大学
環境的にいかがですか?
野村泰紀
シリコンバレーに近いので、僕もGoogleの本社に招かれて量子力学や量子重力という理論について話したりもします。非常に恵まれた環境にあります。



開志専門職大学
野村先生は物理学者一筋でここまでこられたんですね?
野村泰紀
はい、でも人と話すのが好きなので宴会業とか、そちらの方に向いているかもしれないと思うこともあります(笑)。


開志専門職大学
どちらのご出身ですか?
野村泰紀
中学高校は横浜ですが、小学校は茨城の田んぼだらけの場所でした。ヤゴやザリガニをとって遊んでいました。


開志専門職大学
海外はいつから意識するようになったのですか?
野村泰紀
全く意識はしていなかったです。周りにもそういう(海外に行ったような)人はいなかったですし。大学時代まではパスポートも持っていませんでした。

野村泰紀
でも、結局、研究していると、多くの人は一度は海外に出るんですね。出た方がいろいろなことが広がります。


開志専門職大学
いろいろなこととは?
野村泰紀
海外に出ると、知識や人のレベル、特に層の厚さがすごい、ということを知って視野が広がるということです。僕の場合は、東京大学の大学院生のときに、後にハーバード大学の教授になった若手研究者がアメリカから東大に講師としてやってきたわけです。

野村泰紀
彼が僕にとっての唯一の(アメリカの研究者としての)サンプルだったのですが、話の内容からレベルから、「これはやばい」と思いました。


開志専門職大学
刺激を受けたのですね。
野村泰紀
はい、僕が案内役として一緒に東京タワーに行ったときのことです。


開志専門職大学
そのとき、野村先生はすでに英語を話せたのですか?
野村泰紀
論文は全て英語で読むので読み書きの問題はありませんでした。言葉としては知っていたので、とにかく一生懸命、英語で話しました。

野村泰紀
その後、指導教官に「一度海外に出なさい」と背中を押されました。その後押しがあったのと、案内をしたアメリカ人に刺激を受けたのと、さらに当時付き合っていた彼女と別れたことなど、それら全部が重なって、海外に飛び出ることになりました。


開志専門職大学
いろいろな条件が重なったのですね。
野村泰紀
それから、日本だと上下関係が厳しかったりしますよね。なんとかの先生よりなんとかの先生を先にしないといけないとかもあるじゃないですか。アメリカに行くと、そんな細かいことは気にしなくていいんじゃないか、という期待がありました。


開志専門職大学
期待通りでしたか?
野村泰紀
ところが、結構、アメリカでも関係性や順番はあるんですよね。えらい先生に対してもファーストネームで呼ぶ習慣がありますが、それに惑わされてはいけません(笑)。


開志専門職大学
そこは誤算でしたね。


開志専門職大学
さて、話を戻しましょう。指導教官の後押しを得て渡米した先で、最初にぶつかった壁は?
野村泰紀
壁? 最初はなかったですね。それよりも開放感が大き過ぎて、ヤッホーって感じでした。


開志専門職大学
ヤッホー!?
野村泰紀
とにかく周囲の人が、突拍子もないアイデアについて自由に喋っていることが最高だと感じました。その会話が純粋に楽しかったですね。

野村泰紀
ただし、若手の頃は、周囲は大事にしてくれるんですが、だんだん上に上がってくると、きっちりと成果を出さないといけないというプレッシャーが大きくなります。


開志専門職大学
助教授、准教授、教授と上がっていくと、それに伴って周りの目も厳しくなるということですね。

開志専門職大学
渡米以来、ずっとアメリカにいるわけですが、日本に戻る選択肢はなかったんですか?
野村泰紀
日本からのお誘いは何度もありました。2017年からは東京大学カブリ研究所で主任研究員を併任していますが、メインはバークレーです。


開志専門職大学
なぜ、本格的に日本に戻ろうとしなかったのですか?
野村泰紀
「(日本の大学から)教授の席が空いたから来ないか」と言われるとちょっとだけ考えましたけど、やはりアメリカの研究レベルの高さを思うと離れがたいんです。

野村泰紀
教科書に出ていたり、有名な論文で知られたりしている人にも普通に会えるんですよ、アメリカにいると。それがアメリカで働く醍醐味ですよね。

野村泰紀
それに人間は一人だけでは大したことはできません。環境ってとても大事だと思うんです。良い環境に身を置くことで良い影響を受けるのです。それは、僕のような研究者でなくても、何の仕事でも言えることだと思います。


開志専門職大学
トップクラスの研究者に普通に会えるんですね。それは野村先生がトップクラスの研究者だということも理由だと思いますが。さて、英語はどのように上達させたのですか?
野村泰紀
今でもだめです。専門分野はともかく、世間話になると相手の言っていることの半分くらいしか分かりません。


開志専門職大学
え! そうなんですか。
野村泰紀
英語習得に関してもし僕がアドバイスするとしたら、できなくても、自信がなくてもとにかくしゃべるように、と言いますね。とにかく下手でもしゃべるようにしなさいと。

野村泰紀
完璧になるまでしゃべりたくない、恥ずかしいなんて言っていたら永遠にしゃべれるようになりませんよ。「下手くそ上等」という気持ちでしゃべり続けてください。



開志専門職大学
「下手くそ上等」ですね(笑)。心がけます。次に、高校生の皆さんに大学での4年間の過ごし方についてアドバイスしていただけますか?
野村泰紀
その時にやれることをやった方がいいです。それがボランティアでもサークル活動でも。人との出会いってどんなときに生まれるか、誰にも分からないじゃないですか。


開志専門職大学
学業以外の活動からも貴重な出会いが生まれるかもしれませんしね。
野村泰紀
そうなんです。ただ、研究者になろうと思っているのなら、学業以外のことに取り組みながらも、心の底の(研究に向けた)情熱を消さないことです。情熱の火が消えてしまったらおしまいです。


開志専門職大学
野村先生の研究者としての最終的なゴールはノーベル賞ですか?
野村泰紀
研究を通じて何かに貢献したいという気持ちだけですね。賞をいただけるならありがたくいただきますけど、それを目標にはしません。人からの評価はあまり気にしません。


開志専門職大学
開志専門職大学での特別講義ではどのようなお話をしていただけますか?
野村泰紀
宇宙がいっぱいあるという話でも、僕のキャリアについてでも、ご希望通りの話をさせていただきます。


開志専門職大学
宇宙はいっぱいある、という話はぜひしていただきたいです。よろしくお願いします。
特別講師 野村泰紀氏
カリフォルニア大学バークレー校教授
東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究者
1974年神奈川県出身。東京大学理学部物理学科、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了後、2000年、カリフォルニア大学バークレー校ミラー研究員。2003年同校助教授、2007年同校准教授を経て2012年教授就任。2017年より東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究者を併任。2004年アメリカ合衆国エネルギー省OJIアワードなど受賞歴多数。著書に『マルチバース宇宙論 私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか(星海社)』ほか。
インタビュー:福田恵子
撮影・動画:梶浦政善

