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IT最先端、データ解析分野で 世界トップのソフトウエアを手がける 鷹松弘章氏

過去にはロータスとマイクロソフト、さらに現在はセールスフォース傘下にあるタブロー・ソフトウエアと、ITの有名企業でソフトウエア開発の経験を積んできた鷹松弘章さん。実は最初からIT業界志望ではなく、大学を卒業した時点で志望したコンサルティング会社の内定を勝ち取ることができなかったために、第2希望のIT業界に就職したのだそうです。以来30年近く第一線で活躍を続ける鷹松さんに、今後の働き方、海外から見えてくる日本についてのメッセージを頂きました。
データ解析を通して 人間の深層心理を読み解ける時代へ

開志専門職大学

鷹松さんはシリコンバレーと並ぶITの中心地、シアトルで働いているんですね。お仕事について教えてください。

鷹松弘章

現在はデータ解析を専門とするタブローソフトウエアで働いています。セールスフォースという巨大IT企業の傘下の会社で、タブローはデータ解析では世界でもトップのソフトウエアを手がけています。私はそこでソフトウエアを作る仕事をしています。

開志専門職大学

データ解析というのはどういうことをするのですか?

鷹松弘章

例えば、日本全国で商品を売っているのに、沖縄県だけ、ある月の売上が低かったとしましょう。その理由は何なのかを突き止めるために、沖縄の天気が悪かったからなのかとか、そこで何が起こっていたのかなどをさまざまなデータを集めてそれを分析するのです。

鷹松弘章

最近の新型コロナの例で言うと、アメリカのどの地域でどれだけの人が陽性で、さらにICU(集中治療室)に行って、亡くなってというようなデータも集めます。この時に重要なのは母数との割合です。何人の人口に対して何人なのか、ということを明らかにしないといけません。日本での報道を見ていると、いまだに「東京都の感染者何人、愛知県の感染者何人」と母数と切り離して数字を発表しています。これだとデータ解析ができていないことになります。

開志専門職大学

今の社会はデータとは切り離して考えられないですね。鷹松さんのお仕事は大忙しなのでは?

鷹松弘章

大忙し(笑)。確かにそうですね。一説によると、キリストが誕生した西暦0年から2016年までのデータ量を、2017年のデータ量が1年で超えてしまったそうです。それは確かに皆が携帯を持ったりPCを持ったりしているわけで、当然の流れですね。

開志専門職大学

これからもデータ活用はどんどん増えていくのでしょうね。

鷹松弘章

これからはデータを基に、人間の深層心理を読む方向に進んでいきます。

開志専門職大学

どういうことですか?

鷹松弘章

簡単な例で言うと、インターネットで「本棚」を検索したとしましょう。そうするとその後、続々と本棚に関する広告が登場してくるはずです。その人が何を求めているのか、何を探しているのかを、データをチェックしている側が見つけて、それにマッチした広告を出してくるわけです。

製品開発は家族にも言えない秘密プロジェクト 世の中で広く使われることで苦労が報われる

開志専門職大学

ところで、鷹松さんはタブローに移る前はマイクロソフトで働いていたんですよね?

鷹松弘章

はい、私は高校卒業後にカナダに留学しまして、新卒でロータスというIT企業に日本で就職しました。その後、日本のマイクロソフトに転職、さらに2001年に米国本社に応募し直して、その年の6月にシアトルに移りました。

開志専門職大学

ITの仕事を志望したのはなぜですか?

鷹松弘章

贅沢に聞こえるかもしれませんが、実は最初からやりたかった仕事ではありませんでした。本当は大学を出た後にコンサルティング会社か会計事務所に就職したかったんですが、ことごとく落ちてしまったんです。それで、第二志望の業界のITで受かった会社に入社しました。

開志専門職大学

それは意外です。

鷹松弘章

でもコンピュータ自体は昔から得意でした。小学生の時からコンピュータのプログラミングをしていたし、趣味の範囲で取り組んでいました。

鷹松弘章

新卒の時は、後に転職したマイクロソフトにも受かったんですよ。でも30年近く前ですから、当時の私は今みたいにIT企業が世界を制するとは思ってもいませんでした。(アップルの)スティーブ・ジョブスや(マイクロソフトの)ビル・ゲイツなんて変人扱いされていました(笑)。

開志専門職大学

それでも今はITの時代になったわけですから、結果的には第一志望の業界に合格しなくて良かったのかもしれないですね(笑)。

鷹松弘章

そうですね、良かったんだと思います。それにこの仕事をしていると、自分が手がけた製品が多くの人に使われているのを見るたび、大きな充実感を得られます。

開志専門職大学

マイクロソフトのWindows(ウィンドウズ)なんて世界中の人が使っていますよね。

鷹松弘章

開発するまでは苦労の連続ですが、世の中に製品が出た瞬間に手応えを感じることができます。以前に手がけたマイクロソフトのラップトップなどは、開発中は秘密のプロジェクトだったので家族にも誰にもそのことを言えませんでした。

開志専門職大学

でも、発売された瞬間にそれまでの苦労が報われるのですね。

鷹松弘章

そうです。今もタブローで開発に携わっているプロジェクトについては秘密なんです。

コロナ禍以降、完全な在宅勤務に移行 スタッフにはハワイに引っ越した人も

開志専門職大学

では、秘密のプロジェクト以外で、2020年以降の仕事面でのニュース、大きな変化についてお聞かせください。

鷹松弘章

タブローは、パンデミック(新型コロナによる感染拡大)になってすぐに会社の建物を立ち入り禁止にしました。そして現在は完全な在宅勤務に切り替わりました。永遠にです。

開志専門職大学

もう、元には戻らないということですか?

鷹松弘章

はい、チームの会議も全部オンラインです。仕事以外では屋外のレストランでスタッフとランチをする機会はありましたが、全員でオフィスに戻ることはないですね。それでスタッフは(シアトルから)続々と引っ越して行きました(笑)。

開志専門職大学

通勤の必要がないからですね?

鷹松弘章

ええ、ハワイに引っ越した人もいます。うちの会社は、全社で規則を決めるのではなく、一緒に仕事をするチームごとに決めなさいという方針を採っています。だから、チームで問題なければ、ある人はハワイへ、ある人はテキサスへ、また別の人は島に引っ越したんです。

開志専門職大学

鷹松さんもどこかに引っ越すのですか?

鷹松弘章

うちもそろそろタイミング的には、息子が高校のシニア(最終学年)なので、来年以降は自由かなという感じですが、妻はシアトルが好きだと言うので、しばらくは今の所に残るでしょうね。僕がパイロットの免許を持っているので、どこにでも思い立ったら移動もできますしね。

開志専門職大学

それにしてもタブローは本当に自由な会社なのですね。

鷹松弘章

実はパンデミックになるずっと前から、僕は会社に属しながらフリーランスのような働き方ができたらいいなと思っていました。いつどこにいてもいいという自由な働き方に憧れていたんです。それが、期せずしてパンデミックが機会となって実現した形ですね。

留学当初は言葉と文化の関係性が理解できず失敗の連続 人は海外に出ることで気付き、成長できる

開志専門職大学

さて、高校卒業後にカナダに留学したご経験をお持ちですが、なぜ海外に行こうと思ったのですか?

鷹松弘章

海外志向はもともと父と母の影響が大きいです。母は英語を教えていまして、父は『ニューズウィーク』に40年近く勤務していました。僕自身、日本を狭く感じていたんですね。将来は国連の高等弁務官になれたらかっこいいなと憧れていました。大学は競技スキーの選手としてスポーツ推薦を目指していたのですが、けがで断念。それで、突然、海外留学を思い立ち、カナダに渡りました。1990年でしたね。

開志専門職大学

留学当初、英語では苦労されましたか?

鷹松弘章

英語自体も最初は苦手でしたけど、むしろ、言葉と文化がつながっているということを理解していなくて失敗しました。つまり、言っていいことと悪いことが国によっては違うという意味です。

開志専門職大学

どんな失敗ですか?

鷹松弘章

当時の僕は日本での感覚をそのまま引きずっていて、カナダでも気軽に相手の血液型を聞くなどしていたわけです。

開志専門職大学

それが失敗なのですか?

鷹松弘章

日本では普通に血液型を聞きますよね。でも海外では、人の体に関係する血液について聞かれることを気持ち悪いと受け取られます。しかも、自分の血液型を知らない人が多いんです。さらに、血液型で性格を判断するなんてこともとんでもないと思われますよね。だから、最初、相手に血液型を聞きまくって失敗しました。変な人だと思われていました(笑)。

開志専門職大学

海外に出てみないと分からないことですね。

鷹松弘章

海外に出ることの本当の意味って、一人ひとりの成長のためだと思うんです。(海外では)違う価値観に触れて、人間性が鍛錬されます。人間って死ぬまで成長するはずです。海外に出て日本という画一的な価値観から離れ、いろいろな新しいことに挑戦して、そして人間性を磨く、それが海外に出る意味ではないでしょうか。

開志専門職大学

鷹松さんはYouTube動画で、日本の若者たちに海外からのメッセージを発信しているんですね。

鷹松弘章

「いろんな考え方があるんだよ」ということを日本の人に気付いてほしいという気持ちで、動画を通じてメッセージを送っています。

開志専門職大学

それでは、日本の高校生に向けて、大学時代に経験しておいた方がいいことをアドバイスするとしたら何と言いますか?

鷹松弘章

旅行でも何でもいいので、日本以外の国を体験しておこうと言いたいです。

開志専門職大学

旅行や短期滞在でもいいのですか?

鷹松弘章

問題は日本以外のことを知らないということです。人々が日本の中のことしか興味がなく過ごしていたら、世界の中で日本は置き去りにされてしまいます。時間の流れは誰にとっても一定ではないんです。

開志専門職大学

つまり、海外ではすごく速いスピードで進んでいるということでしょうか?

鷹松弘章

このままだと日本が置いていかれてしまうかもしれないということに、皆さんには大学の間に気付いてほしいです。そして、日本国内にいても、外国人と関わってみてほしいですね。そのような出会いがきっかけとなり、価値観が醸成されていくものだと思います。

「安心社会」の日本と「信頼社会」のアメリカ このままでは日本は世界から取り残される

開志専門職大学

さて、開志専門職大学の特別講義ではどのようなことをお話しいただけますか?

鷹松弘章

そうですね、これからの企業や仕事がどのような方向に進むのか、また、社会活動が社会とどのように結び付いているのかといったことについて話そうと思います。

開志専門職大学

日本と海外との比較のお話もされますか?

鷹松弘章

はい、アメリカは「信頼社会」であり、日本は「安心社会」であるということについて説明します。信頼社会は他者を信頼すると同時に自らがリスクを冒すことも含めて成立するものです。他方、安心社会は自分たちだけが安心できる社会です。

開志専門職大学

どういうことでしょうか?

鷹松弘章

東日本大震災の時のことを例に出しましょう。被災者たちは食料の配給の列にきれいに並んでいましたよね。当時、私はアメリカのマイクロソフトに勤務していまして、アメリカ人の同僚に「あそこまできれいに並ぶものなのか?」と言われました。これは「素晴らしい」という意味ではなくて、皆が平等に並ぶのではなく、最も食料を必要としている小さな子どもたちや老人たちを先に行かせるとか、列がたとえゴチャゴチャになったとしても優先されるべき人のことを配慮すべきではないかという意味です。

開志専門職大学

でも、あえてそれを提案する日本人は少ないかもしれないですね。

鷹松弘章

日本は「(人と違う意見を)言い出せない社会」です。でも、大切なのはどういう社会にしたいか、ということです。

開志専門職大学

そのことを聞いて目からウロコが落ちました。世界の中で日本が取り残されないようにするためにも、特別講義では学生たちに向けてぜひ熱いメッセージをお願い致します。今日はありがとうございました。

特別講師 鷹松弘章氏

高校卒業後にカナダに留学し、カナダの大学を卒業後に日本でロータスに就職。日本マイクロソフトからアメリカ本社の主席開発マネージャーを経て2017年、タブロー・ソフトウエアに転職。シニアマネージャーを経て2021年9月現在はディレクター・オブ・エンジニアリング。著書に『世界基準の子育てのルール』がある。米ワシントン州シアトル近郊在住。

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