

開志専門職大学
比留間さんのお仕事について教えてください。
比留間純一
キヤノンで、システムエンジニアとして、プリンターと複合機の開発に携わっています。

比留間純一
プリンターはご存知の通り、印刷をする機械。複合機というのは、プリンターにコピーやファックス、スキャン機能を集約した機械のことを指します。


開志専門職大学
コンビニなどに置かれているコピー機を複合機というのですね。

開志専門職大学
具体的にはどういう開発に携わっているのですか?
比留間純一
私が今、担当しているのはプリンター機能のテストです。

比留間純一
テストは主に2種類あって、一つが、プリントしたいものがきちんとプリントできるかを確認する「機能テスト」。もう一つは、例えば1分間で30ページのプリントができる機械がちゃんとそのように作動しているかなどを確認する「性能テスト」です。

比留間純一
また、プリンターや複合機に新機能を追加したり、変更を加えたりしたことで、これまで動いていた機能が動かなくなっていないかを確認するテストなども担当しています。

比留間純一
テストにあたって人の手を動かさなくてもいいように、テストを自動化するといったことも仕事の一つです。


開志専門職大学
一言で「開発に携わる」と言っても、いろいろな仕事があるんですね。
比留間純一
はい。開発にトラブルはつきものなので、一つひとつ改善していって、不安定だったものが安定した時は、「よし!」と思います。


開志専門職大学
そこがやりがいでもありますか?
比留間純一
そうですね。業務という点では、意図した通りに作動させられた時に達成感があります。

比留間純一
ただ、やりがいといったら、やはり、多くの人の役に立つシステムに携わっていることだと思います。

比留間純一
キヤノンというとカメラの印象が大きいと思いますが、売上で見るとプリンター・複合機の事業部はカメラ事業部の3倍あるんです。2020年の売上実績は1兆8044億円でした。


開志専門職大学
へー! それは規模が大きくてやりがいがありそうです!

開志専門職大学
キヤノンには新卒で入ったのですか?
比留間純一
いえ。大学を出てすぐに入ったのはソフトウエア会社です。そこでは、NTTドコモの携帯電話に関わるサービスに携わっていました。

比留間純一
分かりやすいところでいうと、My Docomoというユーザー専用サイトの個人情報を設定する機能などを作ったり、災害用伝言板を作ったりしました。


開志専門職大学
それもまたものすごくたくさんの人に役立っているサービスですね。

開志専門職大学
大学時代からそういったエンジニア系のお仕事をしたいと考えていたのですか?
比留間純一
そうです、と言えたらいいのですが、実はそうではなくて。

比留間純一
大学では物理学を学んだのですが、社会に出て何をやりたいか、何ができるかが分からなかったので、就職活動では時間の許す限り、いろいろな業界の、さまざまな会社に足を運びました。

比留間純一
たくさん見て回れば、何か見つかるかもしれないと思ったんです。


開志専門職大学
そうして、たくさん見て回る中で、システムエンジニア、ソフトウエア開発に興味を持ったのですね?
比留間純一
私が就職活動をした23年前は、就職氷河期と言われる時で、入りたい会社に入れるという状況ではありませんでした。

比留間純一
そんな中で、就職活動を続けるうち、「頼れるのは会社ではなく自分なんだ」という意識が芽生えました。時代的に「手に職を付ける」ということがキーワードでもありました。

比留間純一
ソフトウエア開発は、「手に職を付ける」というイメージと合致したんです。

比留間純一
もちろん、私は、コンピューターは全く未経験でしたから、「手に職」と言えるような技術をその時は持ち合わせていません。でも、当時のソフトウエア会社はたくさんの人を雇用しようとしていて未経験者でも内定を出してくれました。

比留間純一
この先、自分の力をどう伸ばしていけるか、ソフトウエア開発という分野なら、自身の努力と才能次第だと思えたんです。


開志専門職大学
それから22年続けてこられたということは、実際にご自身の努力と才能で、力を伸ばしてこられたということですね。
比留間純一
実を言うと最初の会社に入った時はキーボードもまともに打てなかったんですよ。

比留間純一
そこから、1年目はソフトウエア開発のテストという工程を、3年目からはコーディングや設計を、4年目からはシステムをどのように構築するかを策定する「仕様策定」を、というふうに、自分ができる作業を増やしていきました。

比留間純一
もちろん、一人ではなく、会社のプロジェクトで、誰かしらサポートをしてくれる人がいたからできたことでもあります。


開志専門職大学
そのソフトウエア会社からキヤノンに転職したのは、どういった理由からですか?
比留間純一
ソフトウエアの会社は、「こういうシステムを作ってほしい」という注文に応えるのが仕事でした。言い方を変えると、受け身なんです。

比留間純一
もちろん、そこにも面白みはありますし、学ぶことがたくさんありましたが、およそ8年勤めて、この先、さらに自分にできることを増やすためには、「どういうシステムを作るか」といった企画から携われるようになりたかったんです。

比留間純一
業界では「上流工程」と言われるのですが、それはソフトウエア会社ではできないことだったので、それができるキヤノンに転職しました。


開志専門職大学
最初からプリンター事業が希望だったのですか?
比留間純一
どの製品かというところにはこだわりはありませんでした。私の場合、製品のジャンルというよりは技術、どんなスキルを身に付けられるかが大事なので、「上流工程」に関わる経験ができればどの製品でも歓迎でした。


開志専門職大学
お話を伺っていると、比留間さんはご自身のレベルアップを目指して努力される方という印象を受けます。学生時代からそうだったのですか?
比留間純一
どうですかね…いろいろやってきたと言いましたけれど、これまでやってきたことは誰かの助けがあったからこそできたことでもあるんです。振り返ると、大学の時から人に助けられてきたかもしれません。

比留間純一
物理学科の授業はとても難しくて、教科書を読んでも分からないことが多かったので、できる人から教わって何とかやっていた、そんな学生時代でした。

比留間純一
ただ、おかげで、できる人というのは私には難しい教科書をちゃんと読める人、つまり本を読みこなして使いこなせる人なのだと知ったのが学生時代の学びかもしれません。独習する力、本を読むスキルを上げようと思うきっかけになりました。


開志専門職大学
本を読むスキル、それは時代、年齢に関わらず強みになりそうです。
比留間純一
私のようにもともとは本を読むことが苦手でも、トレーニングである程度、できるようになります。

比留間純一
私の場合、明治大学教授の齋藤孝さんの『読書力』という本を拠り所に、3色ボールペンを使うなど自分なりに試行錯誤して読書をするようになりました。

比留間純一
その頃は新書の最初の3ページを読んで本を閉じるくらいの「読書体力」しかありませんでしたが、今では大前研一さんが代表を務めるBBTというビジネススクールで読書講座を受けられるまでになりました。

比留間純一
今も本好きとは言えないかもしれませんが、気になる本は必ず買って手の届くところに置いておく「積ん読」をするようにしています。そうするとおのずと手に取って読むようになるからです。

比留間純一
ところで、BBTと言えば、私は、キヤノンで働きながらBBT大学で経営も学んだんです。


開志専門職大学
BBT大学というのは、オンラインでビジネスを学ぶ大学院ですね?
比留間純一
はい。キヤノンに入社して8年目から10年目にかけて、この先、さらに自分のスキルを増やすためには全く違う分野の学びが必要だと思って、入学したんです。

比留間純一
ビジネススクールなので、学んだのはもちろん経営のことなのですが、私個人としてはアウトプットのトレーニングができたことが大きな学びでした。


開志専門職大学
アウトプットのトレーニング、とはどういうことですか?
比留間純一
アウトプットというのは、自分の考えを整理して文章化する、数値をグラフにして情報を整理して、そこから読み取れることや要点は何かを文章化する、といったことです。

比留間純一
アウトプットをすると、自分の中で腑に落とすことができますし、記憶もしやすくもなります。

比留間純一
かつての自分にはそういったアウトプットの習慣はなかったのですが、大学院で学ぶことがアウトプットのトレーニングになり、今では習慣になって、仕事でとても役に立っています。

比留間純一
おそらく学校の勉強にもアウトプットは役立つと思います。今はSNSなどがありますから、学生の皆さんには、他の人に公開する前提でアウトプットとして書いてみることをお勧めしたいです。


開志専門職大学
特別講義では、どんなことをお話していただけますか?
比留間純一
一人のサラリーマンとして、22年のキャリアの中で、どういう活動をしてきたかをお話ししたいと思っています。

比留間純一
どういう決断をしてどういう方向に進んできたか? あるいはどういう方向に進まない決断をしてきたか?

比留間純一
システムエンジニアの、一つの具体的な事例として聞いてもらって、そこから何かを感じてもらえればと思っています。


開志専門職大学
システムエンジニアやソフトウエア開発に興味がない人でも大丈夫ですか?
比留間純一
そうですね。そうなるようにしたいです。ソフトウエア開発は技術系と言われますが、本質は雑誌編集と同じだと私は思っています。

比留間純一
雑誌編集もソフトウエア開発も、文字表現する作業があるという点は同じですし、文字表現に至るまでにさまざまな段取りで情報を整理していくという点も同じだと思うんです。


開志専門職大学
そんなふうに考えたことはなかったです…。将来やりたいことが決まってない場合、最初から分野を狭め過ぎず、いろいろな職業の方の経験談を聞くことは大事かもしれませんね。

開志専門職大学
最後に、学生にメッセージをいただけますか?
比留間純一
開志専門職大学のシラバスを拝見したのですが、ものすごく練られている、本当に実践的なカリキュラムだと感じました。

比留間純一
カリキュラムには、私が22年間、試行錯誤して、「これは学んでおいたほうがいい」と感じたことが全て詰まっているといっても過言でありません。

比留間純一
だから、4年間しっかり勉強したら、即、社会に出てすごい人材になれると思います。


開志専門職大学
それを伺って、なんだか、うれしいです。
比留間純一
あとは、その内容をいかに勉強して自分のものにできるか、が課題だと思います。


開志専門職大学
しっかり勉強するために何かアドバイスをいただけますか?
比留間純一
偉そうなことは言えませんが、自分の経験から効果があったことは3つあります。

比留間純一
一つは、勉強中に感じた疑問や違和感を話せるような相手を見つけること。話すことで、疑問や違和感をその場で解消でき、心に留めておく必要がなくなります。

比留間純一
もう一つは、「要は何を言いたいのか」を要約してみること。そうすることで自分の知識や理解を促進し、記憶に留めることができます。

比留間純一
最後の一つは、パワーポイントなどを使って図形で情報を整理すること。手間がかかりますが、癖付けできれば、パワポの作業で情報整理できた時の満足感が勝るようになり、作業が手間でなくなると思います。


開志専門職大学
他に、大学生のうちにやっておいた方がいいと思うことはありますか?
比留間純一
強いて言えば、英語、ですかね。

比留間純一
ソフトウエア開発では、インターネットの掲示板などに書かれた英語を読めた方が情報量が増えてスムーズに問題解決ができると言えますから。

比留間純一
今は無料の翻訳ソフトもありますから、そういったものを使いながら読めるくらいになっておけばいいと思います。大事なのは、苦手意識を持たないようにしておくことでしょうか。


開志専門職大学
今日、お話を伺って、システムエンジニア、ソフトウエア開発という仕事について、少し理解が深まった気がします。
比留間純一
ソフトウエアを作るというのは氷山の一角で、大切なこと、面白いところはそこだけではないんですよ。


開志専門職大学
それを感じることができました。特別講義も楽しみです。今日はありがとうございました。
特別講師 比留間 純一氏
キヤノン システムエンジニア
大学で物理学を学び、卒業後、ソフトウエア会社に就職。仕事を通してシステムの設計やコーディングを学び、NTTドコモのユーザー専用サイトMy Docomoの開発に携わる。30歳の時にキヤノンに転職し、プリンター/複合機の事業部で、組み込みアプリ開発、マーケティング、技術開発などを担当。また、働きながらBBT(ビジネスブレークスルー大学)で経営学を学ぶ。

