開志専門職大学
素晴らしい雰囲気のホテルですね。スタッフの方々の笑顔が印象的です。
開志専門職大学
三好さんはこちらのホテルの経営にいつから携わっているのでしょうか。
三好麻里
このホテル自体には30年の歴史がありますが、私が経営に携わったのは11年前からで、社長としては8年になります。
開志専門職大学
ホテル経営とはどのようなお仕事ですか?
三好麻里
ご滞在されるお客様、会議やイベントに来られるお客様たちに、いかに快適で心地良く「また来たい」と思って頂くか、
三好麻里
そのためにはお客様が求めておられるものを瞬時に判断し行動に移すことが出来るかの積み重ねでもあり、
三好麻里
またお客様と直接触れるスタッフの言葉や態度がホテルの印象につながり、ブランド力を上げたり下げたりする、とても生々しい「人間ビジネス」だと思います。
三好麻里
そのために私はマネジメントとして、社員をまずハッピーにするように心がけています。
三好麻里
社員がハッピーになれば、彼らもまたお客様をハッピーにすることができると思うからです。社員がハッピーでなければ、お客様にハッピーになっていただくことは難しいと思います。
三好麻里
ですから、いかに社員にハッピーに働いてもらうか、日々がその繰り返しだと言えます。
開志専門職大学
このホテルには何人の従業員の方がいらっしゃるのですか?
三好麻里
大体300名おります。出身国は34カ国に及びます。
開志専門職大学
最初からホテルのお仕事ではなかったのですか?
三好麻里
アメリカでは以前はニューヨークのマンハッタンにおりました。
三好麻里
5番街の中心地に大きなオフィスビルを所有していましたのでそれを管理する仕事をしていました。
三好麻里
ただ後半はニューヨークからロサンゼルスに出張ベースでホテル運営を見ておりまして、その後、正式にロサンゼルス勤務となり、現在に至るまで社長としてホテル経営をしております。
開志専門職大学
希望ではなかった?
三好麻里
はい、自分からの希望ではありませんでした。それからしばらくチャンレンジの期間が始まりました。
開志専門職大学
慣れないお仕事で苦労されたのですね。
三好麻里
仕事に対するアプローチが違うということです。ホテルは人をマネジメントしながら数字を管理していくというアプローチです。
三好麻里
最初は慣れないこともあり、失敗や後悔の連続でもありました。真っ暗なトンネルの中をただ歩いていたという感覚です。
三好麻里
とにかく、歩かないといけないと思いました。「答えが出なくても、考えながら歩く」という感じです。
三好麻里
あまりにも真っ暗過ぎて、どっちが出口か入り口かもわからなくなりましたがある時「たとえ間違って入り口に戻ったとしても、そこからまた出口に向かって歩き続ければいい」という気持ちになりました。
開志専門職大学
どうやってトンネルを抜け出したのでしょう。
三好麻里
今思えば結果、「苦難に対して向き合ったこと」「諦めなかったこと」だとは思いますが、
三好麻里
それには「ホテルの従業員たちからの精神的なサポート」が私を支え、それが「信頼」となり、「自信」に結び付き、
三好麻里
暗いトンネルを歩き続けることにも慣れた矢先に一つの光が向こうに見えてきたという感覚は今でも覚えています。
三好麻里
ある時私は腹をくくりました。それはホテルの従業員たちが「私に期待する事が何か」を理解したからです。
三好麻里
私の思いや態度が間違っていたと思ったからです。何て申し訳ない事をしていたのかと思いました。気が付かないということは時に罪だと思いました。
三好麻里
そこからです。あとは全力で走りました。何事も、最後は「人間関係」が全てに影響するという事を実感した瞬間でもありました。
三好麻里
当初は慣れない仕事で早くニューヨークに帰りたいとばかり思っていましたが、今では天職と思える程に変わりました。
三好麻里
借りていたレンタカーを返し、本格的に車を買ったその日から、私の本当の意味でのホテル経営が始まったのだと思います。
開志専門職大学
いつかニューヨークに帰るからレンタカーでいいと。
三好麻里
そうなんです。本当にダメでしたね。車を買うと決めた時の従業員たちの喜んだ顔は今でも忘れられません。車は彼らに選んでもらいました。私が腰掛のような姿勢で社員たちに本当に申し訳なかったと思いました。
三好麻里
トンネルを抜けてからと言うもの、従業員たちの頑張りが日に日にホテルの雰囲気まで変え、お客様まで変わり、結果全てが数字に結び付き8年連続で増収増益(売り上げも利益も増えること)の結果を生むことが出来ました。
開志専門職大学
どうやってホテルの雰囲気を変えることに成功したのでしょう。三好さんが経営する前と後では何が変わったのでしょうか?
三好麻里
社員たちが言うには、以前は業務の見直しを行わず「毎日同じことの繰り返し」で、新しいことにはチャレンジしていなかったようです。
三好麻里
今は、社員たちの「新しいことにチャレンジしよう」と言う気持ちと「高いモチベーション」を持つことで、自然にお客様への気配りが増し、最高のサービスをしたいという気持ちが自然に現れるようになったと感じています。
三好麻里
今では、すべてのスタッフが笑顔で仕事をしていると良くお客様からお褒めの言葉をいただきます。
開志専門職大学
心構えがいかに大事かというお話ですね。勉強になります。
開志専門職大学
それではその後、「この仕事でよかった」と実感したエピソードを教えてください。
三好麻里
オバマ大統領を当ホテルにお迎えしたことです。2016年でした。
三好麻里
緊張感がホテル中に漂いましたが、それでもいかに「快適な滞在」をして頂けるかに心を尽くしましたけれど、チェックアウトの際に大統領の側近にお礼のお手紙をお渡ししたんですね。
三好麻里
私としては、大統領ご本人に読まれることまでは期待していませんでした。
三好麻里
ただ日本人オーナーとして大統領のご滞在がとても栄誉なこと、一生の宝物になったことなど敬意と感謝をもってお礼をお伝えしたくて手紙を書きました。
三好麻里
間もなく外出していた私の携帯に電話が入り、大統領側近からホテルにお電話を頂いたというのです。
三好麻里
「今、飛行機でロサンゼルスを飛び立つところですが、オバマ大統領が手紙を読み、そして非常に快適な滞在だった、とコメントされました」ということを伝えてくれたのです。
三好麻里
大統領が一般人にこれ程の対応をされるという事を知り、感動と感激で一杯でした。
開志専門職大学
ホテルビジネス冥利に尽きますね。
三好麻里
英語で言うところのスピーチレス、まさに言葉にならないほどの達成感でした。一生の思い出になりました。
開志専門職大学
大統領にも満足していただけるような素晴らしいホテルの条件とは?
三好麻里
やはりホテルに対する信頼は勿論ですが、滞在中、お客様に何回WOW!と感動していただけるか、だと思います。
三好麻里
細かいディーテールの積み重ねですが、WOWファクター(感動させる要因)を増やしていくように努めています。
三好麻里
それを行うのはホテルの従業員です。ですから素晴らしいホテルスタッフが揃うことも条件になると思います。
開志専門職大学
具体的にWOWファクターとはどのようなことを指すのでしょうか?
三好麻里
お花のデコレーションや綺麗なお料理の盛り付けのWOWは勿論ですが、それだけではなく、ホテルで感じる雰囲気、さらにちょっとした心遣い、かける優しい言葉などがあれば、お客様が滞在中に感じて頂くWOWも増えるはずです。
開志専門職大学
ホテルの前は駐在員としてニューヨークでご活躍でしたが、もともとアメリカ志向だったのでしょうか?
三好麻里
そうです。アメリカに憧れていましたので、夏休みになると必ずアメリカに旅行に行きました。行く度に、いつかここで仕事がしたいと強く思うようにもなっていました。
三好麻里
ただ現実には難しく、せめて自分のお部屋や持ち物をアメリカにしたくて、旅行に行っては色々なものを買い、全てを「Made in USA」にして満足していた時期もありました。
開志専門職大学
なぜ不動産会社に就職されたのでしょう?
三好麻里
特にこだわりはありませんでした。当時はバブル全盛期で、比較的容易にどこにでも就職できたし、キャリア志向でもなかったので深く考えずに就職しました。
開志専門職大学
そして、アメリカで働くチャンスを狙っていたんですね。
三好麻里
でも不動産業界というのは男性社会ですし、まして女性が日本から海外で働く道筋というのは想定していないのでチャンスを狙うという事はなかったです。
三好麻里
私は女性営業マンの第1期生でしたけれど、同期の女性がどんどん辞めてしまって、私だけになってしまった時、やり尽くし感はあり、転職を目的に外資系企業を受けたりはしていました。
開志専門職大学
外資に転職すれば、アメリカに行けるかもしれないと?
三好麻里
ええ、それで会社に「転職しますので辞めます」と報告したら、「辞めるのは待ってほしい」と言われました。そして、ニューヨークで働くチャンスを頂きました。
三好麻里
願ってもないお話をいただいて、夢がかなった瞬間でした。
開志専門職大学
ついにニューヨークのキャリアウーマンですね。
三好麻里
いえいえ、そうではなくて、たまたま行かせてもらったということです。
開志専門職大学
新天地でのお仕事はどうでしたか?
三好麻里
夢が叶っているので、全てに感謝、全てが幸せでした。ローカルの方たちと一緒に働かせてもらって、最高に楽しかったですね。
開志専門職大学
大変だったり、苦労したりしたことは?
三好麻里
やはり最初の壁は英語でした。ニューヨーカーの英語は早いのと、俗語と言って学校で習ってないような英語が日常会話に出てくるので、
三好麻里
それまで自分はある程度できるつもりだったんですけど、何にも知らなかったのだと思い知らされました。
三好麻里
でも、それもまた面白いと思えましたね。知らないことがたくさんあるなら、これから学べることもたくさんあるのだと。
開志専門職大学
どうやって克服したのですか?
三好麻里
アメリカ人の友達がすぐにできたので、いつも一緒にいてニューヨーカーの英語を自然と習った事と、
三好麻里
マンハッタンの中を巡回するバスに乗って、目に飛び込んでくる看板の知らない単語をかたっぱしからメモして調べたりしました。
開志専門職大学
その後、ロサンゼルスの今のホテルに移ってきたのですね。それではアメリカで働くことの醍醐味とは何でしょうか。
三好麻里
アメリカは日本と違って自由に選択できる幅が広いと感じます。自分次第で何にでも、いつからでも挑戦する事ができる事です。
三好麻里
ただ自由であると同時に自己責任も伴います。また色々な国の人と一緒に働く事で他国を知り、自国を見直す機会にも恵まれます。
三好麻里
日本では考えられないような人たちにお会いする機会にも恵まれます。自由と責任の緊張感を背負う事で、同時に日本人としての誇りと責任も感じる事があります。
三好麻里
そういった事がどれほど人を成長させるかと感じます。そのことがアメリカの醍醐味ではないかと思います。私は緊張感さえも楽しみたいという気持ちです。
開志専門職大学
日本人としての強みは何でしょう。
三好麻里
これは私が経験してきたことですが、「私は日本人です」と言うと、興味を持たれる経験が何度もありました。
三好麻里
しかも年々「日本食ブーム」が強まり、日本に興味を持って頂く機会も増えたと感じます。つまり、日本人だというだけでそこから自然に会話が始まり「日本ブランド」が着実に世界に浸透している事も感じます。
三好麻里
おそらく、日本人の持つ勤勉さ、誠実さ、親切心も強みではないかと思います。日本人の持つ「信頼性」はある意味ブランドのようでもあります。
三好麻里
私自身もその日本人の誇りを汚すことのないようにしたいですね。
開志専門職大学
それでは今の高校生にメッセージをいただけますか?
三好麻里
例えば「将来、何になりたいのかわからない」としても、問題はないと思います。明確な目標があればそれに向かって走りやすいのですが、ただ焦ることはありません。
三好麻里
「答えが見つかっていない」ということ自体が、今のあなたの答えなのです。
三好麻里
見つかっていないなら、これから探せばいいし、きっとあなたの目を覚ましてくれるような刺激的な人に出会うはずです。
三好麻里
その為にいろんな人に出会うことで影響を受けたり、学んで考えたりする、そのうちに明確な目標が見つかるはずです。そしてアンテナだけは常に立てておくべきだと思います。
三好麻里
チャンスはいつやって来るかわかりません。自分のタイミングではない時にやって来るかも知れません。チャンスが来たのに気が付かないままだと隣の人にそのチャンスは取られてしまいます。要は何事も敏感である事です。
三好麻里
また人生、自分次第でいつからでもやり直すことが出来ます。ただいつの時代も「人を思いやる気持ちや人に対する感謝の気持ち」だけは持ち続けるべきだと思います。
三好麻里
そして何事も「諦めないこと」です。挫折や失敗は必ずしも人生の終わりではありません。
三好麻里
痛い思いをした人は必ずそこから何かを学び、成長することができます。ネバーギブアップ、諦めなければ終わりはないのですから。長い人生、答えは今ではないはずです。
開志専門職大学
日本の若い人に接する機会はありますか?
三好麻里
2013年に、日本のヴィラフォンテーヌの副社長に就任しまして、2014年に社長に就任しました。それで、社員の採用時の最終面接には同席していました。
開志専門職大学
面接でどのようなことを感じたのでしょう。
三好麻里
とても可愛くて優秀ですね。でも、多くの学生はマニュアル通りの話が多く、米国に比べると少し個性に欠けるところがあります。
三好麻里
新卒の場合、社会に出た事がない学生さんたちなので多くは望みませんが、逆に面接時にはその人の個性を見抜き、採用後の研修を経てどれくらい成長するだろうか、どれだけ才能を伸ばしてあげられるだろうか?と言う目で見ています。
三好麻里
それでも中には自分の意見や失敗から学んだ事を話す学生さんもいます。そうすると素晴らしい意見を持っていることがわかります。将来がとても楽しみになります。
三好麻里
もっと自信を持って自分の意見を言うようにしたらいいと思いますね。
開志専門職大学
おとなしいのですね。
三好麻里
そうですね。それから、挨拶ですね。ある人が「上司に挨拶しても返してくれないから挨拶をしない」と言いました。
三好麻里
私は「返って来なくても、あなたはちゃんと言いなさい。相手が返事をしてくれないからって、自分の人格を曲げる必要などありません。たとえ一方的でも言い続けなさい」とアドバイスしました。
開志専門職大学
確かにおっしゃる通りですね。
開志専門職大学
さて、三好さんご自身は、以前はなんとなく不動産会社に入社されて、ホテルへの異動にも最初は戸惑ったということですが、今はホテルの仕事に生きがいを感じていらっしゃるように見えます。
三好麻里
はい、天職だと感じています。そして今、私はこのホテルを「他にはないサービス」「他にはいないスタッフ」とお客様に感じて頂けるような、そういう「愛されるホテル」、
三好麻里
そして従業員たちから「このホテルで働けて幸せだ」「自分たちは愛されている」と感じてもらえる職場環境を提供する努力を続けたいと思っております。
開志専門職大学
三好さんの仕事の上での目標は?
三好麻里
ホテルの経営の先には、人材育成、つまり教育にも携わりたいという希望を持っています。現従業員達も含め、ホスピタリティに関することを若い人に教えられたらいいなと思います。
三好麻里
内容は日本式とアメリカ式の両方のいいところを取り入れてインターナショナルな視点で構成したいです。
開志専門職大学
最後に開志専門職大学での特別講師としてどのようなことを学生に教えたい、ご自分なら教えられると思いますか?
三好麻里
私の経験から得た「諦めないこと、失敗を恐れないこと」についてお話ししたいと思います。「継続することの意味」も伝えたいです。
三好麻里
そつなくこなす、のではなくて、失敗してもいい、とにかく新しい事に挑戦して、視野を広めその人しかできないことを突き詰めていくこと、自信を持ってぶつかっていくことについてお話ししたいです。
三好麻里
それから、どんなに学校の成績が良くても、仕事ができても、最後は人間性がとっても重要だということもお伝えしたいです。海外での経験を通じ、言葉も生活文化も違う中で、唯一共通する点はこの「人間性の重要さ」です。
三好麻里
人としての真心や誠意の大切さですね。つまりは「本物であること」です。
開志専門職大学
三好さんとお話ししていると「誠意」や「真心」に満ちた人柄が伝わってきます。特別講義を楽しみにしています。是非、本物のホスピタリティについてご教授願います。
特別講師 三好麻里氏
東京都出身。住友不動産に入社後1998年住友不動産ニューヨークインクに勤務。2008年にロサンゼルスのセンチュリーシティにあるインターコンチネンタルホテルの経営に携わるようになり、2010年末には本格的にロサンゼルスに赴任、2011年1月に住友不動産USAの社長に就任し、引き続きインターコンチネンタルホテルの責任者を現在まで務める。日本では17軒のホテルを展開する住友不動産ヴィラフォンテーヌ株式会社の副社長・社長を2013年から2017年まで兼務、現在エグゼクティブチェアマン・会長。ロサンゼルス在住。
インタビュー:福田恵子
撮影:鈴木香織
動画:ジーン渋谷