オーラルヒストリー・片岡義朗氏(元・アサツー ディ・ケイ)第9回 | 【公式】開志専門職大学|ビジネス・起業・IoT・データサイエンス・アニメ・マンガのプロになる。

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オーラルヒストリー・片岡義朗氏(元・アサツー ディ・ケイ)第9回

9、キャスティングという仕事

(第8回【『遊☆戯☆王』2度目のアニメ化】はこちら

 

-- 今キャスティングの話が出ましたけど、『るろうに剣心』のときにも、主演に涼風真世さんを持ってきていますね。

 

片岡 あれも僕の仕事です。実は和月先生からは、ある声優でやってくれって指名があったんですよ。僕は、その人をよく知っているけど、剣心だと芝居がベタ過ぎて、かっこ悪いんです。パターンにはまっちゃってるみたいな。
 演劇だと、大劇場だったら目の前にお客さんが2000人ぐらいいるし、ちっちゃい所でも100人はいる前でやって反応が来ますよね。でも声優さんの悲しいところは、金魚鉢の中でやってることで、かっこいいセリフを吐くときにワンパターンになっちゃうんですよ。これで、このセリフの言い方が絶対かっこ良く聞こえるはずだっていう、必ずいつもあるパターンになるんです。それは本当の演技じゃないなって。もちろん放送を何人かで見ながら、どういう反応を周りがしてるかみたいなことを、研究熱心な人はするんですけどね。
 でも、かっこ良さを追求するのは緋村剣心役には必要だと思ったので、宝塚の男役だなと。見え切り芝居のかっこ良さは、歌舞伎か宝塚のお約束ですよね。それに緋村剣心も「およ」っていう崩れる芝居があるんですよ。そういうことも含めて、宝塚の中でかわいく見える男役を頼んだほうがいいかなと思って、何人かの宝塚の男役のトップの人を並べてみた。それで僕はそんなに詳しくないので、これこれこういう条件でって三ツ矢雄二に聞いたら、「それは涼風真世さんがベストだ」って。涼風さんは宝塚を辞めたばっかりだったんですよ。大きな事務所に所属していなかったので直接頼みに行って、「オーディションを受けてほしい」って言ったんです。
 と言ってもマイクテストのつもりでした。声優のオーディションって、同じ役を10人ぐらい並べておいて、一人一人スタジオに呼んで同じセリフを言ってもらうんだけど、まさか涼風さんにそれは失礼なので、プロの声優さんを何人か用意して、「掛け合いのせりふを言わせますから、やりとりの様子をマイクテストと称してオーディションをやらしてください」と言ったら「いいですよ」って出て来てくれたんです。
 それで音響監督は三ツ矢に頼んだんですよ。それと、SPE・ビジュアルワークスも制作スタッフもよくアフレコが分からなかったから、古橋監督にも頼んだ。普通の音響監督って技術系、ミキサーから来る人が多いんですよ。だから役者に対する演技指導が本当にきちんと丁寧に、特に初心者にできる人を、僕はあまり知らなかったので、古橋さんと三ツ矢に頼んで、清水賢治さんにも来てもらって、それで涼風さんに最初のワンシークエンスの芝居をやってもらったら、先に清水さんが「片岡さん、これでいいですよ。OK」って言って、古橋さんも「OKです」ってなって、涼風さんに決まったんですよね。
 でも、和月伸宏先生は、いたく気に入らなかったみたいです。どうしても自分が推薦する声優にやらせたかったらしいんですよ。でも僕のプロデューサーとしての自分の中の原則は、「この人はこの世界の人だ」みたいな壁をつくらないこと。
 プロデューサーの仕事は、あらゆる作品をベストにするために、プロデューサーの目で見て誰が最適かっていうスタッフを、制作会社とか人間関係とかを無視して集めてくることだと思うんですよ。でもそういう発想する人が、とても少ない。さっきの後藤隆幸さんの話もそうですけど、キャラクターデザインにしても、女性のマンガ家が描いた作品で頼むんだったらこの人とか、あるいは等身の高い、ディフォルメされてないような7等身、8等身の普通の人間のキャラデだったら、この人だなとか、それぞれ僕の引き出しに、1人ずつの名前が入ってるんですよ。でも最近は、難しくなっちゃいましたね。みんなものすごく忙しいから、この人と思った人が塞がっちゃってることが多いんです。
 しかも最近の原作者さんは皆さん、特にアニメのことをよくご存じです。でも実際にアフレコスタジオでどういう演技をしてるか、誰がどういう演技指導をして、実際の完パケの音声が出来上がってるか、みたいな過程までは分からないですよね。その現場をたくさん見てきていると、役者ごとに向き不向きがあるんですよ。向き不向きを見定めて、この役柄で誰が最高の演技ができるかっていうのは、プロデューサーの大事な仕事の一つだと思ってます。だから声優に関しては3人の先生と大議論しましたよ。和月伸宏先生の涼風真世さんと、高橋和希先生の風間俊介君と、秋本治先生のラサール石井さんです。3人とも声優以外の人を持ってきた時です。
 原作者の先生は、アニメは見ることあるでしょうね、あんまり外に出ない職業ですから。テレビを見ていて、この人がいいとかって思うじゃないですか。でもプロデューサーは、もっとワイドスプレッドで、誰がいいんだろうかって見てるんです。風間俊介君のときは、実際に高橋和希先生がアフレコスタジオに来てみたら、僕の言ってることがよく分かってくれた。原作者のマンガ家の先生の感受性の鋭さが分かりますよね。スタジオで見たその日のうちに風間君のことが気に入って、「この子がいい」って。ラサール石井さんも、『こち亀』の舞台稽古初日に予告なく秋本先生が来て、そのときラサールさんと初対面だったんですけど、それで仲良くなって、ホットラインが成立したみたいです。

 

-- キャスティングで言えば、ネルケプランニングともずっとお仕事をされていますね。

 

片岡 ネルケプランニングについて言うなら、僕はアニメに声優専業以外の人たちもキャスティングしたほうがいい、することがあっていいと考えてるんですね。声優専業の人たちだけにキャスティングを限るっていう仕組み、壁をつくってるのは、おかしいっていう意見だったんです。これは日本俳優連合の外画・動画部会っていう声優さんの組合と、ものすごく対立して怒られました。でもプロデューサーは、作品の価値を最大化するのが仕事なので、そのために声優さんの中からしかキャスティングできないのはおかしいでしょ。宮崎駿監督も僕と同じ意見ですよね。宮崎監督の作品も声優さん専業の人は使うけど、それ以外の発想でもキャスティングしてます。宮崎監督ぐらい大物だと、声優さん以外をキャスティングしても、文句を言えないんですよ。でも僕だと、声優さん以外の俳優業をしてる人やタレントをキャスティングするのに協力してもらおうとしても、例えば青二プロでは、それはできない。青二プロはいい会社で、僕はずっと仕事してるんですけども、真っ向から日本俳優連合と対立するようなことはできないじゃないですか。
 そのために出てくるのがネルケプランニングの松田誠君なんです。松田君は『聖闘士星矢』のミュージカルのときにアルバイトで来てたんですけど、すごい優秀で、彼に「俳優を声優にキャスティングしたいんで、会社つくってよ」って頼んだんですよ。個人には発注できないですから、アサツーから発注するための会社つくって、そこで声優以外の俳優、声優を含めてもいいんですけど、アニメに出てくれる人を集めてよって。それで松田君はネルケプランニングをつくって、舞台系の俳優さんとか、映画系の俳優さんを、どんどん送り込んできてくれたんです。例えば、津田健次郎君とか宮野真守君が、まさにそうですよ。津田くんは映画業界の俳優で、あだち充先生の『H2』というマンガをアニメ化したとき、彼に体の太いキャッチャー役の声をお願いしたんですよ。津田君の声って太くて渋い声なんで、ハマりましたね。そしたら今や朝ドラに出てるわけですから、大スターじゃないですか。
 だからそういうふうに壁をつくることが、いかに人の能力の発展を阻害して、かつ、作品の価値を最大化させることに障害となっているかっていうことなんですよ。壁を越えて声優やったら、そこで実力認められて、テレビドラマでも実写映画でもたくさん出てる。彼はもともと、映画やりたくてしょうがなかったんですよ。今は自分で映画作るとこまで行ってますからね。そういうことが、ネルケプランニングにキャスティング協力してもらった成果なんですよ。

(了)