8、『遊☆戯☆王』2度目のアニメ化
(第7回【少女向けアニメと2.5次元舞台へのアプローチ】はこちら)
-- いろいろとうかかがっていると、90年代にテレビアニメの作り方が、かなり多元化していますね。
片岡 それはアサツーだからできたことだと思いますよ。さっき言ったように、圧倒的な支配力だったんですよ。スポンサーはバンダイさんとナムコさん、セガさんがお得意様だし、タカラさん、トミーさんもいた。あらゆるお得意様、つまり青少年向けの商品を作ってる会社は、アサツーを広告代理店として使うことが必要だったんですね。もちろん電通が好きな方もいますし、最大手としての力はあるんですけども、子どもマーケットに関しては、圧倒的にアサツーのほうが強かったんですよ。そのいい例が『遊☆戯☆王』です。まず1998年の4月から半年間、テレビ朝日で放送してます。
-- 東映動画版ですね。
片岡 そう。それが電通扱いで、視聴率が取れないと言って放送中止しちゃったんですよ。そのときに『ジャンプ』の編集長だった鳥嶋さんが、僕の所に訪ねてこられた。鳥嶋さんがアサツーの社屋に訪ねてこられたのは、そのときが初めてなんですけども。それで、「『遊☆戯☆王』のアニメが終わっちゃうことになったんだけど、『ジャンプ』のアンケートは絶好調になってきてるんで、そのタイミングでアニメの放送やめるなんて、あり得ない。だから片岡さんが、どんなことをやっててもいいから、アニメ化して放送してください」って頼まれたんですよ。これ、放送業界のルールでは、あり得ないんです。放送が終了したとしても、東映動画が作った27話の再放送権が、2年半はテレビ朝日にあるというのが、当時の一般的なルールだったんです。その間は商品化とか、あらゆる二次利用も東映動画の判断でされることになるので、他の制作会社なり仕組みを、同じ『遊☆戯☆王』っていうタイトルではできないというのが大原則ですよね。
それで鳥嶋さんが頼みに来たとき、「アサツーの力だったら、テレビ東京は枠を出してくれると思いますよ。コナミさんやバンダイさんとも、アサツーは取引がある。だから、スポンサー集めも問題ないんだけど、それをテレビ東京でやったら、テレ朝が怒るでしょ? 自分の首を絞めることになっちゃうじゃないですか。そんなこと東映アニメーションやテレ朝がOKするわけないですよ」っていう話をしたら、「そこは自分に任せてください。片岡さんは、とにかくテレ東に枠を取って、そこでできるだけ早く放送を開始する、それだけを考えてくれてればいい」って言われたんです。それで本当に鳥嶋さんは東映動画に行って、「とんでもない、ふざけるな」って言われたことに対して、「そういうことを僕に言っていいんですか。『ドラゴンボール』の二次利用権、全部止めちゃいますよ」って、伝家の宝刀を抜いたんです。テレビ朝日に対しても、当時『地獄先生ぬ~べ~』とか、いくつかやってたのを、「全部止めるぞ」って言って、集英社の『少年ジャンプ』の力でねじ伏せたんですよ。僕は後から聞いたんで、当時は全然、何も教えてくれなかったですけど。
僕は東映動画版の27話を、全部見たんですよ。よくできてるんです。視聴率が取れないのは、『ジャンプ』のマンガに、まだ火が付いてないときに企画して作ってるから、人気があるっていう前提で作ってないんですよね。本当にすごい丁寧にちゃんと作っていて、武藤遊戯っていう主人公の家庭環境とか学校の友達とか、『七人の侍』方式で、一人一人とどういうことがあって仲良くなったか、それと武藤遊戯が、なんでカードゲームに触れていったか、みたいなことを丁寧に説明して、ちゃんと分かるように作ってるんですよ。
僕はそれを受けて作るわけだから、これがあったら簡単かなって。僕は実際に集めたスタッフに対して、「この『遊☆戯☆王 デュエルモンスターズ』のテレビアニメを見ていたら、カードゲームに勝てる。勝つ方法を教えてくれるアニメとして作ってくれ」って言って、カードゲームに詳しい人を制作スタッフに入れて、『遊☆戯☆王』のカードゲームだったら、こういう組み合わせで勝てる、というようなことを教えてもらって、そのとおりに作ったら当たったんですよ。
それともうひとつは、風間俊介君というジャニーズ事務所の人に、武藤遊戯の声優を頼んだことですね。野沢雅子さんとか田中真弓さん、坂本千夏さんと、大人の女性の声優で少年の声を出して芝居できる人が、何人かいるじゃないですか。でも、その人たちに頼むことをやめたんですよ。『遊☆戯☆王』のマンガ読んでたら分かるんだけど、武藤遊戯っていう主人公の性格が、普段はへなちょこで、のび太みたいなやつなんですよ。それがカードゲームを持った瞬間に、ヒーローに変わるんです。この幅の広い、落差の大きい芝居だと、強い方は野沢さんでも、田中さんでもできる。でも、普通の中学2年生の男の子のナチュラルな芝居をやるときに、うそが混じると思ったんで、「リアル14歳の芝居のうまい人を紹介してください。その人に武藤遊戯っていう声の仕事を頼みたい」って、ジャニー喜多川さんに頼みに行った。そうしたら、「風間俊介君がいいんじゃないか」って言って推薦されたんですけど、キャスティング表を出したら高橋和希先生から「なんだこいつは。駄目だ」ってめちゃくちゃ怒られた。「なんでですか。へなちょこ中学生、日常生活がある人間がカードゲームの世界に入った瞬間にヒーローになるっていう、この落差が面白いんで、先生が作ったんでお分かりだと思うんだけど、表遊戯と裏遊戯とで、全然せりふだって違ってるじゃないですか。それを表現するのに、リアル中学2年生がいいんですよ」って言ったんだけど、「声優やったことがないやつがいるのは信用できない」って。
確かに声優さんは、脚本を見ながら画面に出た瞬間に、ぱっと声を出せる。声を出すきっかけが、自分の気持ちじゃなくて画面に合わせてできるっていうことが、特殊技能なんですよね。でも、「そんなの自転車と同じで、5~6回やればすぐ慣れて、一生忘れないんですよ」って言ったけど、先生は納得しなくてね。「どうしても駄目だ。オーディションテープでテストして、音声を持ってこい」って言われたから持っていったんですよ。そうしたら「下手じゃないか。こんなやつに任せらんない」ってなった。
僕はNGでしたってジャニーさんに言えないじゃないですか。だから原作者に抵抗して、「先生、とにかく1話のアフレコ来てください。それでスタジオで聴いていて、先生がOKと言うまで彼にトライさせますから。どうしても最後までOK出せないっていう芝居だったら、そのときは僕も彼を変えます。でも彼はとことん付いてきて、絶対に先生が納得する芝居をできるはずだから」って言ったら、「本当に俺がOKしなかったら変えるんだね? それなら見に行く」と。
それで来たら、リアル中学2年生の風間君は、当時は大してイケメンじゃなかったんだけど、かわいいんですよ。中学2年生の男の子が必死になって、自分の作品に頑張ってトライして、音響監督がここをこうしてって言ったことに対して、指導された方向に、ちゃんと付いてくるんですよ。これが風間君の役者センスなんです。頭の悪い人は、なかなかできない。だって人の言うことを聞き取って、脳内で反芻して、こうすればいいんだってそのとおり体と筋肉を動かせる。つまり聞く耳を持つ頭の良さと、そのことを考えて体と声帯、気持ちも含めて動かせるセンスがあったんですね。
普通のアフレコって、1話だったら大体4~5時間かかるんですよね。それがそのときは、5~6時間ぐらいになったんだけど、途中から高橋先生も、「あの子いいじゃないか」ってなった。大人の男から見て、中学2年生みたいな子どもが、自分の作品のために必死になって頑張って食らい付いてくるって姿見たら、絶対に打たれるんですよ。それで風間君は、高橋和希先生と、めっちゃくちゃ仲良くなったんです。
ですから風間君は、僕に会うと「片岡さん、片岡さん」「片岡さんが恩人です」って飛んできてくれるんですよ。そういうふうに『遊☆戯☆王 デュエルモンスターズ』でも、企画の最初は私がプロデュースしているんです。でも、それを人に言う必要ないからクレジットしない。ですからインタビューの機会はありがたいんですけども、そういうことがいくつもあるんです。
(第9回【少女向けアニメと2.5次元舞台へのアプローチ】に続く)