<第4回 土曜講座レポート>コロナに学んだABC ~バリュー・クリエイターの道~ 講師:第一工業製薬株式会社 坂本隆司さん

2021年度から始まった開志専門職大学の取り組み「土曜講座」。本学の客員教授・特別講師をはじめ、各分野の第一線で活躍する方を講師に招いて特別講演を行うことで、学生のみなさんの現代経済への理解を深め、日々の学習意欲へとつなげる取り組みです。
今回の記事では、7月17日(土)に行われた第4回 土曜講座の模様をレポートします。

 

今回のテーマは「コロナに学んだABC ~バリュー・クリエイターの道~」。講師は、京都府京都市に本社を構える第一工業製薬株式会社 代表取締役会長兼社長の坂本隆司さんです。
世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。このコロナ禍で、坂本さんがご自身の経歴から再認識した「ABC」、そして会社の今をさまざまな「ABC」になぞらえてお話しいただきました。

 

ある言葉を聞き、即答! 銀行員から化学メーカーの取締役へ

1947年兵庫県生まれの坂本さんは、京都大学の出身。大学時代、就職活動の時期を逃し、残るは銀行系のみと言われ、何とか面接まで辿り着いたという坂本さん。少林寺拳法で鍛えた精神力を武器に、自分を偽ることなく答えた結果、晴れて富士銀行へ。そこから31年間、普通の銀行員では到底あり得ない経験の数々を、ユーモアを交えながらお話しいただきました。

2001年、「助けてくれ」のひと言から大きく運命を変える出来事ははじまりました。
「何の会社なのかも聞かずに、オファーに対して二つ返事で快諾。体育会系ですからね、助けてくれというのは殺し文句なんですよ」
その時SOSを求めてきた企業こそ、1909年創業の第一工業製薬株式会社。取締役として入社後、すぐに目にしたのはどん底の経営状況でした。

 

失ったものは絶対に取り返す!レンガに誓った思い

入社後、役員報酬のカットを言い渡され、何とか危機を脱しようと8,000坪もの土地を売却。
「どんなことがあっても会社は潰れてはいけない。潰してはいけないんです」
と、これまでの柔らかな口調から一転、語気を強めた坂本さん。その手には、自身の物の見方や考え方の基本となる3冊の本と赤茶色のレンガがありました。このレンガは、売却した土地にあったシンボル的な煙突の一部。坂本さんを奮い立たせる機動力でもあり、失ったものは絶対に取り戻すという決意の表れです。

 

コロナ禍で「ABC」を再認識。そして新たな挑戦へ


「新型コロナウイルスの蔓延は、今まで人が経験したことのない出来事。例えば、スペイン風邪やリーマンショックなど、世の中がどうなるかわからない状況でも経済活動は続いていた。でも、新型コロナウイルスは人間の活動を止めました」

コロナ禍で再認識したのは「A=Ambition(志)」、「B=Brave(勇気)」、そして「C=Credo(信条)」の「ABC」。世の中も、会社も、人も、何が起こるかわからない。だからこそ、周囲と一丸となり前を向くこと。そして、そこから見えてくるものがあると言います。

ここ10~15年、経営は上向きとなった第一工業製薬株式会社。坂本さんはある株主の方から自身のファーストを問われ、迷うことなく「社員」と答えたと言います。そして、その社員には再建へのスローガンを明確にかざし、低迷期には決して味わえなかった成功体験を示しました。今まで培ってきた技術や製品への確信、知的財産の周知、企業買収、利益向上のための構造づくり、そして新たな開発への挑戦。そのひとつひとつが社員の希望となり、経営状況の改善へとつながっています。

 

これから100年、小粒でも面白いと言われる会社を目指して

「京都は化学発祥の地。人間が夢を追うのは、出来もしない錬金術や不老長寿であり、それを求めるのが化学です。だからこそ、面白さがあるんですよ」
自社の歴史と現在、そして未来への展望を生き生きと語ってくれた坂本さんが最後に伝えたかったメッセージは「人間にとってのバリュー・クリエイター、それが化学メーカーであること」
「これから先100年、規模は小さくてもいい、ユニーク性で評価されたいですね。小粒でも面白い会社を目指しますし、そうなると信じています」

 

講演を終え、質疑応答のコーナーでは、学生からさまざまな質問が寄せられました。

■渡部優大さん(事業創造学部2年)
「認知症薬や次世代太陽光電池など、新製品の開発に取り組まれている印象を受けました。実習で新規製品開発を行っているのですが、坂本さんが開発時に重視していることを教えてください」
坂本さん「化学は失敗だらけ。失敗を分析することで、その先がある。自分たちが何に強いのか、他と比べて優位性はあるのか、5年、10年後どうなるのか。そんなに新しいものって、生まれないと思うんです。だから努力するしかない。足元をきちんと見つめることと、自分自身の熱意、この2つですね」

 

■坂本大樹さん(事業創造学部2年)
「開志専門職大学には、起業したい人が集まっています。坂本さんは『企業の再建には新しい武器が必要』と話していらっしゃいましたが、いい人材や即戦力となるためにはどのような武器を持つべきでしょうか」
坂本さん「分からない、できないということを自覚すること、失敗を知っていること、そして熱意です。あとは、いい仲間がいることではないかと思います。事業は一人ではできませんから。先生からの教えやめぐり逢い、仲間との絆を持つことです」

 

坂本さんへ質問をした学生に、今回の講座の感想を聞きました。

■坂本大樹さん(事業創造学部2年)
「講演の中で、企業再建のためには『新しい武器を手に入れることがポイント』といったお話がありました。これを聞いて、人にも同じことが言えるのではないかと考えました。今の自分にはまだ、武器と呼べるほどの強みが無いので、在学中にそういった力を身に付けていきたいと考えました」

 

難しいビジネス用語を分かりやすく、学生一人ひとりに語り掛けながら、今という時代の企業とこれからの未来への展望をお話しいただいた今回の土曜講座。全く違う分野の企業の再建を手掛け、成功へと導く坂本さんの仲間への思いと熱意に満ちた経験談は、これから未来を担う学生たちにとって貴重な時間となりました。

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