(5)マルチメディアのありかたをめぐって
(第4回【『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の時代】はこちら)
Q- マルチメディア事業局の映像第2製作部では、部長になられていますね。
水尾 はい。
Q- 第1が実写で第2がアニメの担当ということですか。
水尾 一応、そういう区分けですかね。第1はどちらかというと、子ども部門を中心にしてたと思います。講談社はBCN、文京ケーブルネットワークというケーブルテレビ局の出資者になっていて、そこで子ども番組用に、乗り物のシリーズをコンテンツとして流した時期があったんです。それをビデオ化しようということで、第1製作部が中心になってやっていました。どっちかというと、第2製作部は幼児ではなくて、若者というか、上の年代を対象にした映像作品という区分けがありました。
Q- 「ヤングアダルト」みたいな区分ですか。
水尾 そうですね。ヤングアダルトです。どちらかというと女性向けよりは、男性向けのものが多かったですね。女性はまだその時代は、映像商品を買い込むというようになってなかったんじゃないかな。その後、CLAMPさんが出てきて、女性のマニアをうまく取り込んでいったわけです。もちろん男性もですけど。CLAMPさんは女性マンガ家集団で、大川七瀬さんっていますよね。あの人は優秀ですね。武内直子さんの『美少女戦士セーラームーン』のヒットがあって、少女向けアニメの下地が育ってきたのかもしれないですね。
Q- 『セーラームーン』は劇場版に講談社さんも出資してますけれど、あれは映像事業局のお仕事なんでしょうか。
水尾 いや、あれは映像事業局では出さなかったと思いますね。講談社が出したかどうかは、ちょっと記憶がないんですけど。
Q- クレジットには出ていますね。
水尾 ちょっと自信がないです。
Q- テレビアニメの方は、原作を持っているという位置付けですね。
水尾 はい。それは『なかよし』編集部の方ですけど。ヒットして、途中から映像事業局が割り込むのは失礼だと考えます。編集部がやるのは構わないですけど。
それと、テレビシリーズというのは、非常に難しさがあるんです。まず放送という枠組みが決まってるから、それに制作を合わせなくちゃならないというのが一つですね。もう一つは、スポンサーの問題。三つ目は、やっぱりクオリティー管理ですね。つまり原作者とか編集部との関係です。その三つがテレビシリーズはなかなか難しいわけですね。制作期限が決まってる、放送が決まってる。そうするとリスクが出てきちゃう。だからテレビシリーズは、僕は講談社として積極的にはやらず、そこから派生した映画とか、あるいはビデオについては、きちっと対応する必要があると思いました。
それからクオリティー管理という点では、製作委員会のメンバーが、どういう完成度を期待しているのかを、きちっとこちらで見極めないと。また、編集部だけじゃなくて、原作者ともですね。そこに出版社の持つ難しさはありますね。楽しさもあると思いますけど……。映画だったらまだ可能性がある。時間的なこととか、クオリティー管理とかはできますから。でも、テレビシリーズはなかなか難しい。それを無理にやろうとするよりは、プロダクションにある程度お任せしたほうが、問題は少ない。テレビシリーズも担当したけど、大変ですよ。
Q- それは『ハートカクテル』もですか?
水尾 『ハートカクテル』は比較的、簡単でした、っていうと怒られちゃうけど。『カードキャプターさくら』とかですね。制作はできるんだけども、放送枠取りとかクオリティー関連は、口で言うほど簡単ではないです。特に枠取りというのは、スポンサーを2~3社集めてこなくちゃいけない。これが講談社の通常業務の中でやるのは、なかなか難しいところです。
Q- 『カードキャプターさくら』にも関わられているんですね。テレビシリーズのほうですか。
水尾 そうですね。あれはもともと、いろいろなところ、特に電通さんと話をしてたんですけど、スポンサーの問題と、それから放送枠の問題で、なかなかうまく進まなかった。でも一方で、原作者は制作を進めてほしいっていう、厳しい一面があるわけだから、その狭間で担当者としては、やっぱりつらいところがありましたよね。それで僕がいる間には決まらなかったんですね。
Q- 制作会社をマッドハウスに決めたのは?
水尾 マッドハウスはCLAMPさんが希望されていたからですね。
Q- なるほど。『X』とかの流れですかね。
『ガンダム』シリーズでも、講談社には『コミックボンボン』がありますけれど、映画の製作委員会には名前が出てこないですね。『ガンダム』についてはどういう位置付けだったか、ご存じですか。
水尾 『ガンダム』はサンライズさんの意向が強くて、講談社が出資しなくても十分やっていけると思ったんじゃないですか。声が掛かってきたことはあるんですけども、うちも積極的ではなかった。『(新世紀)エヴァンゲリオン』も、講談社に話はあったんです。キング(レコード)さんからかな。でも、全て何でもかんでもっていうんじゃなく、講談社の雑誌にとって効果的な作品であるかどうか。特に児童誌が、それほど講談社は強くないですから、それをバックアップするということはありましたね。『ガンダム』は、もう独り立ちしてる作品で、監督の富野由悠季さんもしっかりした信念を持った人だから、あんまりそんなことをする必要はないと思ったんでしょうね。
Q- 講談社さんで出していたビデオソフトは、主に売り場としては書店でしたか。それともレコード店でしたか。
水尾 書店にも出てましたけど、基本的には通信販売という形ですね。ただ、商品にもよります。普通に店頭に並んだ商品もあります。
どうしても高額商品になるんで、なかなか書店で売るのは、徹底されていなかったですね。それから販売も、やっぱり(本や雑誌の)片手間でやってるから、他のビデオメーカーとは力の入れかたが違うんですね。売れ行きをきちっとフォローできるっていう点では、出版物と同じだとは思いますが。
Q- パッケージ商品としては、マルチメディア事業局でカセットブックとかCDブックは作られたんでしょうか。
水尾 それは、あまりやってないですかね。ただ、テレホンサービスだったか、ポケットベルを使った企画で、声優さんの人気がある人を起用して、音声制作をやった覚えがあります。例えば『3×3EYES』の林原めぐみさんが応答してくれるような。そういう企画を作りました。これもあくまでもマニア向けですから、大きい可能性があるかっていうと、本当にごく限られたマーケットですね。
普通のカセットは一般商品ですが、マニア的な作品をやる場合には、よっぽどうまく作らないと納得してもらえないと思いましたね。やっぱりマンガから育ってる読者だから、目から取り込んだ情報を優先すべきなのかなと。
Q- 講談社は、一般文芸のカセットブックは出されてたんですか。
水尾 それは出してたと思いますね。ただ、編集部個別でやってます。
Q- この時期に講談社は、ゲーム雑誌も出していますが、これもマルチメディアへの関心の一つなんでしょうか。
水尾 そうですね。マルチメディア事業局の中にゲーム制作部門がありました。ゲームというのもパッケージ商品なので、事業局としてやる価値はあるんじゃないかということで、勝木康夫が部長として担当してましたね。
ただ、これは僕のほうからは、詳しく説明できないんですけど、ゲームは非常に難しいですよね。完成時期が意外と読めないのと、ゲームのクオリティーもなかなか判断しにくい。全体像が見えないんですね。映像作品は、マンガという絵コンテがあるから、まだ見えるんだけれども。ゲームにはまた別の評価基準があって、それをうまく判定できる担当者がいるかどうかというのもありますね。『攻殻機動隊』も、実はゲームやってるんですよ。ただ、やっぱり制作期間がどんどん遅れちゃって、なかなか読みどおりにできない、非常に難しいんだなと思いましたね。
Q- 集英社がちょうど『Vジャンプ』を出して、ゲームとアニメとマンガの三本柱で、ということをやっていく時期だと思うんですが、講談社ではそういうことではなかった。
水尾 僕は脇から見てたんでよく分からないですけども、キャラクターをもっと出していけば可能性はあったと思いますね。でもゲーム作る人ってキャラクターじゃなく、ゲームの面白さみたいなのを目指しちゃうから。それはそれで間違いないんだけれども。
それと、うちはキャラクターで売っていく作品が少ないからというのもありましたね。これはいろいろな意見があるから、どういうやり方がいいのか分からないですけどね。僕が自分でやってみて思うのは、やっぱり『ドンキーコング』とか『スーパーマリオブラザーズ』とか、ああいうゲームのほうがヒットしやすいんだろうなと思ってます。『ファイナルファンタジー』みたいな路線と、キャラクターを前面に出した路線では、マーケットが違いますから。だから、どこのマーケットに出していくかが、非常に大きいと思いますね。
講談社は『コミックボンボン』があって、小学館は『コロコロコミック』がありましたけど、決定的な差はギャグマンガなんですよね。キャラクターを中心としたギャグマンガは小学館さんで、どうしてもうちはそれが弱い。昔は赤塚(不二夫)さんが面白いギャグマンガを描いてたんですけどね。やっぱりボトムアップだから、編集者が頑張っちゃうんですね。キャラクターというよりは、ストーリー性を重視しちゃう。
(第6回【映像事業の転換】に続く)