【6,「映画」を作る】
(第5回 「メディアをジャックする」はこちら)
―― 話は変わりますが、ノイタミナのことをうかがえますか。ノイタミナの第1作は『ハチミツとクローバー』ですが、最初がこの作品なのは、アニメを普段見ない成人女性層、原作を読んでる層をターゲットにしていたという話がありますが、そういう感覚は真木さんのほうではあったんでしょうか?
真木 これは、もちろん女性向きっていうか、オタッキーじゃない。でもどちらかというと、映画ファン。違うマーケットだというのは間違いない。あれは企画のときに、「ちょっと変わったことやってみるか」っていうのがあって、それで普通のビデオメーカーを結構回ったけども、いまいちうまくいかなくて、それでアスミック(・エース)の女性プロデューサーのところに行った。あそこは映画、特にどちらかというとアート系っていうか、そういう仕事をしてたから、親和性があるよね。それで、アスミックとやるっていうことで決めてから、ノイタミナ。(最初は)実は日本テレビで、ノイタミナじゃなかったんです。もう代理店も含めて、放送枠はほぼ決まってた。こっち側はウチ(ジェンコ)とアスミックと電通と集英社で、日本テレビ(の放送)がほぼ内定してたんだけど、フジテレビが「どうしてもやりたい」って言って、それで逆転したんですよ。新しい枠が始まるので、どうしてもこの作品が欲しかったのか、(新しい枠を)始めるって言ったけども作品が決まらなかったのかは、よく知らないけど、多分その辺の事情があったはずです。だから、女性層を開拓したってのは、結果論ですね。当時はもうとにかく、編成的に「作品を用意しなきゃ」って。
―― フジテレビは後乗りだったわけですね。『ハチクロ』ありきで、後から参入して放送した。そうすると、企画当初はアスミックからDVDを出して売るのが目的ですか?
真木 そうそう。だから普通の、深夜・製作委員会モデル。毛色は少しオタッキーじゃないけど、ビジネスモデルは変わらない。
―― 実際のところ、パッケージは売れたんでしょうか?
真木 あれは売れたね。
―― 想定したターゲットが買っていたんですか?
真木 うん。
―― 結果的にノイタミナって、初期は割とこのノリですよね。矢沢あいの『Paradise Kiss 』とかやってましたから。
真木 ああ、そうかもしれない。あれ以来ノイタミナやってないから、いわゆる編成のプランっていうのは、こっちは分からないけど。
―― 映画ファンをターゲットにするということでは、実際に映画も作られますよね。今敏監督の『千年女優』、『東京ゴッドファーザーズ』や、それから『パルムの樹』も。ハイクオリティな作品をジェンコでプロデュースしてますが、これはやっぱり「映画を作りたい」ということですか。
真木 そう、もともと映画のほうが格上だっていう考えがあるんです(笑)。やっぱり映画は、残るじゃないですか。テレビっていうのは当たればパート2ってことで、確かに『天地無用!』も、あれだけ本数を作ってるけども、そんな残ってないでしょ。『パトレイバー』はちょっと残ってるかもしれないけどね。映画で本当にいいもの、出来が良いものなら残ってるっていうのが、すごくある。今さんは死んじゃったってこともあるけど、やっぱり作家性の(ある)人は残ってる。
―― 今さんの作品としては、この前には『パーフェクトブルー』がありましたが、それを見て、次の『千年女優』をプロデュースされたんですか?
真木 そう。僕は『パーフェクトブルー』には関係してなかったから、試写会で見たんですけど、「すごいな」と思って、プロデューサーの丸山(正雄)さんに紹介してもらって、監督に会いに行って、「やりましょう」って言ったのが、『千年女優』ですね。
―― 今さんの中では、『千年女優』のアイデアは、ほぼ固まっていたんでしょうか?
真木 いや、企画がいくつかあるうちで、最終的に『千年女優』になったんですよ。いくつかあるっていうのは、監督の頭の中なのかスケッチなのか分からないから、その程度ですけど。だから、『千年女優』も、かなりゼロベースだよね。
―― 『千年女優』決め打ちというのではなくて、今さんといくつかアイデアを話し合って、あの作品に決まったということですか?
真木 そうそう。いくつかアイデアがあって、彼が出したのが『千年女優』と、もう1本、何かあったような気がするけど……忘れちゃったな。
―― それは『東京ゴッドファーザーズ』とは違う作品ですか?
真木 違いましたね。『千年女優』は出来上がって、これは大傑作だなと思った。試写を見た人にも評判が良かったし。それで配給会社も「これはちょっと大きくやりましょう」って言って、それが失敗だったんだけど(笑)、ブッキング、つまり小屋(映画館)の関係で、出来上がってから1年ぐらい時間が空いたんですよ。それで、そのときに彼はもう作品が出来上がっちゃったから、次の企画ということで『東京ゴッド』を作ってた。
最初に僕のところにシナリオが来たけど、シナリオだけだと読んでても何が面白いのか分からなくて(笑)。クリスマスの奇跡っていう、都合のいい話でしょって。それでずっと、『東京ゴッド』は本当にお金が集まらなくて。「今敏の次の作品だ」と言ったって、結局『千年女優』が開いてないから、みんな「『千年女優』が世に出て、評判になってから」みたいなことで二の足踏んじゃった。それで色々とおかしくなったよね。監督との関係もおかしくなったり、あのときは、てんやわんやだったね、あのときは。ジェンコつくって、まだそんなに間がないので、「金もない、仕事もない」っていう、結構つらい時期だったんですよ。
―― 『千年女優』で、公開まで間が空いてしまったっていうのは、配給会社が映画館を押さえられなかったということですか。
真木 配給の規模を大きくしようとするとね。当時狙ってた劇場が、他のもので埋まってたから、空くのを待ってたっていう感じですね。
―― 『千年女優』は2002年に公開なので、まだシネコンが完全に普及しきる前ですね。それは確かに押さえにくそうですね。
真木 そうそう。やっぱり映画館の数がね。渋谷東急を待ってたら結局、大はずれで(笑)。まあ一言で言うと、「早かった」で終わっちゃうけどもね。今だったら本当に、みんなが欲しがる監督だよね。
―― 当時、監督名でアニメを見に行くのは多分、宮崎(駿)さんぐらいでしたよね。
真木 そうなんですよ。だから早いんだよね。新海(誠)もいないし。
―― でも、そういう監督主義というか、作家主義的な方向でプロデュースしようっていう意図はあったんですか?
真木 意識はしてない。けど今から考えると、まさしくそうだね。
―― その点では、『パルムの樹』はいかがなんですか?
真木 『パルムの樹』って、企画自体は、すごく昔からあったんですよ。いろんな営業したり、もともとシリーズだったのを最後に僕が「映画にしよう」って言ったり、(そこまでに)結構ダッチロールしてり。それで沈没したんだけどね。
―― この作品は、監督も原作もなかむらたかしさんですね。
真木 なかむらたかしは天才アニメーターで、『(とつぜん!)猫の国 バニパルウィット』という作品を一緒にやった。それで彼が「どうしても(『パルムの樹』を)やりたい」って言うから、ずっと付き合って、「やるか」って言ってね。話の中身はもう少し、何とかしたかったけど。
―― 確かに、ストーリーというよりは映像、画を見せたいタイプの作品ではありますね。
真木 そうそう。ちょっと観念的っていうか、彼の頭の中なので、だから分かりにくい。
―― そういう意味では、今さんは漫画家出身だからか、ストーリー指向が強い気がします。
真木 やっぱり天才ですよ。見せ方っていうかな。そういう意味で言うと、『千年女優』を見たときにかなり多くの人から、「なんでこれ、実写じゃないの?」って言われて、それは一種のほめ言葉なんですよ。「映画みたい」っていう。でもね、アニメだからこそ、虚構と現実が心地よく混ざれるわけであって、あれを実写でやろうと思ったら、相当の技が出ないと無理な作品なんですけどね。そういう風に理屈で考えて、「なんで実写でやらないんだ」って言ったわけじゃないだろうけど、(『千年女優』を)見た人も「実写みたい」って思ったんでしょうね。
―― でも、『千年女優』は実写でやったら多分、ものすごいわざとらしい、いやらしい演出になるから、アニメじゃなきゃ駄目なんだろうと思いますね。顔の似ている複数の役者をそろえて、カットが変わったら役者も変わってるって、すごくわざとらしい気がするんですよ。
真木 あり得ないもんね。一応、声優は3人でやってるんだけども。
―― アニメだからキャラクターの同一性が保たれてるというか、実は絵じゃないとできない話な気がします。『東京ゴッドファーザーズ』も、実写だとホームレスが生々しくなると思うんですよね。
真木 あれはむしろキャラクターが、すごいオーバーアクションで、それがいいんだよね。いわゆる漫画チックな芝居じゃないですか。それでシリアスだけど、都合のいいことばっかり起きるっていう。ああいう配分というか、見せ方の天才ですよ。だからホン(シナリオ)を読んだだけじゃ分からない。だってビジュアルがないから。