オーラルヒストリー・水尾芳正氏(元・講談社)第3回 | 【公式】開志専門職大学|ビジネス・起業・IoT・データサイエンス・アニメ・マンガのプロになる。

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オーラルヒストリー・水尾芳正氏(元・講談社)第3回

(3)映画『AKIRA』の製作

(第2回【映像事業局での仕事】はこちら

 

Q- 講談社の初期のビデオは『ホワッツマイケル』、『バリバリ伝説』、それと『ビデオ絵巻 あさきゆめみし』とありますが、企画に内田勝さん、平賀純男さん、宮原照夫さんと、超ベテランの編集者の方の名前が書かれていますね。

 

水尾 それはクレジットの使い方だと思うんですね。内田が映像事業局のトップだったときには、内田が企画になる。それから平賀がやったときには、平賀が企画。そういうようなことで使い分けられてたと思いますね。映像のクレジットの使い方っていうのは大体、そういうのが多いんです。
 僕は、『AKIRA』だと「製作宣伝」という役目でした。プロデューサーは鈴木良平で、現場の制作進行には角田研がいまして、僕は後から組み込まれたんです。要するに、宣伝関係、広報活動だけ手伝ってねってと言われて……。でも実際には、制作現場に行かないと手伝えませんね。制作の東京ムービー新社が、アキラスタジオという現場を三鷹に持ってまして、そこに通っていたのは事実ですね。

 

Q- 講談社と東京ムービーの関係は、もともとテレビアニメでの付き合いがあって、ということでしょうか?

 

水尾 そうですね。『巨人の星』とかで……。

 

Q- 『AKIRA』とか『ホワッツマイケル』とか、講談社の作品を映像化するとき、それぞれのマンガを出している編集部と映像事業局とは、どういう力関係で、どちらが主導権を握るんでしょうか。

 

水尾 講談社の場合は、まず原作者と編集部の意向を基本的に尊重するというやり方が強かったです。それはなぜかというと、読者の姿を一番よく知っているというか、マーケットがどこにあるかを知ってるわけですから。読者を意識することによって、そのマーケットをきちっと押さえる。特にビデオはそういう性質のものですから、それで商品になる。これは、普通のテレビアニメとはちょっと違うんですね。その当時はビデオカセットだけじゃなくて、レーザーディスクもあって、両方の商品が売れるということもあったので、そこを押さえておこうという、基本的にはそういう考え方です。
 それからもう一つが、ビデオもパッケージ商品なんですね。ですから、販売のフォローがしやすいんです。つまり重版かけるとか、そういうことが比較的、講談社の販売システムでできるんです。テレビだとか映画だとかって、なかなかそういうわけにはいかない。だから、パッケージ商品みたいにするのが、講談社としては当然の流れじゃないかなと、僕はそういうふうに考えましたね。
 繰り返しますが、編集部とか原作者の意向を非常に大切にする。これは講談社のマンガの作り方が、基本的にそういうものですから。原作者と編集部が一体になって作品を作っている。そこは非常に徹底していて、強い考え方だなと思いますね。マンガ作品は、クオリティーとか原作の独自性、ストーリー性とキャラクター性をどれぐらい引き出せるかとか、そのこだわりがないと、マーケットの人たち、読者が満足しないんですね。そこの割り切り方ができてないと、何でもテレビシリーズ化しようとなっちゃうし、原作者とのトラブルも生じてしまいます。

 

Q- 『AKIRA』は製作委員会方式をとった映画ですけれど、どういうふうにメンバーが集まったんでしょうか。

 

水尾 最初に関しては分からないんですけども、映画会社、放送局、それからその他に出資してくれる会社がないかということで声を掛けたと聞いています。一応、出資者を集めてくるのは博報堂が中心になってたところがあるのかな。
 映像作品というのは権利の塊ですから、その権利の塊を区分けして、出資者に利用権を渡していくというのが理想的だと僕は思ってますね。委員会方式にすると、その関係が割とクリアになりますから。「講談社だけが儲けてるんじゃないか?」ということにならないようにやることが必要だったと思いますね。ただ、そのやり方が講談社の経理システムに合ったかどうかは別ですけどね。

 

Q- そこで講談社が幹事をやったわけですよね。

 

水尾 そう。そこは難しいですよね。原作者の意向を尊重するというのは、理想論みたいなとこがありまして。それをやっちゃうと、映画の公開に間に合わなくなって、最後はちょっと我慢して公開した後で直します、リテイクしますよっていうふうに、どうしてもなっちゃうんですね。そうするとやっぱり当初の枠組みの人たちが、「ええっ?」って言うわけですね。その上、何億も出ちゃうと、これはちょっと話が違うというようなことも出てくる。ですから、そういうとこも、きちっとやっていかなくちゃいけないし、それから原作者の意向も考えなくちゃいけない。そこがなかなか、製作委員会の幹事会社として難しいところなんですね。
 これは、どんな映像作品でもそうです。どんな短いものでも。前に円谷プロさんの作品をやった時に、契約書の段階で「これではとても社内で通りません」という意見が出てきたことがあります。でも、それは「もうみんな運命共同体なんだから、それをあなた方の会社で説得しなきゃ話は進みませんよ」と、僕がそういうことを言ったら、みんな静かになっちゃいましたね。難しいですけど、一つのプロジェクトで運命共同体ですから、最初にきちっと言っておかないと。後からそういうことを言い出すと、制作の現場が混乱しちゃいます。

 

Q- 『AKIRA』は数億円かかったという話ですね。

 

水尾 後でのリテイク費用を入れて、多分7億くらいかかったのではないかと言われてますね。

 

Q- 半分ぐらいは講談社が出したんでしょうか?

 

水尾 半分じゃないですね。当初は1億5000万円だったかな。

 

Q- 幹事でも40~50%を出しているわけではない。

 

水尾 それをやっちゃうと、講談社が1人で利益を抱え込むことになるので。それよりも、出資者になるべく利益を上げてもらうようにってことは考えましたね。

 

Q- それで2~3割ぐらいってことですね。でもこのコストは、出版物に比べたらかなり大きいですよね。社史を見ますと、社内でもいろいろと評価が分かれたような記述がありますけれど、その辺りで何かご記憶ですか。

 

水尾 難しいですね。ちょっと語弊があるんですけども、経理部門からの指摘がすごく強かったです。僕は後から入ったので、実はあまりお金の流れは分からないところがあったんですけど、随分と帳簿のチェックをさせられました。これはどういう意味合いのお金かっていうことを、経理から随分、追求されたってことがありましたね。それはもちろん経理は経理で、当然そういうことが仕事なわけだから仕方ないですけどね。とにかく、材料費とか宣伝費っていうのも、うちの会社としてはすごく大きな割合を占めてたので、うちの経理システムの中で収まらないんですよ。それに文京区の税務署は、映画会社の東宝のあるところとかと違うんですよね。だから、そういう税務的な処理の仕方に慣れてなかったというのもあったと思いますね。
 それから、もう一つは法務です。要するに契約書とかそういうものも、なかなか未整備だった。製作委員会方式にすると、契約書をきちっとしておかないと、後でどんでん返しを食らうこともあるわけですよ。さっきも言いましたけど、映像作品は権利の塊ですから、その権利をどういうふうに出資者の皆さんに供与していくか、出資比率に応じて権利を説明していくというようなことをしなくちゃならない。例えば、『AKIRA』の場合ですと、映画はもうかる、テレビ放送ももうかる、ビデオももうかると。じゃあ、その他の例えば博報堂さんはどうなのかとか。それから商社もありましたね。住友商事さんはどうなのか。

 

Q- 住友商事は具体的に何を担当したんでしょうか?

 

水尾 自分のところの事業に『AKIRA』のキャラクターを使っていました。映画公開の直前になれば、いろいろとメディアに出てきますよね。

 

Q- 今でいうとこのコラボレーションに近いことをやってもらうと。

 

水尾 そうですね。それからもう一つ、あの当時は商事会社が結構、映像に出資してたんですね。商事会社もそこに鉱脈があるんじゃないかということで出資してくれるわけだから、そこで我慢しないとね。ただ、みんなが自分の利益を取りたいっていうことになると、ちょっと商事会社は違うかなという気がしましたね。

 

Q- 水尾さんご自身は途中から『AKIRA』に入られたということですけれど、期間としてはどのくらいだったんでしょうか。

 

水尾 期間としては、公開の1年半ぐらい前からだったかな。

 

Q- その間、他のお仕事は?

 

水尾 テレビの『ハートカクテル』とかをやってました。それと、『ホットドッグ・プレス』という雑誌がありまして、編集者時代のいとうせいこうが持ち込んだ企画で『業界くん物語』のビデオ化も確かやってましたね。

 

Q- じゃあ、もう映像事業局のお仕事だけをしているってことですね。

 

水尾 テレビをやると、なかなか他の仕事ができないんです。

 

(第4回【『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の時代】に続く)