6、『新世紀エヴァンゲリオン』と大月俊倫プロデューサーとの仕事
(第5回【テレビアニメ製作におけるアサツーの地位とクレジット】はこちら)
-- クレジットと実態とのズレで気になっているのが、『新世紀エヴァンゲリオン』なんですが、テレビシリーズのときは「製作」がテレビ東京とNASになっていて、キングレコードとかSEGAとかKADOKAWAの名前は出てこないですね。
片岡 クレジットは、いろんな人の思惑が入るので、実態はそのとおり正確だとは言えないんですよね。『エヴァンゲリオン』で言うと、キングレコードの大月さんと、アサツーのコンテンツ企画局の局長かつNASの取締役だった私が、握手して決まった企画なんですよ。新宿に「ゴンドラ」という、とても有名なキャバクラがあって、そこが実はアニメの人たちのたまり場だったんです。ゴンドラで企画が決まるという。
-- 『エヴァンゲリオン』の時、大月さん自身はクレジットされていないですね。
片岡 大月さんも隠れたかったんでしょうね。『エヴァンゲリオン』は実質的に、製作委員会方式で作ったテレビアニメなんですよ。『BLUE SEED』の次ですよね。『BLUE SEED』は大月さんが、「どうしてもこういう方式でやりたいから、アサツーも金を出してくれ」って言ってきて、NASがお金を出すという形で作ったんですよね。これはうまくいくと思ったんで、次もそれでやりましょうって。
そのときに、アサツーがいくら責任持つかってことについては、「ゴンドラで話しましょう」って言って、キャバクラの中で女の子を交えながら話したんですよ。『エヴァンゲリオン』に僕の名前は入ってないです。僕はあの企画書を見たときに「当たらない」って言ったんです。でも僕の部下の杉山豊が、面白いと思うんでやりたいと。それはアサツーにお金を出せって話だから、「こんな当たらないような企画に、お金は出せないんじゃないか」って言ったんだけど、どうしてもやらしてくれって言う。彼は本当にアニメオタクで、人生をアニメにささげてるようなやつなんで、「どうしても」って言うから「杉山がそこまで言うんだったらやりましょう」って。
僕は初号機が自立するロボットに見えなかったんです。僕の中で、『コン・バトラーV』にしても、『ガンダム』にしても『ボトムズ』にしても、ロボットは立つっていうのが原則だったんですよ。『コン・バトラーV』なんて3体合体なのに、ちゃんと立つじゃないですか。それはバンダイの村上克司さんってえらい方が、いつも必ずおっしゃってたことなんですけどね。そうすると、初号機は細くて、バランス的に前に倒れちゃうように見えた。でも「ロボットだって変わってきてるんですよ」って言われて。
-- 『エヴァンゲリオン』の場合、キングレコードやKADOKAWAは、製作に出資していたんでしょうか。
片岡 キングは、めちゃくちゃ出してますよ。セガも出してるんじゃないかな。キングとセガとアサツーが出していて、KADOKAWAは提供スポンサーだけだったと思うんです。ほとんどキングが出して、セガとアサツー=NASが少しずつ出したぐらい。
-- それが必ずしもクレジットされていないのは、何故なんでしょう。
片岡 別にそんなことを人に言う必要ないから。クレジットが、そんな大事なテーマだと思ってなかった時代ですよね。作品が少ないから、誰がハンドリングしてるかっていうのは、みんな見えてるんですよ。だから言う必要ないだろう、みたいな感覚ですよね。
-- 作り方としては、製作委員会方式なんだけれども、それを表に出さずにやっていると。
片岡 そうですよね。今でも製作委員会がクレジットされてるときに、構成メンバーの各企業の名前まで出さないこともありますよね。それは、その流れだと思います。出す必要ないっていう。
でも、少なくとも『エヴァンゲリオン』に関しては、大月さんが全部をまとめたんですよ。お金の用意とか。クレジットも全部、大月さんの意見ですよ。『エヴァンゲリオン』は庵野秀明監督と、大月さんの作品ですよ。クリエイティブ面は庵野さんだし、ビジネス面は大月さんの作品ですね。
それで大月さんはキングレコードの常務になるんだけど、自分の個人会社であるガンジスを作って、そこへ発注するし、入ってくるお金もそこを通すっていうことで、キングレコードからの給料以外の膨大な収入を持ってたんですよね。
-- 大月さんとはどうやってお付き合いが始まったんですか。
片岡 大月さんは『NG騎士ラムネ&40』からです。しょっちゅう現場に来て面白いこと言ってる人だった。
-- 『ラムネ』は、子ども向けアニメの体裁をとりつつ、OVAとかも出していますね。
片岡 バブル真っ最中なんですよね。僕は『ラムネ』は、あんまり大きな関わりをしてないんだけど、2つだけ仕事をした。ひとつは横山智佐さんを主役のヒロイン役に頼んで、「男と女のパピプペポ」っていう歌を、どうしても歌ってもらうということ。紅玉さんっていう作詞家と僕の2人で話して、その作詞家の人に、とても傲慢な女の詞を書いてもらった。横山さんは、実際にはそういう人じゃないんですよ。とても真面目な方です。でも横山さんは、そういう強い女の歌を歌うと似合うと思ったんです。そのことが『ラムネ』のキャラクター性につながるようにって。『ラムネ』ってオリジナルですよね。それでありきたりの、いわゆる萌え系の女にしたくなかったんで、バブル真っ最中の、踊らされてるように見えながら、一切心を動かされない、お金じゃあ動かない強い女みたいなイメージをつくるっていうのが、僕のした仕事のひとつですよね。キャラクターをどうやって作るかってことに対する思い入れが、オリジナルストーリーでは一番大事だと思ってたんで、それを言葉で聞かせるよりも歌わせたほうがいいなと思ったんです。それは功を奏して、変なおじさんたちに受けたんですよ。
それともう一つは、1話の脚本です。小山高生さんが、『タイムボカン』的なギャグのシナリオを書いてきたんですよ。小山さんは『ドラゴンボールZ』で、鳥山先生のマンガをそのまま写してるわけじゃなく、テレビアニメとしてきちんと成立させる脚本を書いてた方で、もちろん素晴らしい脚本家だし、尊敬してる方なんだけど、「小山さん、悪いけどこの1話の脚本、面白くないよ」って面と向かって言ったんですよ。「どこが面白くないんですか」、「ギャグが古いし、全部滑ってるよ。言葉のギャグになってて面白くない」って。『タイムボカン』の中の人間関係だったら、キャラクターが定着してるから言葉だけでもギャグが成立するけど。そう言ったら、「分かりました。自分は申し訳ないけど、この1話の脚本を引き下げます。あかほり、おまえが書け」って言って、それで、あかほりさとるの出番になったんです。そのやりとりを聞いてたあかほりは、これは自分の思いどおりに飛んだほうがいいなと。小山高生先生の弟子だから、小山高生風の脚本を書くのが使命だと、そのときまでは思ってたかもしれない。でも1話の脚本会議で、僕と小山さんのやりとりを聞いてて、自分の思う存分書いてやろうとなったんですよ。それであかほりは、ミルクが暴れるような脚本を面白がって書いてたんです。それが大人受けしたんじゃないですかね。彼のセンスが満載ですよね。
-- 監督のねぎしひろしさんも、テレビの夕方枠にやっていてもマニアに受けるものを、たくさんやってますよね。『超音戦士ボーグマン』とか『天地無用!』とか。
片岡 そう。彼も頑張ってくれましたね。でも彼は真面目な監督だから。真下耕一さんの弟子なんですよ。山﨑立士が連れて来たんです。
(第7回【少女向けアニメと2.5次元舞台へのアプローチ】に続く)