<第6回 開志コラボセミナーレポート>ココにいるから見えたこと ―コロナ禍に模索する仕事と暮らしの新しい可能性

本学における産学連携プロジェクトの一環として、産業界で活躍するビジネスパーソンを講師に招いて実施している「開志コラボセミナー」。今回は9月29日(水)、紫竹山キャンパスからオンラインで配信を行ったコラボセミナーの模様をレポートします。

第6回となった今回の講師は、尾畑酒造株式会社 真野鶴五代目蔵元・専務取締役 尾畑留美子さん。
1965年、佐渡の「真野鶴」蔵元の二女として生まれ、佐渡高校から慶応大学法学部へと進学。卒業後は、日本ヘラルド映画(東京都)の宣伝部に所属し、多くのハリウッド映画の宣伝プロデュースを手掛けます。1995年に角川書店刊「東京ウォーカー」編集者(現・尾畑酒造社長)と結婚し、ある出来事をきっかけに故郷の蔵を継ぐことに。日本酒の海外への輸出を皮切りに、2014年から佐渡の廃校を仕込み蔵として再生させた「学校蔵プロジェクト」を手掛けています。

講演のテーマは「ココにいるから見えたこと—コロナ禍に模索する仕事と暮らしの新しい可能性」。順風満帆だった映画業界での仕事を辞めたきっかけ、一度は離れた故郷と酒蔵への思い、そして自身と尾畑酒造のこれから。紆余曲折ありながらも、「気づき」を通して一歩一歩着実に歩んできた尾畑さんが、このコロナ禍から導き出した新しい可能性とは?

 

人生最後の日に何がしたいのか…その答えがきっかけに

佐渡島は東京23区の1.4倍の面積を持つ、本州最大の島。自然環境、歴史、文化の多様性があることから、日本の縮図とも言われています。佐渡島の西岸、真野湾を望む真野新町にあるのが、1892年創業の尾畑酒造。蔵元の二女として生まれた尾畑さんの心を鷲掴みにしたのが、旅番組や映画雑誌でした。子ども心に、本土は遠く憧れの世界。

「大学進学で東京に行った時、一番にやりたかったのが映画館へ行くこと。卒業後は漠然とコンサルタントになりたいと考えていた中で目にしたのが、映画業界の求人だったんです」

面接での〝特技・利き酒〟が功を奏したのか、晴れて900倍の難関を突破し、日本ヘラルド映画へ入社。20代で宣伝プロデューサーを任され、充実した日々を送っていた一方、実家からは後継ぎとしてのUターンを打診され続け、その都度「NO」を出し続けていたといいます。

そんな中で酒蔵を継ぐことを決めたのは、尾畑さんが28歳の時。実父の病がきっかけだったといいます。病に伏せる父を目の当たりにして自問したのは「人生最後の日に何がしたいのか」。その答えは「うちの蔵で、うちのお酒を飲みたい」。そこで尾畑さんは、蔵に帰る決心を固めました。

 

進むべき道を照らしてくれた、2つの〝気づき〟

尾畑さんが帰郷した1995年10月頃の佐渡島は、人口減少、少子化、観光衰退、都会との格差という問題を抱えており、さらに酒市場は縮小と前途多難な状況。
「都会でマーケティングや宣伝を熟知していたという自信から、何でもできると思っていたのです」
しかし現実はそう甘くなく、スピード感の違い、先代との相違、現場との衝突…何をやってもうまくいかずに、思い悩むこと5年。その間、何度も逃げ出しそうになったときにご主人から言われたのが、「今逃げ出したら、負け犬になるよ」との言葉。

「このひと言がスイッチとなり、うまくいかなかった日々を振り返って見えてきたのは『人のせいにしていた自分』。周りを変えるのは困難でも、自分自身は変えられるという答えです。その〝気づき〟を得てから、言動も行動も一変。自らアクションを起こし、自身が変化することで、取り巻く環境も好転していきました」

次に試みたのが、海外への輸出。ローカルの人にも日本酒の美味しさを広めたいと、直接海外のインポーターとの取引を決意。周囲の猛反対を受けながらも、何もはじめなければ何も変わらないと突き進んだといいます。2003年春のアメリカに向けはじめての輸出を皮切りに、アジアを中心にローカルのインポーターとの取引もスタート。しかし、そこにあったのはスペックもいいし、味もいい!と評価を受けながら、でも売れないという現実でした。数々の失敗から八方ふさがりとなり、輸出を断念しかけた時に訪れたのが2つ目の〝気づき〟。看板酒「真野鶴万穂」が世界最大のワイン品評会日本酒部門で金賞を受賞したのです。

「そこで他の受賞酒を口にし、感じたのは『個性がある』ということ。高品質は当たり前、大切なのは個性を伝えることだと気づきました」

 

四宝和醸が導いた、学校蔵プロジェクト

酒造りの三大要素は、「米・水・人」。そこに、酒を生む環境である生産地「佐渡」を加え、4つの宝の和を持って醸す「四宝和醸(しほうわじょう)」をモットーに掲げた、尾畑酒造の酒造り。現在は15か国と取引があり、その半分は直接輸出だといいます。

そして、さらなる日本酒の可能性との出会いが、2014年にスタートした「学校蔵プロジェクト」。オール佐渡産にこだわった「酒造り」、環境との「共生」、年齢・出身を問わない「交流」、そして酒造りの体験者を募り、佐渡のアンバサダーを生み出すための「学び」を柱に、日本酒で日本と世界を結ぶ取り組みを行っています。

 

佐渡島の次の100年を醸す酒造りを。

2020年、新型コロナウイルスの蔓延に伴い、売上も激減。当初は不測の事態に戸惑い、終息することを期待するばかりだった尾畑さんでしたが、まず行ったのは、自分たちの取り組みの再整理でした。学校蔵プロジェクトはもちろん、すべての取り組みの根底には「酒造りを通してできる、持続可能な地域づくり」があるといいます。それらが評価され、2020年5月には、清酒の製造場で製造体験することで地域の活性化を図る「日本酒特区」第一号に認定。同年9月、The Japan Times Satoyama部門大賞を受賞。そして2021年には、初の試みとなる「学校蔵の特別授業」のオンラインでの開催にもチャレンジしました。

佐渡にいる機会が増えたからこそ見えた変化。環境、移住者、事業の再構築、そして酒蔵スタッフの可能性…佐渡と世界を繋ぐ、世代と世代を繋ぐ。地域の次の100年を醸す酒造り。継承すること、発展させること、突き進むことの意味を参加者に伝えてくれました。

事業継承だけではなく、再構築することの重要性を感じた今回のコラボセミナー。日本最多の88の蔵元を有する地酒王国・新潟。伝統を守りながら、新しいものを取り入れ、地域の未来を発展させる尾畑さんの酒造りに、これからも目が離せません。
今後も開志専門職大学では、さまざまな方をお招きしてのコラボセミナーを開催予定です。

 

▶開志コラボセミナー レポートのまとめはこちら

トピックス一覧