新潟視覚芸術研究所 × 開志専門職大学

オーラルヒストリー・真木太郎氏(株式会社ジェンコ)第4回

【4,AIC作品のプロデュースから「ジェンコ」設立へ】

(第3回 「パイオニアLDCへの移籍」はこちら

 

―― OVAは、若手の人が活躍してますね。『天地無用!』だったら梶島(正樹)さんとか。その辺の人脈はどちらからなんですか?

 

真木 それは全部AICですね。

 

―― 20~30代ぐらいの人たちですよね。

 

真木 うん。だから、やっぱり一種の業界の勢いみたいなのもあったんじゃない? 僕も若かったし。35歳でパイオニアに転職したんで、みんな30代ですよ。

 

―― 『THE八犬伝』はいかがですか。

 

真木 あれは(AICが)、はしご外さてれたんじゃなかったかな。

 

―― 最初の6話は双進映像が製作で、新章がパイオニアLDCになりますね。

 

真木 そうだ。最初は、僕は関係ないんだ。確か、三浦から(続きを)頼まれたんですよ。

 

―― 止まってるやつの続きを頼まれた、ということですね。『天地』とか『エルハザード』だと、OVAとテレビとで続いて、循環をしてますね。

 

真木 『(バトルアスリーテス)大運動会』とか、みんなそっくりだよね。OVAを6本で、テレビが2クール。でも『天地』は映画もやったね。『アミテージ・ザ・サード』も映画があった。そうそう、テレビ東京で放送した『天地』は夕方の6時半だった。『サザエさん』の裏ですよ(笑)。

 

―― でも『天地』はホームコメディ的な側面はありますよね。『天地』とか『(神秘の世界)エルハザード』がテレビアニメへ進出していくときのパイオニアの意図や背景は、どういうものだったんでしょうか?

 

真木 パイオニアとしての意図は特に無くて、僕の意図です。映画で「なんちゃって配給」すると箔が付くのと一緒です。

 

―― テレビでいっぺん流しておくということですね。

 

真木 そう。テレビで流しておくと全国区になる。そうすると当然、いわゆるマニア向け、オタク向けのパッケージが売れる。その一方で、「いや、テレビで一遍見れたら、パッケージは売れないんじゃないの?」っていう考え方、つまり、「テレビで見れないから、そのOVAを買うんだ」っていう理屈もあるよね。ちょっと頭のいい、大学出の役員とかがそういうこと言うから、「それは、あんたがマニアを知らないからだ」と言い返した。そんなことは関係ないんですよ。

 

―― マニアは、見たら所有したくなるものですよね。

 

真木 そうそう、関係ない。おまけもつくし、パッケージもあるし、描き下ろしもあるし。当然それで、爆発的に『天地無用!』とかは売れていくわけですよ。何を作っても売れる。とはいえ、いわゆる「商品化」っていうやり方を、当時はなんでしなかったのかなっていうのは、今でも思いますけどね。アニメイトぐらいしかなかったからかもしれないな。

 

―― 確かにそうですね。

 

真木 それで、アメリカにパイオニアLDCのセクションがあったから、映画でも同じようなことやって、結構売れたし、イベントもやった。ちょうどそれは、野茂(英雄)がデビューした頃ですよ。だから覚えてるんだけどね。

 

―― 『天地』とか『エルハ』は、テレビでやったときにはスポンサーもやるんですか?

 

真木 これは結局、今の深夜アニメの直前の頃なんで、全くビジネスモデルは同じなんだけども、テレビ局から枠を買うんですよ。

 

―― そのときから、そういうやり方だったんですか?

 

真木 そのときから同じ。基本的に買うんですよ。テレビ東京だったら東京だけど、あとテレビ大阪とか、テレビ愛知とか、いろいろバリエーションはあるんだけれども、(枠を)拾っていくと、もう少しお金が増えていく。

 

―― では、スポンサードするというよりは、事業枠を買ってしまうということですね。

 

真木 そう、買っちゃう。『天地無用!』だと、30秒とか60秒(のCM枠)で、6~7枠あるんですよ。パイオニア自身でそのうち2枠は取って、あとの枠は、たとえば当時『天地無用!』のゲームを出したバンプレストが買うとか。こうすると、その枠が、自社広告もあるかもしれないけど、一応は埋まるわけですよ。

 それで、製作費だけは自分で出す。「もともとは製作費をパッケージで回収してたんだから、(テレビの事業枠を買って放送しても、製作費がかかるのは)同じじゃないですか。しかも、(テレビ放送なら)広告効果は抜群なんで、今までの何倍も売れますよ」って言うと、きょとんとしてた。でも、「あいつ(真木)が今までやってきて、結局、アニメ事業を全部黒字にしたんだから、言うことを聞いておけばいい」っていうのが、役員会の(結論で)、そこは段々とそのとおりになっていく。だって、プロがやってるんだから。

 そういう意味では簡単。なんでかっていうと、やってる人が少なくて、アニメの本数も少なくて、今みたいにこんなにいっぱい作品がないから、それは売れるよね。変な話、多少出来が悪くても売れるんですよ。それは、需要と供給のバランスだから。

 

―― そうすると、『天地』はテレビにすることで、さらにパッケージが売れたわけですね?

 

真木 そうそう。もう本当に、笑いが止まらないぐらいですよ。それで映画にするわけじゃないですか。OVA、テレビ、映画っていうのは、少しねじれてるけど、『パトレイバー』と同じことをやってる。

 

―― 確か、『天地』の劇場版のクレジットには、角川が入っていますね。

 

真木 そう、あれが最初の製作委員会です。

 

―― 『天地無用! in LOVE』ですね。

 

真木 その『in LOVE』が、ジェンコをつくるきっかけになるんですよ。というのは、1社でやると、例えば分かりやすく、予算を1億円とするじゃないですか。その予算で、AICに「1億円で作ってね」って言うじゃない? それでAICは1億円で作って、放映するでしょ。1億円が原価で、これをレーザーディスクとか、VHSとかで売るじゃない? で、この売ったお金、販売利益が1億円を超えればもうかるわけじゃないですか。そういうビジネスでしょ。だけど映画にしたときに、僕は初めて製作委員会にした。製作委員会って当時、ジブリはやってたじゃない?

 

―― はい。2、3社ぐらいですね。

 

真木 日本テレビとか電通とかとやってましたよね。(『天地無用!in LOVE』で)製作委員会にしたのは結局、コミックは角川に出してもらってたし、角川の歴彦社長と僕は仲よくなって、結構かわいがってもらっていた。それで『天地無用!』はテレビっていうメディアを使って一回膨らませたけど、今度は違う業界っていうか、一社でやるんじゃなくて、いろんな人が入ってくることによって、さらにレバレッジを効かせようと思ったんですよ。これが製作委員会になるわけですね。だから角川も入ったし、テレビ東京も入ったし、代理店のアイアンドエスも入ったし、ラジオをやった文化放送も入った。それでさらに、彼らのメディアを全部使っていくわけですよ。でも、パイオニアLDCは70%も出してる。それで、残りの30%の分を5%ずつとかで分けていったわけ。

 LDCの社長は、「なんで自分たちがもうかってるものを、人に渡すんだ」って言うから、「いや、これをさらに売るためには、もう1社では限りがある」と。パイオニアLDCはメディア企業じゃないし、単なるビデオメーカーだから。やっぱり、いろんな媒体力を持ってる局とか出版社を入れて、そこで宣伝してもらったほうがいいに決まってるじゃないですか。しかも、受け渡すと言っても30%で、70%はLDCなんですよ。なおかつ、このことによって、LDCが100%出資で作った旧作がまた売れるんだということを説明した。そんなの、ビジネスとして当たり前じゃないですか。でも当時はまだ、けげんな顔されました。

 だからクレジットも、僕(の名前が)、「エグゼクティブプロデューサー」って1枚でバンと出るんだよね。それは結構、「なんであいつは、あんなことになってるんだ?」って言われたけど、そこは角川歴彦さんに、「いいんだよ、彼はそれだけの仕事してるんだから」って、パイオニアの社長に言ってもらいました。

 そこでジェンコのルーツになるのは、たとえば1億円を外部の委員会から集めて、いったんはパイオニアLDCが預かる。それでAICに8000万円を出すと、2000万円が残るじゃないですか。「これがプロデュース費です」と。だって、当たってるものの分け前が、30%を出した製作委員会のメンバーに行くんだし、僕は僕ですごく働いてる。「だから、これはプロデューサー費を取って当たり前だ」っていう理屈を思いついて、それを角川さんに「こういうこと考えてるんだけど、どう思いますか?」って言いに行ったら、「それはいいことに気がついたね」と言われて、イケイケになったわけです。

 そのときに面白かったのが、LDCの経理から連絡があって、「この2000万円はなんだ?」って聞いてくるんで、「利益だよ」って答えたら、「何の利益ですか?」って言うから、「そんなの知らないよ」って言い返した。要するに、経理の費目を知りたいんだよね。メーカーだから、売り上げはメーカーとしての売り上げしかない。売り上げがあって製造原価があって、流通費があって粗利があって、そこから給料とか家賃とか引くのが普通の会社じゃない? ところが、その2000万円には、それがない。そういう収入の得方がないわけ。それで僕が、「よく分かんないけど、雑収入とかにしとけば?」って言ったら、経理は「はあ」と。それもまたちょっとしたヒントになって、「そうか。これは多分、誰もやってないんだな」と思った。その当時もうパイオニアLDCっていうのは、LDが売れないから、ぐっと下降線になってた。上層部の失態とかもあって、緊急事態宣言が発令されて、新しいことをやっちゃいけないとか、そういう状態になってたんです。「映画も作っちゃ駄目」みたいな話になった。

 でも、僕は企画を1つ出したんですね。その企画は子ども向けで、オタク向けじゃない。「だから、これはLDとかはそんなに売れないけど、マーチャンダイジング、つまり商品化でもうけるんだ」って言って、企画を通した。ところが、社長以外の役員は「まぁ、真木が言ってることだから」って承認したんだけど、社長が反対。それで僕は怒っちゃって、「分かった。これが駄目なんだから、これ以上の企画が見つかるまでは企画、出しません」って言ったんですね。

 レギュラーの『天地無用!』も「企画出さないわ」って言って、何もしなかったの。そういう意味では、売り上げがゼロになるわけじゃない? 造反してるわけですよ。そうこうしてるうちに、やっぱり会社も本当におかしくなってきたんで、「もう辞めるしかない」と思って、それで角川さんのところに相談しに行ったら、「じゃあ、会社つくれ。応援するから」って言って、ジェンコができた。そのビジネスモデルは、さっき言った1億円の8000万円と2000万円(の分け方)。いわゆるプロデュース会社の、利益の取り方のビジネスモデルが、そこでできるわけです。

 

―― 当時は、ちょうど、キング(レコード)の大月(俊倫)さんも(株式会社)ガンジスをつくったりしてますよね。やっぱりパッケージメーカーの中で、だんだんソフト(の売上)がピークを過ぎて下がっていくと、バリバリやっていたプロデューサーが外にも会社をつくるっていう風潮はあったんですか。

 

真木 いや、まだ売れ行き自体が下がってた時代じゃないと思う。僕と大月が違うのは、僕は(パイオニアLDCを)辞めてジェンコって会社をつくったけど、大月はキングレコードにいながらガンジスって会社をつくったこと。彼は『(新世紀)エヴァンゲリオン』を手掛けたけど、ものすごくキングにお金を落としたので常務になってた。

 

 

(第5回【メディアをジャックする】に続く)