2025年9月5日、コントラ代表取締役社長の片岡義朗氏へオーラルヒストリーの調査を実施した。片岡氏は東急エージェンシーを経て広告代理店アサツー ディ・ケイにて数々のテレビアニメをプロデュースし、その後もマーベラスやドワンゴで役員を務めた人物である。また本インタビューでは部分的なヒアリングに留まっているものの、今でいう2.5次元舞台の創出にも寄与したキーマンであり、今後のアニメーション研究における貴重な資料になると思われるため、ご本人の許諾を得て以下の通り公開する。インタビュアーはRIVNA所長、開志専門職大学アニメ・マンガ学部准教授の木村智哉が務めた。
片岡義朗(かたおかよしろう)氏 プロフィール

1945年生まれ。アサツー ディ・ケイほか各社でテレビアニメのスポンサー営業、放送局の放送枠確保、漫画原作許諾の獲得、製作委員会の組織および企画・製作、商品化許諾、海外販売、映像パッケージ販売、音楽著作権管理などのアニメビジネスに関わった。また二次利用展開の一環として、早くからアニメ・マンガ作品の舞台化にも携わり、『タッチ』、『聖闘士星矢』、『姫ちゃんのリボン』などを経て、『テニスの王子様』のミュージカル版をプロデュースしている。
1、「子ども向け」だけでも「大人向け」だけでもないアニメを目指して
片岡 日本のテレビアニメに関して言うと、1980年代に1回目の大進化があったんですよね。『Dr.スランプ アラレちゃん』から『ドラゴンボール』の辺りだと思うんです。『週刊少年ジャンプ』にアラレちゃんという、ロボットであろうが女の子が主人公のマンガが載るなんて、あり得なかったじゃないですか。だってそれまで『男どアホウ甲子園』とか、そういうタイプの雑誌の中で、いきなり「んちゃ!」ですからね。あれがアニメになって、記録的な視聴率を取ったんですよ。あれが1回目の大進化。生物が一遍に多様化したカンブリア爆発みたいなのが、多分『アラレ』でしょうね。
それと2回目、生物が海から離れて陸上にはい上がったのが、『(新世紀)エヴァンゲリオン』と『ポケットモンスター』です。アメリカに売るときには『ポケモン』が、『エヴァ』にもすごく影響したんですよ。『ポケモン』アニメのアメリカでの大ヒットによって、日本のアニメでも商売になるんじゃないかっていうふうに、ディストリビューターの人たちが考えたんですよね。アメリカではテレビ局が直接に買わないので、ディストリビューター、販売業者がいるんですけども、アメリカマーケットの扉が開いたのが、その頃です。
-- 1つ目の時期には『タッチ』をプロデュースされていますね。『陽あたり良好!』や『ハイスクール!奇面組』もですが、子ども向けアニメとはちょっと違う路線に見えます。
片岡 それは僕の目的意識的に、はっきりそう思ってましたよ。アニメが子どものものなんて誰が決めたんだ。大人だけのものでもない。全人類のものですよって。僕の当時のスローガンが、「アニメは子どものものではあるけど、子どもだけのものではない。心のピュアな人のものだ」だったんです。心のピュアな人は、おじいさんでも、おばあさんでも、大人でも、ヤーさんでも、みんなアニメのファンになるんですよって、ずっと言い続けてたんですよ。だってドラミちゃん見てたら、この娘かわいいなって、みんな思うじゃないですか。ドラえもん見てたら、こんなやつがいたらいいなって、大人でも誰でも思う。つまり、みんな少年少女の気持ちになっちゃうんですよ。
-- テレビ番組として、ちゃんと視聴率が取れるという確信があったわけですか。
片岡 ありました。でも僕が、『タッチ』をどうしてもやりたいと思って企画書を出したら四面楚歌で、全員が反対だった。当時、僕は平社員だったから、「こんなものスポンサーなんか付かないよ。おまえ何ふざけた企画を出してんだ。もし当たらなかったら、おまえ辞めるのか」とか言われたんだけど、「絶対に当たりますよ」って。日曜夜7時の枠に『タッチ』入れたら『サザエさん』から並んで、ファミリー全員が見れるアニメになる。しかも野球と初恋でしょ? ヒットする。しないわけないじゃないですか。ただ、そのときにマーチャンダイジングがしにくいので、スポンサーが付かない。だから駄目だっていうのは、一つの正論ではあるんですよね。でもそこからは、マーチャンダイジングスポンサーだけが付くべきスポンサーなのかって議論が抜けちゃってるんですよ。視聴率1パーセント取るのに幾らお金がかかるかっていう、パーコストって言葉があるんです。30パーセント取れば、それがペイするんですよ。ですから最終的に、『タッチ』がヒットしたとき、ローソンがスポンサーに付いてくれたんです。ローソンは別に、何もマーチャンダイジングしないんですよ。来店客の年齢層と『タッチ』の視聴者層が合うと思ったんでしょうね。『タッチ』では、ローソンで今でも売ってる「からあげクン」のコマーシャル流したら、その売り上げが上がったんです。それで社長が喜んでくれたんですよ。そういうこともあって僕の中では、アニメが子どもだけのものだなんて誰が決めたんだ。そうじゃない。視聴率が取れればいいんだっていうことで対抗してた。けれども、そういうふうに「視聴率が取れてるから提供してください」っていうことで、アニメの番組を売ったことがない人たちばっかりだったんですね。
それともう一つ、あだち充先生の作品は、フジテレビで先行番組が2つあって、両方とも、あんまり視聴率が取れなかったんですよ。『みゆき』が木曜日の19時台で、もう1つが特番の『ナイン』。『みゆき』は視聴率が取れなかった訳があって、あだち先生のマンガって、連続ストーリーじゃないですか。1話完結じゃない。それを、ナイターが半年間に13本入る枠でやったんですよ。つまり、毎週連続して見る習慣が付かない枠です。そこで連続物語やっても、視聴率取れないじゃないですか。
でも『みゆき』はH2Oの「想い出がいっぱい」が大ヒットしたんです。つまり、あだち先生やテレビのアニメのファンに、付いてきてる人たちが大勢いるってことを、僕はちゃんと分かってたつもりなんですよね。それで『タッチ』の日曜19時台は、ナイターが26週中1~2本ぐらいしかない枠だったんですよ。しかも前枠が『サザエさん』で、その視聴率が高い流れを受け止めて、イケると思ってました。
(第2回 【『ドラゴンクエスト』のテレビアニメ製作をめぐって】に続く)