<第7回 開志コラボセミナーレポート>デジタル化する世界と地域経済の可能性~DXとグリーンがもたらす新たな展望~

本学における産学連携プロジェクトの一環として、産業界で活躍するビジネスパーソンを講師に招いて実施している「開志コラボセミナー」。今回は、2021年12月1日(水)に実施されたコラボセミナーの模様をレポートします。
第7回となった今回の講師は、フューチャー株式会社取締役 フューチャー経済・金融研究所長、デジタル通貨フォーラム座長、ニューヨーク州弁護士 山岡浩巳さん
1986年東京大学法学部卒業後、カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院へ。日本銀行調査統計局景気分析グループ長、企画室シニアエコノミスト、金融機構局参事役大手銀行担当総括、金融市場局長、決済機構局長などを経て、現在は日本のメガバンクや主要企業などで構成されるデジタル通貨フォーラムの座長、東京都の国際金融フェローなども務めています。

今回のテーマは「デジタル化する世界と地域経済の可能性~DXとグリーンがもたらす新たな展望~」
デジタルが、世界経済や社会インフラにどういう影響を及ぼしているのか。金融の中核であるマネーがどう変わろうとしているのか。現状と問題点を語っていただきました。

 

バブル期そして30年後

 

日本のバブルのピークだった1989年、世界の時価総額トップ10には名を連ねたのは、NTTや都銀などの日本企業。それから30年後、2019年になるとGAFAやBATと呼ばれるビッグテック産業へと様変わりします。Microsoft、Facebook、Amazon、Google、Apple…アメリカの今を代表する大企業ばかり。それぞれの拠点を見てみると、そのほとんどはニューヨークではなくカリフォルニア州の山の中。1989~2019年の間、比較的経済力が衰えなかったアメリカは、コンセプチュアライゼーション型産業の発展、つまりは拠点がどこであってもデメリットのない業種が急成長を遂げていました。
「日本の時価総額上位の企業のほとんどは、東京に集中しています。世界の産業の中心がコンセプチュアライゼーション型産業に移行し、モノよりもコンセプトを売る時代。そして、情報やデータのデジタル化。それらを考慮すると、大消費地や大都市に大企業が集中している必要性はなく、1989~2019年に見られる日本とアメリカの経済成長の差はここにあるのではないかと思うのです」

そしてもうひとつ、この間に世界でもアメリカでも圧倒的に大きな成長を遂げたのが、ソフトコンテンツ産業。どこでも仕事ができる、むしろ従業員が暮らしやすいということが優先されやすい業種です。
「なぜこれが日本でできないのか。逆に考えれば、日本で地方経済を活性化できれば、日本全体の活性化にもつながるかもしれないと考えます」
バブル期から、産業構造や産業の立地の分散構造が変化していない日本。このことからも、日本経済の発展は、地方の活性化が大事だといいます。

 

スマートフォンが世界を変えた

2008年前後に、世界で圧倒的に大きな動きを図ったデジタル技術。例えば、2007年のiPhoneの導入。そして、リーマンショック後の爆発的な普及。Kindleも同時期。Facebookのいいね、likeボタン、Instagramはまだ影も形もなかった時代です。ディープラーニングが発達してきた2010年前後に応用が急速に進んだ人工知能AI、そしてクラウド、モバイル決済…今の生活で当たり前だと思っていることが、ほんの10数年前には存在していなかったのです。

特に著しい発展を遂げたのは、スマートフォン。今、金融ビジネスを考えるときにスマートフォンの存在抜きでは考えられないといいます。
「ビジネスの方向性としては、アプリを開発して、ダウンロードしてもらって、それをビジネスに生かす。スマートフォンは圧倒的!銀行口座を持たない人が世界で17億人位いる中、その3分の2以上はすでに携帯電話やスマートフォンを持っているのですから」

そして、デジタル化で経済活動も大きく変化。グローバライズ、パーソナル、バーチャル…スマートフォンを経由することで、どこにいても、ありとあらゆるサービスが届けられるといいます。
「ATMや店舗という物理的なインフラが無くても、サービスを届けられるようになっている。もちろん競争は激化します。新潟で作ったものを世界中の人に売ることも可能に。地理的国境がなくなり競争は激化する一方、可能性は広がっています」

 

支配的影響力を持つビッグテックの存在

各国の産業の中で大きなパワーを持っていた金融機関に代わる存在と言えば、世界で支配的影響力を持つIT企業群ビッグテック。情報やデータの入手という点で、これまでの銀行にはなかった強みを持っているといいます。そして、他からのデータを大量に入手できるアウトレットを持っていることで、そのデータを活用する技も兼ね備えています。

「ノンバンクのビックテックの方が格付けも良くて調達コストも安い。金融業において、調達コストが安いのは圧倒的に有利になるわけです。そして、揃ってモバイル決済の分野に参入。伝統的な金融機関にとっては儲けやすい産業ではない決済も、ビッグテックには違う。データや幅広いビジネス、ネットワーク化…これまでの金融機関にできなかったようなデータの活用が可能なのです」

ひとつのアプリのダウンロードから、次へ次へと波及。金融はもちろん、食事や日常品、薬品など、決済を使って色んなサービスを束ねることが可能となります。さらには、その情報をもとにデータを分析して、また違うサービスを展開。企業においては、在庫数と販売量がリアルタイムで分かったり、忠誠心をデータで管理してインセンティブを作り出したり、医療や保健サービスを受けやすくなったり。たくさんの合わせ技を持っているのも、ビッグテックならではだといいます。

「例えば、モビリティ型サービス。家からバス停までデジタルペイメントがあれば、レンタル自転車を使えます。これは、現金では不可能。自転車そのものが盗難されるリスクを防ぐには、使用情報を運営側が把握していないといけない。デジタルペイメントに紐づけることで、これも可能になります」

デジタルの観点からすると、10万円の給付金がマイナンバーカードで配られなかったことが大きな痛手と語る山岡さん。デジタル庁の発足に繋がった出来事である一方、デジタルの課題を浮き彫りにした問題でもありました。
「ポスト・コロナ社会は色んな課題が出てきています。解決のために、デジタル技術をどう活用していくのか。地域もそうですが、こういった発展の可能性を大きく決めていくのだろうと思います」

 

地域経済の可能性と展望

新潟には、多くのアセットがあり、今の時代の価値観に非常に合致するものばかりだと話す山岡さん。
「デジタル化によって、新潟にいることがデメリットになることはなくなってきます。もちろん競争は激化していますが、優れた付加価値を認めてくれます。優れたものができていれば、世界中にユーザーやカスタマーが付きます。さらに、外部のリソースAPIなどの活用も容易になります。全部を自分でやる必要が無く、コンテンツのコアの部分を自分が出来ればそれ以外のものをどんどんとってくれば良いということになります。新潟の名産品の中で、カーボンニュートラルの観点からの問題というのはほとんど見られず、これを付加価値として、収益化していくことを考える余地も大きいのではないかと思います」

 

 

日本、そして新潟が抱えている問題や新たなビジネスチャンスを知るきっかけとなった今回のコラボセミナー。世界の動きを見ながら、それを自身の置かれている立場でどう生かしていくのか。山岡さんのこれからの取り組みが、実現に向けての確実な一歩となります。
今後も開志専門職大学では、さまざまな方をお招きしてのコラボセミナーを開催予定です。