学長室の窓から Vol.5 「ラグビー選手の𠮟り方」
2023年9月27日
ラグビーW杯仏大会が進行中である。4年前の日本大会からのラグビー人気が続いているが、半世紀前にもラグビーの黄金期があり、秩父宮ラグビー場はいつも満員、伝統の早慶戦は切符を取るのが難しかった。
当時ミスターラグビーと言われた花形選手に平尾誠二がいた。伏見工業高校、同志社大学、神戸製鋼とラグビーの名門に進み、高校、大学実業団の全てで日本一となった。神戸製鋼の日本選手権7連覇に貢献し、引退後は総監督兼GMを務めた。ハンサムでファッション誌に登場して規定違反となり、いっときアマチュア資格を喪失したエピソードの持ち主でもある。日本大会前に亡くなられたが、存命であれば間違いなく代表監督候補だった。
お別れの会でノーベル医学賞受賞者の山中伸弥先生が登壇された。スポーツ人として、家庭人として、社会人として尊敬できる超一流の人物だった、と紹介された後、彼から教わったという「叱り方4原則」を披露された。
第一 プレイのミスを責めても、人格批判はしない。
「アホか!下手くそ」などというのは禁句である。
第二 他者と比較しない。
「兄貴は、お前よりずっとうまかった」などと言われると叱られた選手は一段と落ち込む。
第三 長々と叱らない。
叱られた側は十分に自覚している。同じことを繰り返すのは逆効果である。
第四 フォローする。
時をおいて「少し上達したな」と言われると嬉しいものだ。
第三原則までの真逆をやっていたのが野球の名選手で監督としても一流だった故野村克也さんだ。負けた試合後のインタビューで「今日はあいつのエラーで負けた。下手くそでどうしょうもない。トレードに出した前の選手の方がずっとうまかった」と散々にこき下ろす。エラーして落ち込んでいた選手は、翌日のスポーツ新聞を見て愕然とする。
ところが数日後トイレで出会わせたとき、気づかない素振りで前を向いたまま監督はつぶやく。
「あいつは守備は下手だが、走塁には見所がある」
その選手は発奮して代走として起用されているうち、守備にも精進して上達し、一流選手に成長したそうである。まさにフォローの名芸人で他人は真似ができない。
さて、自分は平尾4原則を実践できているかと問われると、全く自信がない。
一期生はまもなく社会人となる。しばらくは叱られる側だろうが、上司に叱られたときには4原則を思い出して「この𠮟り方は下手だな、反面教師として自分が叱る側になったときの参考にしよう」と受け止めれば、罵詈雑言にも耐えられるだろう。
(学長 北畑 隆生)