学長室の窓から Vol.3 「火の見櫓(ひのみやぐら)のリーダーシップ」
2023年9月9日
ある学生からリーダーシップについて問われたことがある。元警察庁長官から聞いた名言の請け売りなのだが、「町火消しの頭取の心意気」に学ぶべきと答えた。
天守閣まで消失した明暦の大火を筆頭に江戸は火事の多い町であった。特に町人の住む地域は木造家屋が密集していて危険極まりない。明暦の大火の後、名奉行大岡越前守の発案で「いろは48組」の自治消防組織が編成された。幕末に活躍した新門辰五郎は「を組」の頭取で配下には200人を超える火消しがいたという。
①「火事だ!」と言う声を聞いて真っ先に飛び出し、火の見櫓を駆け登るのが頭取の仕事である。つまりリーダーは率先垂範。普段は部下任せでもここぞというときには前に出て自分でリスクを取る覚悟が必要だ。
②火の見櫓の上から「火事はあそこだ、風は北風だ!」と叫び、半鐘を鳴らして迅速な消火と避難を促す。当時は風下の家屋を壊して延焼を防ぐ破壊消防が主流だった。火事現場の位置や風向きを間違えては避難者や火消しに危険が及ぶ。無駄に家屋を壊された住人の納得も得られない。リーダーは組織のビジョンや具体的な課題を的確に示さなければならない。
③遅れて火の見櫓の下に集まってきた火消しからは頭取の褌(ふんどし)が丸見えである。褌の汚れている頭取に配下の火消しはついて来ない。リーダーは廉潔を旨とすべきである。上司の不正やズル、みっともない行為は隠したつもりでも、本人が知らないだけで部下は意外に知っているものだ。
本学在学中に起業した学生は5組、社長が5人誕生した。卒業すれば事業承継でいずれ社長になる学生もいる。社長はもとより、就職していずれ部下を持つこととなる卒業生も「火消しの頭取の心意気」を覚えておいてほしい。
(学長 北畑 隆生)