

開志専門職大学
渡辺さんのお仕事についてお聞かせください。
渡辺潤
ハリウッド映画のVFXの仕事をしています。VFXはビジュアル・エフェクトの略です。VFXは、撮影の時には映像に入っていない要素を、後からデジタルで足していくのです。

渡辺潤
僕の専門分野はエフェクト・アニメーションです。エフェクト・アニメーションとは、キャラクター以外の特殊なアニメーションを指し、煙・炎・爆発・破壊系・海・水などを担当します。


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どのような作品で、渡辺さんのVFXのお仕事が見られるのですか?
渡辺潤
『スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け』、『ハン・ソロ / スター・ウォーズ・ストーリー』、『ベイマックス』などが代表的な作品です。


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もともと、現在のお仕事を目指すきっかけとなったのは?
渡辺潤
高校の時にハリウッド映画や日本のアニメを見て、「こういう作品を自分でも作ってみたい」と思ったのがきっかけです。それで専門の学校に進学して、そのまま日本のCG(コンピュータ・グラフィックス)のプロダクションに入社し、それからアメリカに移って、最終的にはハリウッド映画の仕事に携わるという夢が叶いました。


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具体的にはどういう作品を見て影響を受けたのですか?
渡辺潤
ハリウッド映画では『スター・ウォーズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のシリーズですね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の1作目のラストシーンでは、デロリアンが空に飛んで行って、さらにUターンしてカメラの方に突っ込んでくるじゃないですか。

渡辺潤
さらに背景には稲妻が走っています。どうやったらこういう映像が出来るんだろうと、興味が湧きました。しかも当時はCGの技術は使っていなくてミニチュアで撮影していたんですよ。


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何年前の映画ですか?
渡辺潤
1985年だから36年前です。つい昨日のことのような気がしますが(笑)。


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それでは次に、36年前から時間を飛び越えて、渡辺さんの最近のニュースについて教えてください。
渡辺潤
2021年11月5日に公開予定のマーベル映画『エターナルズ』に参加しました。『アベンジャーズ/エンドゲーム』の2年後を描いた作品です。

渡辺潤
実は今年、2つのVFXスタジオで働いたのですが、両方の会社で偶然、この『エターナルズ』の仕事をしました。規模の大きい映画ではよくある話で、複数のVFXスタジオにシーンごとに発注されることが多いです。私の場合、A社で働いた後にB社に移ったんですが、どちらのスタジオも、同じ映画の別のシーンを作っていたというわけです。


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渡辺さんはフリーランスのアーティストなんですね。だから、いろんな会社でお仕事をされるということでしょうか?
渡辺潤
プロジェクトごとに声が掛かって働きます。1つのプロジェクトが終わる頃に次の会社から呼ばれれば、また別のプロジェクトがスタートします。全ては出会いとタイミングと運ですね。

渡辺潤
アメリカでは「コントラクト」と呼ばれる契約期間は、その会社の正社員と同じ扱いです。ベネフィット(健康保険などの福利厚生)も正社員とほぼ同じです。雇用期間が決まっている社員といった立場ですね。


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さて、渡辺さんがもともと海外に興味を持つようになったきっかけは? やはり映画を通してですか?
渡辺潤
いろんな段階がありますね。最初は、海外出張が多かった父の影響でした。父が外国から戻ってくると、日本では見かけないチーズが食卓に並んだりしていました。当時は、自分も大きくなったら、父のように自然と海外を飛び回るんだろうなって思っていました。実際はそんな簡単なことではありませんでしたが(笑)。

渡辺潤
その後、専門学校の卒業旅行でSIGGRAPH(コンピュータグラフィックスの国際学会&映像フェスティバル)を初めて体験して、自分も海外で仕事をしてみたいと思うようになりました。でも、その頃は漠然とした夢といった感じでした。


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本格的に海外を目指すようになったのは?
渡辺潤
世界中から応募された中から、自分の作品がSIGGRAPHの映像フェスティバルで入選したのです。その時はすでに日本のプロダクションで働いていました。25歳くらいでした。

渡辺潤
それを契機に、海外で働くための就職活動を開始して、29歳でロサンゼルスの日系のCGプロダクションに転職しました。


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日系ということは日本人経営の会社ですか?
渡辺潤
そうです。今は全社が撤退してしまいましたが、当時は日系のそういう会社が3、4社あって、私の作品がSIGGRAPHで入選した時に、社長さんと知り合った縁で採用していただきました。

渡辺潤
最初は日系の会社から始めて、今はハリウッドのメジャー作品に携わるところまで段階を踏んでステップアップしてきました。


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来た頃のアメリカの印象は?
渡辺潤
そうですね、全てが日本と違うなと思いました。最初は月極めのホテルで暮らし始めて、それからアパートを借りて、アメリカのスーパーに行って、次に日本のスーパーの場所を覚え、和食や日本のカレーはどこで食べられるかを調べ、というように少しずつアメリカの生活に慣れていきました。


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英語は当初、どれくらい話せたのですか?
渡辺潤
来た当初は観光旅行で使う程度の英語でした。それでこっちで働き始めてから、ビバリーヒルズ高校のESL(英語が第二言語の人のためのクラス)に夜、通いました。でもそれだけでは十分ではないので、仕事でも失敗を繰り返しながら少しずつ学んだといった感じですね。


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現場で習得したんですね。
渡辺潤
私は帰国子女でもないし、日本で普通に生まれ育ってこちらに来たので、分からない単語もあるし、まず(英語のネイティブスピーカーとは)アクセントが違うわけです。さらに、会話の中で「は?」と思う瞬間が時々あって、その時は調べますし、また相手に確認します。今でも日々、勉強です。


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海外で働く夢を実現した渡辺さんですが、仕事で喜びを感じるのはどんな時ですか?
渡辺潤
映画のエンドクレジットに自分の名前が出たのを見た時です。でも、以前にWatanabe(ワタナベ)が間違えられてWantannabe(ワンタンナベ)になっていたことがあったんですよ(笑)。日本人の名前はスペルチェックが通らないので、こういうことも起こります。


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スペルの間違いはうれしくないですが、自分の名前がビッグスクリーンに登場したら感動しますよね。
渡辺潤
特に『スター・ウォーズ』のシリーズに参加できたことは本当にうれしかったです。『スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け』の時は、サンフランシスコに半年間滞在して、そこでずっと作業に取り組みました。

渡辺潤
その作品で最後、ものすごい数のクルーの名前がエンドクレジットに出るのですが、自分はWなのでアルファベット順だと最後の方ですけど、自分の名前を確認した時は感無量で、うれしかったですね。


開志専門職大学
『スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け』ではどのシーンを担当したのですか?
渡辺潤
最後のスター・デストロイヤー上での戦闘シーンの中での爆発や煙、それから一瞬なんですけど、ミレニアムファルコン号がハイパースペースにワープするシーンを1ショット担当しました。ハイパースペースのワープ・シーンは昔からやってみたかったので、うれしかったですね。


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担当した部分に関して、一発OKなどもあるんですか?
渡辺潤
それはほぼないですね。私たちの仕事は、上の人がチェックして、フィードバックを受けて何度も何度も調整しながら完成させます。例えて言えば、フランス料理のようなものです。


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どういうことですか?
渡辺潤
フランス料理では、料理長が前菜、メイン、デザートなどをチェックしてお客様に出せるかどうかを決めますよね。その料理長が私たちの場合のVFXスーパーバイザーです。お客様に見せられるクオリティーかどうかをスーパーバイザーがチェックします。


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なるほど、では何度か調整するんですか?
渡辺潤
何十回となく調整します。さらに他の要素と合成した後に不具合が出ることがあるので、その際にはまた、調整し直します。延々と手直しが続くのです。


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スキルはもちろん情熱や忍耐が必要なお仕事ですね。
渡辺潤
さっきはフランス料理に例えましたが、私は自分の仕事をよくカレーライスの福神漬けに例えます。ご飯はもう既すでに炊けている。ルーもできている。でも、それをもっとおいしく食べるためには、味を引き立てる福神漬けをおいしく作って、美しく配置するのが自分の役割だということです。


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なるほど。カレーライスだけでも食べられますけど、おいしい福神漬けがあればさらにおいしさが増しますよね。
渡辺潤
はい、私は福神漬け担当です(笑)。


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続いて、どんな子どもだったか、教えていただけますか?
渡辺潤
出身は横浜です。どんな子どもだったか? どうなんでしょうか、普通の家庭に育った普通の子どもでした。


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手先が器用だとか、絵を描くのが上手だったとか?
渡辺潤
物を作るのは好きでしたね。鉄道好きの兄の影響で、一緒に鉄道模型の制作に熱中していました。その時覚えた知識が今でも頭の中に残っています。電車の何系だとか、線路の幅が何ミリとか。アメリカに来て、メトロ(鉄道)の線路を見た時も「おお、これはゲージが1435ミリだ」とかって、役に立たない知識なんですが頭から消えないんです。私は小学生の時に、記憶容量を使い果たしたようですね(笑)。


開志専門職大学
その当時の将来の夢は何でしたか?
渡辺潤
電車の運転手でした。それから中学・高校で映像系に興味が移って、当時は『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』などをテレビで見て興味を抱いてました。手で描いているアニメ作品が、なぜあそこまでリアルに見えるのか、どうやって作っているのか知りたいと思うようにもなりました。


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そして、高校時代にハリウッド映画に魅了されたんですね?
渡辺潤
高校では、文化祭で特撮のSF映画を作って上映しました。エスパーの生徒会長が手から光線を出して、学校を乗っ取るんです。バカ受けでしたよ。先生にも悪役のエスパーを演じてもらいました(笑)。


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さて、学生時代に経験しておくべきことをアドバイスするとしたら、何と言いますか?
渡辺潤
映像の道に進みたいと思っているなら、できるだけ多くの映像作品を見て、目を養っておくべきだと思います。CGの仕事をするなら、もちろんソフトウエアの使い方が大事ではあるんですが、同様に映像に対するセンスも重要です。


開志専門職大学
見て学ぶんですね。
渡辺潤
そうです。映像作品を見ることで、たくさんインプットするのです。さらに、この仕事に進みたいなら、ドローイングやデッサンも勉強した方がいいですね。


開志専門職大学
映像作品を見ることに関して質問ですが、どんな作品を中心に見るべきでしょうか?
渡辺潤
一つの見方としては、自分が好きだと思う作品を何回でも繰り返し見ることです。好きな作品だと、より研究したいと思えるはずです。次に、アカデミー賞のノミネート(候補)になった作品、例えば、前の年のVFX部門の候補作を順番に見るといいでしょう。

渡辺潤
それから、将来海外に出たい人なら、英語のトレーニングを学生時代に始めることをお勧めします。映画を見る時も日本語字幕を消して、耳を英語に慣らすといいと思います。


開志専門職大学
では、渡辺さんご自身のお仕事の上での究極の目標とは何でしょうか?
渡辺潤
ハリウッドの映像作品に携わりたいという夢は幸い叶いました。いつの日かVGXスーパーバイザーになれる日まで頑張りたいですね。


開志専門職大学
どのような部分で努力をすれば、さらに上に行けるとお考えですか?
渡辺潤
3Dのソフトウエアを使いこなすスキル自体は、ハリウッドでは「できて当たり前」なので、もっとクリエイティブなスキルの向上も含め、総合力を高めていきたいと考えています。人をリードできるスキルとか、そういったものも実力を向上させていきたいな、と思っています。


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上を目指し続ける渡辺さん、といった印象です。さて、開志専門職大学の特別講義では何をお話いただけますか?
渡辺潤
次回もハリウッドのVFX制作現場の様子を、写真を交えてご紹介します。写真は、公開が許される範囲のものをお見せします。例えばスタジオ内の見学コースとか、ランチ風景だったりとか。ハリウッドのVFX制作現場が、手の届かない遠いところではなくて、少しでも親しみや憧れを感じてもらえればと思います。


開志専門職大学
渡辺さんの講義をきっかけに、ハリウッドが身近な存在として感じられるようになるかもしれません。ワクワクしますね。特別講義を楽しみにしています。
特別講師 渡辺潤氏
横浜市生まれ。東京工学院芸術専門学校(現東京工学院専門学校)CG科第1期卒。卒業後トーヨー・リンクに入社。自主制作のアニメーションがSIGGRAPHの映像フェスティバルに入選し、それを機に渡米。現在はロサンゼルスを拠点に数多くのハリウッド作品にエフェクト・アーティストとして携わる。最近の参加作品には『ハン・ソロ / スター・ウォーズ・ストーリー』『ジュラシック・ワールド / 炎の王国』『アントマン&ワスプ』『スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け』がある。
インタビュー:福田恵子
撮影:鈴木香織
動画:ジーン渋谷

