

開志専門職大学
渡辺さんのお仕事、VFXとはどのようなことをするんですか? 高校生にもわかるように解説していただけますか。
渡辺潤
VFXとはビジュアル・エフェクトの略で、日本語で言うと「視覚効果」になります。

渡辺潤
コンピュータ・グラフィックス(CG)の技術を使って、映画の画面に特殊効果を作っていくんですが、撮影の時には入ってない要素を後から「足して」いくのです。

渡辺潤
昔の特撮というのは撮影をする時に、一緒に撮影していました。

渡辺潤
でも、VFXは特殊な撮影の時ではなくて、後から画面に足すので、「ポストプロダクション」、ポスプロと略して呼ばれています。

渡辺潤
その中にもいろいろあって、ライティング、モデリング、アニメーション、エフェクト、カラーコレクションなどの専門分野に分かれています。

渡辺潤
僕はHoudini(フーディーニ)というソフトを使用したエフェクト・アニメーションを専門にしています。


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エフェクト・アニメーション?
渡辺潤
キャラクター以外、たとえば、爆発、煙、水、破片、破壊などを表現するアニメーションです。

渡辺潤
キャラクターはキャラクターを専門にするアーティストがいるんです。


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具体的にこれがVFXです、という例を教えてください。
渡辺潤
『スター・ウォーズ』は、ショットによっては、ほとんど視覚効果で作られてるシーンもあります。

渡辺潤
例えば、この画面(『ハン・ソロ / スター・ウォーズ・ストーリー』の1シーンを指して)は全部VFXですね。

渡辺潤
このミレニアムファルコンも後ろの背景も、撮影したものではなくて後で作られています。

渡辺潤
ちなみにこのファルコンは日本人の成田昌隆さんというモデラーの方が手がけたものなんですよ。


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何一つ実際に撮影したものはないということですね。
渡辺潤
今お話しした、このショットの場合は、そうです。ただ、映画の中には、実際に撮影されたショットも沢山登場しますよ。ショットによって異なります。


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現在のハリウッド映画のほぼすべてにVFXは使われているのでしょうか。
渡辺潤
そうですね。どんな作品でもほぼ使っていると言えます。

渡辺潤
ドラマでも、スタジオには室内のセットだけあって、窓の外はグリーンスクリーンで、背景は後からVFXで海とか空とかを足していきます。

渡辺潤
また夜空だったり青空だったりと、ストーリー展開に合わせた背景を入れていくんです。

渡辺潤
あとで建物を足したりだとか。建物は実際には1軒しかないのに、遠方に建物がズラーっと並んでいるように見せたりもします。

渡辺潤
何もない青空に、鳥が飛んでいる映像を足したりする事もあります。これらは全部、視覚効果の一例ですね。


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なるほど。ハリウッドはVFXの最先端の地ということでしょうか。
渡辺潤
そのとおりと言って良いでしょう。


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最先端の地でお仕事をしているのですから、やりがいがありますね。
渡辺潤
そうです。映画のエンドクレジットに自分の名前が載る、やりがいがある仕事です。


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もっとも手応えを感じた過去の作品は?
渡辺潤
映画『ハン・ソロ/ スター・ウォーズ・ストーリー』は、自分の目標だった『スター・ウォーズ』シリーズに参加することができたので、やはり嬉しかったですね。


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『スター・ウォーズ』に関する思い出を聞かせてください。
渡辺潤
シリーズ最初の作品は小学生の時に公開になったんですが、僕は映画館でリアルタイムでは見ていないんです。

渡辺潤
その後、テレビで初めて放映された時に見て圧倒されましたね。やっぱりすごいなあ、と思いました。


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一番印象に残っているシーンは?
渡辺潤
「エピソード4」では、やっぱり最後のデススターに突入していくシーン、よくできていましたね。ダース・ベイダーのインパクトも強烈でした。ハン・ソロのコミカルさも印象的です。

渡辺潤
あの映画はアクション、エンターテインメントと様々な要素のバランスが取れていますよね。


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『スター・ウォーズ』を見たことが、その後の転機になったのでしょうか。
渡辺潤
そうですね。高校生になると8mmフィルムの映画制作に興味を持ち、取り組むようになりました。

渡辺潤
文化祭用に制作した40分間のSF映画が学校内である程度の評価を得たことが、本格的に映像の世界に興味を持つきっかけになったと思います。


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それで専門学校に進学されるんですね?
渡辺潤
そうなんです。当時、やっとCG科というものが出来始めた時でした。


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どんな学生でした?
渡辺潤
とにかく夢中でCGを勉強していました。

渡辺潤
そして、専門学校2年生の時に父親にお金を借りて(アメリカで開催される)世界的なCG学会&コンベンションであるSIGGRAPH(シーグラフ)に行きました。そのお金はその後、毎月2万円ずつ返してました。


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どこで開催されるコンベンションですか?
渡辺潤
毎年、開催場所は違うんですよ。その時はダラスでした。ロサンゼルスに着いてダラスに移動しました。


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初めてのアメリカの印象は?
渡辺潤
よくもここまでアメリカ人ばかり集めたな、と。アメリカだから当たり前なんですけどね(笑)

渡辺潤
SIGGRAPHは、コンベンションだけじゃなくて、映像フェスティバルもあるんですよ。

渡辺潤
それを見て刺激を受けて、こんな風に海外で仕事ができたらいいなあという漠然とした憧れはその時に生まれました。


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SIGGRAPHに行くまで、海外との接点はなかったのですか?
渡辺潤
父親が海外出張が多いビジネスマンでしたので、将来、自分もそういう風になるんだろうな、とは思っていましたね。

渡辺潤
父は仕事でアメリカ、ドイツ、スペインとあちこち行ってました。アメリカが多かったですけどね。


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お土産で今でも覚えているものはありますか?
渡辺潤
チョコレートとかチーズとか買って帰ってました。そういうのを食べて、大人になってこっちでラルフス(スーパーマーケット)に行くと牛が笑っているイラストのチーズがあって、父親が買ってきたのはこれだったのか、と。

渡辺潤
父が海外から買ってくるプロシュート(生ハム)も子供の頃は美味しいと思えなかったですけどね。何でこんなの買ってくるんだろう、と。

渡辺潤
でも、海外ではプロシュートがスーパーに普通にありますよね。ハーシーズのチョコレートとかね。父はそういうのを買って帰ってくれていたわけです。


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お父様は海外の話をしてくれましたか?
渡辺潤
父が時々言っていたのは、アメリカとヨーロッパの文化は全然違う、ということでした。建築物を見ても、アメリカ、たとえば、ロサンゼルスは文化的に大したことないって。

渡辺潤
ヨーロッパにはサクラダファミリアとか、歴史歴なお城とかがあるじゃないですか。ロサンゼルスにはないですからね(笑)。



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専門学校を卒業してからは日本で就職を?
渡辺潤
そうです。リンクスという、今で言うイマジカに就職しました。五反田のイマジカに勤務していたので、私はイマジカに育ててもらったようなものです。


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日本で就職してからも、アメリカを目指していた?
渡辺潤
もちろん、チャンスがあれば是非行きたいと思っていました。それで、プロになって5年目の時にSIGGRAPHに作品を応募して入選しました。25歳でした。

渡辺潤
その時にビバリーヒルズにある日系の映像プロダクションを介して応募したんです。それで、その映像プロダクションにコネクションができました。


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その会社に来ないか? と言われたんですか?
渡辺潤
逆に、私の方から雇っていただけませんか? とアプローチしました。そして、その3年後くらいに雇っていただけることになり、ロサンゼルスに来ました。


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実際にアメリカで働いてみて最初に感じた壁とは?
渡辺潤
最初に入ったのは日系の会社でした。もちろん社員には英語圏の方もいましたが、社内はほとんど日本語でした。最初のアメリカの働き先としては僕には有り難かったです。

渡辺潤
それから徐々に生活面など慣らしていきました。だから、大変だと感じたことはありませんでした。


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その後、転職されていますね。
渡辺潤
会社が倒産してしまったんです。その当時は日系の映像会社がロサンゼルスにあったんですが、今は一つも残ってないです。

渡辺潤
就職活動は大変でした。その当時はホームページとかで応募するんじゃなくて、デモリールを郵送する形でVFXの会社数社に送って、採用されました。

渡辺潤
でも次の会社も1年くらいでした。そこも(倒産して)なくなって、次の転職先もなくなって。大体なくなるんですよね。

渡辺潤
英語とか異文化ギャップというよりも、会社がなくなってしまう、そういう苦労の方が多かったです。


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仕事での苦労はありましたか? 日米との差など技術面で感じたのでは?
渡辺潤
それはもう日々、大変だと感じて、今でも努力は続けています。勉強と鍛錬の連続です。

渡辺潤
ソフトのバージョンもしょっちゅう変わるし、だから勉強してついていかないとダメですよね。インターフェイスもメニューの位置も変わるし、バージョンごとにどんどん、あらゆることが変わるんですよね。


開志専門職大学
今はフリーランスで活動されていますね。
渡辺潤
最後に勤めていた、アカデミー賞もとった有名なスタジオが倒産した後はフリーになりました。最近は、映像のプロジェクトが全部カナダに行ってしまっているんです。

渡辺潤
ロサンゼルスに、正社員を雇っている大手のVFX制作会社はほとんありません。フリーランス雇用ばかりです。その関係で、フリーランサーにならざるを得なかったのです。

渡辺潤
2013年以降はフリーです。そしてプロジェクトごとに勤務先は異なります。今はあるプロジェクトで、某撮影スタジオに通っています。


開志専門職大学
ハリウッドの業界の中で働いている実感はどんな時に感じますか。
渡辺潤
たくさんありますけど、昨日はアカデミー賞のVFX部門の「ベイクオフ」に参加してきました。

渡辺潤
これは、アカデミー賞の候補作品を絞る前の10本のプレゼンテーションが行われるノミネート選考会です。会場の客席を見ると、皆、有名な人です。

渡辺潤
一般の人は知らないかもしれないけれど、業界人からしたら超有名人、たとえばハリウッドのVFXの神様みたいな人がいるわけです。『スター・ウォーズ』のVFXを1作目からやっている人とか。

渡辺潤
会場にはオスカー像がどーんと立ってて、雰囲気も盛り上がります。


開志専門職大学
渡辺さんの作品が候補に?
渡辺潤
『ハン・ソロ / スター・ウォーズ・ストーリー』と『ジュラシック・ワールド / 炎の王国』『アントマン&ワスプ』の3作がその10本に入っていました。たまたまですけど。


開志専門職大学
3本とはすごいですね!
渡辺潤
本当にたまたまです。通常は(10本のうち)1本あるかないか、です。今回はたまたま。


開志専門職大学
VFXア―ティストとしての最終目標は?
渡辺潤
『スター・ウォーズ』シリーズへの参加だったんですけど、それはちょっとだけ叶いました。関わった『ハン・ソロ』はいわゆるスピンオフなので。

渡辺潤
今は、最後の『エピソード9』に参加したいと思っています。呼ばれるのを待つしかありません。声がかかるかどうかは運とタイミングが左右します。


開志専門職大学
ハリウッドで運を上げる方法とは?
渡辺潤
デモリールとレジメ(履歴書)は最新のものを準備して、何かあった時に提出できるように揃えておくことです。

渡辺潤
それから、リクルーターと連絡を取り続けてスタッフを募集していたらすぐ声がかかるようにしておきます。

渡辺潤
でも連絡を取りすぎるのもダメ。うるさい、と思われます。探りを入れるくらいがちょうどいいです。


開志専門職大学
日本人としての業界での強みは何でしょう。
渡辺潤
真面目さや勤勉さですね。日本の普通の感覚でやっていると、真面目で勤勉に見えるようです。

渡辺潤
僕はよく仕事仲間に「昨日、家帰った?」と聞かれます。皆が帰る時に僕だけ残って働いているし、翌朝も誰よりも早く出社して同じ場所に同じ服で座っているからです(笑)。


開志専門職大学
アメリカ生活22年になりますが、一度も日本に引き揚げたいと思ったことはないですか?
渡辺潤
一度もないですね。いかに帰らなくて済むか、ということばかり考えています。僕の場合、アメリカ、と言うよりもロサンゼルスに残りたいんですね。


開志専門職大学
ロサンゼルスの魅力とは?
渡辺潤
いっぱいありますけども、まずエンターテインメント・キャピタル(娯楽産業の中心地)だということ。ロサンゼルスだからレストランで食べていたら、女優さんが同じ店に食べに来てたり、ということもあります。

渡辺潤
生活面では美味しい和食屋さんがいっぱいあること。それに気候もいいですよね。山火事とか大変なこともありますけど。


開志専門職大学
最近の日本の若い人は内向きと言われますが、どう思われますか?
渡辺潤
僕が日本の若い人に話をする時には、海外に行ってみたいと言う人は確実にいますよ。


開志専門職大学
日本の学生にどんな質問をされますか?
渡辺潤
一番多く出るのは英語に関してです。英語をどうやって身につけたかを聞かれます。日本にいた頃は、五反田の英語学校に行ってました。それが役に立ちました。


開志専門職大学
大人になってから英語を習得するのは大変では?
渡辺潤
発音とか難しいですよね。言語体系ができちゃってからアメリカに来てますので。自分で努力してやっていくしかない。リスニングがわからないときは徹底的にわかりませんし。

渡辺潤
同じ英語でもブリティッシュアクセント、サウスアフリカアクセント、色々と癖があって、何言っているかわかりません。

渡辺潤
私たちの仕事には「デイリー」と呼ばれる試写があって、それを見たスーパーバイザーが修正点をコメントして、後でそのコメントがメールで来るんですよね。

渡辺潤
メールを読めば何を言っているかわかるんですが、意味がわからなければグーグル翻訳ですね(笑)。

渡辺潤
次の日はそのショットを見ながらコメントをチェックして、直して。またコメントをもらって直しての繰り返しで作品が煮詰まっていきます。


開志専門職大学
英語上達に関してはどんな努力をしていますか?
渡辺潤
それはもう全部ですね。ボキャブラリーからリスニングから。英語苦手なので。

渡辺潤
今でもメールを書いている時も表現が合っているのか、ネットで検索します。この場合はtheseなのかthoseなのか?など。


開志専門職大学
アメリカでプロとして何十年もやっているのに、英語の努力は必要なのですね。
渡辺潤
だから、日本の学生さんに「海外に興味があるけど英語が心配です」と言われたら、

渡辺潤
「大丈夫です。私でもできているので皆さん大丈夫。僕にできているのですから、世の中の大抵の人は大丈夫です」と答えます。

渡辺潤
僕でも意思の疎通が取れてなんとかなってますから。


開志専門職大学
ハリウッドには世界中からいろんな人が集まっていますね。
渡辺潤
国が違えば、全部違います。考え方が何もかも根本的に違うんです。その異なる文化を尊重して、自分を少しずつ順応させてやっていくことが大事ですよね。

渡辺潤
相手の文化を理解して、自分の言い分も主張して、そうやって柔軟にやっていくことが大事です。

渡辺潤
ゴリ押しするのはダメです。日本と海外では、考え方、文化、礼儀と何もかが違うので。


開志専門職大学
開志専門職大学で特別講師としてどんなことを教えたいですか?
渡辺潤
モチベーションをアップできるようなことを話したいです。

渡辺潤
私の場合は、日本でよく講演をやるときは、自分が撮り溜めた面白い写真をいっぱい見せるようにしています。会社の前の電柱が折れて停電になって、しょうがないから皆で海に行った話などをします。

渡辺潤
すると、後のアンケートでは、「海外に親しみを持てた」というフィードバックをいただけます。

渡辺潤
やろうと思えば厳しい現実や難しい言葉を並べた固い講義もできますけど、僕の場合はゆる〜い感じで現場の楽しい話をして、親しみを持っていただいて、自分もそこで働いてみたいなと思っていただけるようにします。


開志専門職大学
ロサンゼルスでやっていけますよ、と。
渡辺潤
ロサンゼルスでなくても、自分が行ってみたい国に行けばいいと思います。ロック好きだったらイギリスがいいし、ダンサーや舞台芸術を目指したいならニューヨークがいい。

渡辺潤
日本を離れて海外に行くのはいい勉強になるので、機会があれば是非チャレンジしていただきたいなと思いますね。


開志専門職大学
そうですね! 渡辺さんのお話で海外が身近に感じました。講義を楽しみにしています。
特別講師 渡辺潤氏
横浜市生まれ。東京工学院芸術専門学校(現東京工学院専門学校)CG科第1期卒。卒業後トーヨー・リンクスに入社。自主制作のアニメーション作品がSIGGRAPHの映像フェスティバルに入選し、それを機に渡米。現在はロサンゼルスを拠点に数多くのハリウッド作品にエフェクトアーティストとして携わっている。最近の参加作品には『ハン・ソロ / スター・ウォーズ・ストーリー』『ジュラシック・ワールド / 炎の王国』『アントマン&ワスプ』がある
インタビュー:福田恵子
撮影:鈴木香織
動画:ジーン渋谷

