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巨大企業マイクロソフトでも勤務。 鷹松弘章氏

「IT技術の発達により地球上に溢れてしまったデータを人々の生活に役立つように可視化(目に見えるようにすること)する」企業として成長中のタブロー・ソフトウエア。シリコンバレーに並ぶアメリカIT産業の中心地シアトルの近郊にある同社で活躍する鷹松さんは、競技スキーの選手時代の怪我をきっかけに海外留学を決断し、カナダの大学を卒業後、一旦帰国、さらにアメリカ大陸に逆上陸し、巨大企業のマイクロソフトからタブローに転職した「行動の人」です。その行動を実行に移してきた決断の裏に何があったのか、シアトル近郊カークランドの本社オフィスでお話を伺いました。
本職以外にも日本の二つの組織で社外取締役務める アメリカで働く日本人として学んだことを若い人に伝えたいから

開志専門職大学

鷹松さんのお仕事と所属されているタブロー・ソフトウエアという会社について教えてください

鷹松弘章

今の仕事はデータの可視化と呼ばれるものです。

鷹松弘章

2017年の1年間で貯めたデータ量、実は西暦0年から2016年までに貯めたデータ量を超えてしまったんです。

鷹松弘章

これはIT技術の進歩によるものですが、あまりにもデータが地球上に溢れてしまって、それをうまく使いこなせていないために、

鷹松弘章

どうしたらそれを役立たせることができるかということにタブローが着目し、取り組んでいるのです。

開志専門職大学

データの可視化というのは、人間が直接見えないデータの状況を画像にして見えるようにするという意味ですね。

開志専門職大学

それをすることで、具体的に、どういうことに役立つのですか?

鷹松弘章

たとえば、ある商品がどこでどういう曜日にどれだけ売れているかをグラフ化することによって、販売状況が把握できるようになります。

鷹松弘章

また、アメリカでよくあるのが、各州の人口の移動状況をグラフ化することです。どこからどこにどれだけの人が移動しているのかがわかります。私たちは、そのようなソフトウエアを作っています。

鷹松弘章

タブローは2006年にできた新しい会社です。2012年には上場(取引所でその会社の株が取引されること)したので、非常に早いペースで成長したと言えますね。

鷹松弘章

2018年の売り上げは日本円にして1千億円です。

開志専門職大学

ちょっと想像できない金額です。

鷹松弘章

タブローがやっているのは、一般の人にも把握できるようにデータを分析し、それを可視化することです。

鷹松弘章

従来ですと、データアナリストという専門家が扱っていた内容を、タブローは誰でも自由に使えるようなソフトウエアにしたことが強みです。

開志専門職大学

私でも使えますか?

鷹松弘章

はい、ソフトウエアの扱いに慣れていない人でも大丈夫ですよ。「ドラッグ&ドロップ」といった簡単な操作で簡単に使えます。

鷹松弘章

私は製品開発を担当しているのですが、ソフトウエアのセットアップ(設定)やインストール(導入)構造の開発、

鷹松弘章

さらに国際化チームで各国ごとに異なるルールについて世界中のお客さんが自由に使えるようにする製品開発をすることです。

開志専門職大学

各国で異なるルールとは?

鷹松弘章

たとえば、日本語や英語では数字には3桁ごとにカンマが入りますが、イタリア語ではピリオドなんです。

鷹松弘章

また、国によって会計年度も異なりますし、日本には他の国にない昭和、平成のような年号が存在します。

開志専門職大学

なるほど。急成長中の会社でお仕事をされているんですね。お忙しいでしょう?

鷹松弘章

私はタブロー以外にも、日本で二つの会社の社外取締役を務めています。一つはスターティアホールディングスという会社、もう一つはNOBORDERという会社です。

鷹松弘章

NOBORDERは、日本の若い人とアメリカにいる日本人エンジニアが協力できるような体制を敷く支援を行なっています。

鷹松弘章

自分が取り組んでいることの協力者を、世界中で見つけられるようなシステムにしていく狙いがあります。

開志専門職大学

おお、さらに大忙しですね。タブローの社員でありながら、他の会社にも関わることが認められているんですね。

鷹松弘章

アメリカのIT企業はどこも、自分の会社に不利益を与えない限りは(他の組織や団体をサポートすることに対して)自由です。

鷹松弘章

今、私が日本の会社を手伝っているのは、お返しの気持ちからです。日本人としてアメリカで働いてきた中で多くのことを学んできました。

鷹松弘章

そこで、自分が学んだことを、今の日本の若い人に伝えることで、彼らが世界に飛び出すためのお手伝いをしたいと思っているのです。

「世界のトップを走り続ける」IT業界の巨人マイクロソフトから 新しい風を感じたい、のびのび仕事できる環境を求めて転職

開志専門職大学

タブローは若い会社ということですが、鷹松さんご自身はいつからここで働いているんですか?

鷹松弘章

2016年の終わりにマイクロソフトから転職しました。タブローにはデータの可視化を通じて、社会貢献に取り組んでいる会社である点に感銘を受けました。

開志専門職大学

どういうことですか?

鷹松弘章

2012年の段階でアフリカのザンビアでは、マラリアで1分に1人が亡くなっていたんです。

鷹松弘章

その問題に対してタブローが協力を申し出て、タブローが設立したファンデーション(慈善団体)を通じ、どこにどのくらいの薬を投入すべきか、

鷹松弘章

また殺虫剤を撒くべきかをデータ分析して結果を出したところ、なんと、10年間でマラリアを撲滅しようとしていた目標を2年で達成したことがありました。

開志専門職大学

タブローという会社の「データで社会に貢献する」というミッションを象徴しているようなエピソードですね。

鷹松弘章

以前勤めていたマイクロソフトでは、「世界のトップを走り続ける」というプレッシャーが強くて、いろいろな人を解雇しなければなりませんでした。

鷹松弘章

辞めた人から不当解雇(解雇されたことが不当だということ)で訴えられてしまうこともありました。さらに優秀な人材を採用するために世界中の大学を回っていました。

鷹松弘章

そういう経験をしてきて、競争社会の中に身を置きながら、色々と考えさせることも多くありました。

鷹松弘章

前職で行き詰まっていた時期と、プライベートで大変な時期が重なったことも転職の理由になりましたね。離婚して、娘と二人だけになり、借金を背負って、人間の幸せとは一体なんだろうと思い悩んでいました。

鷹松弘章

同時にクラウドやマシンラーニングといった新しい技術も出てきたことで、若い人とのびのびと仕事ができる環境に自分を置きたい、外の風を感じたいと思うようになりました。

開志専門職大学

心機一転の場所がタブローだったということですね。

鷹松弘章

離婚で背負った借金は4千万円。狭いアパートに15歳の娘と暮らす生活でした。毎日、朝を迎えることが辛かったです。

鷹松弘章

経済的にも精神的にもどん底を経験することで、人の痛みがわかるようになったと自分では思います。

開志専門職大学

離婚前の生活とのギャップが大きかったんですね?

鷹松弘章

3人家族で5ベッド(日本の5LDK)の家に住んでいました。

開志専門職大学

ゆとりのある生活から小さなアパートに移って、お嬢さんも育てないといけないし、会社では部下に解雇を言い渡さなければならない。。。確かに辛いですね。

鷹松弘章

ソーシャルネットワークで他の人の投稿を見ると、クリスマスをお祝いしたりしているわけです。そんな時に、いいなと思う嫉妬の気持ちと、

鷹松弘章

自分自身が不幸だったので、クリスマスを祝っている人たちはこちら側の(不幸な)人のことはわかっているのかなという気持ちがせめぎ合っていました。

鷹松弘章

そんな精神状況の中、離婚で裁判所に行かなければいけないのに、朝の6時半に会社の人事の人から電話がかかってきて、お昼の12時までに産休中の部下を解雇するように指示されたこともありました。

鷹松弘章

産休中なので彼女には電話で解雇を伝えたところ、電話の向こうで泣き崩れていました。次の日、上司からランチに誘われて「君のチームはなくなるから、君は別のところに移ってくれ」と告げられました。

鷹松弘章

部下を解雇したけれど、自分は会社に残れるということですが、なんだか皆を不幸にした気がしました。

小学校の時からアップルのパソコンを触っていた カナダ留学当初の英語は100点満点中3点、卒業時は成績トップに

開志専門職大学

それで、転職を実行されたんですね。でもきっと私生活で辛い時期やマイクロソフト時代があったからこそ、今の鷹松さんが日本の若い人をサポートしたり、今の会社でも活躍されたりできているのだと思います。

開志専門職大学

さて、話を変えますが、海外を意識するようになったのはいつですか?

鷹松弘章

私の父がニューズウィーク(アメリカの雑誌社)で働いていました。本社があるアメリカへの出張も多かったですね。それから母は子どもたちに英語を教えていました。

開志専門職大学

鷹松さんは子どもの頃はどんなお子さんでした?

鷹松弘章

小学校の時から、父が会社で使わなくなったアップルのパソコンを触っていました。アメリカってこんなすごいものを作るのか、と思ってました。

鷹松弘章

その後は競技スキーにはまって、高校時代はニュージーランドやオレゴンで夏のトレーニングまでしました。僕はノリが明るいので、現地の人にも英語で話しかけたりしていましたね。

鷹松弘章

でも、そんな態度が一緒に行っていた人から疎まれて、いじめられたりしました。日本ってなんでそうなんでしょうね。

開志専門職大学

皆と一緒でないといけないということですね?

鷹松弘章

そうそう。

開志専門職大学

鷹松さんは出る杭だったのかも?

鷹松弘章

そういうこともあったのか、海外に行かなくちゃと思う一方で、卒業ギリギリまでスキーの大会に出ていて、けがをしてしまったんです。スキーで大学に(推薦で)行こうと思っていたのに、それがダメになり、絶望感に襲われました。

鷹松弘章

それでどうするか?ということになり、父と相談して「海外に留学しよう」という結論を出しました。

鷹松弘章

ただし、当時のアメリカは治安が悪いというイメージがあったために、父がカナダだったらいいだろうと、カナダのブリティッシュコロンビア州にやって来ました。

開志専門職大学

その時点で英語の実力はどの程度でしたか?

鷹松弘章

100点満点中の3点(笑)。でもカナダの大学を出るときは成績1番で総代を務めました。のびしろ、大きいでしょう?頑張ったなあ、と自分でも思います。

開志専門職大学

その原動力となったものとは?

鷹松弘章

自分の目の前に熱中できるものが現れたらとことんやる性格なんです。スキーもそうだったし、(スキーを)やっている間は一切勉強しませんでした。

鷹松弘章

でもカナダに来た時は「もう遊んでいる場合じゃない。いい加減勉強しよう」という気持ちになりました。

鷹松弘章

今でも僕は目の前にある好きなことに熱中することはすごく大事だと思っています。熱中していると大変でも苦しいとは思わないですしね。

計画通りに物事が進む人生など存在しない まずはやってみること、失敗を重ねてこそ成功がつかめる

開志専門職大学

カナダの大学を1番で卒業して、就職はどうしたんですか?

鷹松弘章

日本のコンサルティング会社に入ろうと片っ端から受けましたが、受かりませんでした。

鷹松弘章

今思うと、そういう会社に入社すると、経験がある人の小間使いとしてスタートするんですが、僕は経験がないのに最初から仕事をさせてもらえると勘違いしていたんです。

鷹松弘章

それで受かったのがコンピュータのロータスで、そこに4年ちょっといた後、日本のマイクロソフトに転職しました。

開志専門職大学

そこからアメリカのマイクロソフトに移ったんですか?

鷹松弘章

はい、自分がカナダの大学を出たこともあり、マイクロソフトの本社があるシアトルは第二の故郷に近いな、と。

鷹松弘章

出張でシアトルに来ているうちに「いつこっちに来るの?」と言われるようになり、自分でも移りたいなと思うようになったんですね。実際に来たのは29歳の時でした。

開志専門職大学

そして、マイクロソフト本社に長年勤務した後に転職や離婚も経験されましたが、今、お嬢さんは?

鷹松弘章

シカゴでバレエをやっています。そして私は留学生時代に告白してフラれた女性と再婚して、彼女の息子と一緒に3人で暮らしています。

開志専門職大学

これこそハッピーエンド!

開志専門職大学

では今は仕事も私生活も充実している、波乱万丈な人生を送ってきた鷹松さんが、日本の高校生や大学生にメッセージを送るとしたら?

鷹松弘章

目の前にあることを一生懸命やることです。計画通りに物事がいく人生などありません。

鷹松弘章

今の若い人は考えすぎですね。まずはやってみるしかないと思います。絶対に10回に9回は失敗します。

鷹松弘章

赤ちゃんも一緒です。立って歩けるようになるまでは何度も転びます。スキーも同じ。転ばなくなると上達しないんです。成功するためにどれだけの失敗体験が大事か、ということです。

鷹松弘章

でも、今の若い人は失敗が怖くて挑戦しようとしません。ずーっとやらない時期が続いていきなりやるとどうなるか?

鷹松弘章

大きな失敗を引き起こし、それがトラウマになり、もう2度と挑戦しようとは思わなくなるのです。

開志専門職大学

まずはあれこれ悩まずやってみて、失敗を糧にすべきなのですね。

鷹松弘章

それから、どんなに仕事を頑張ったとしても、家族との幸せな時間が一番大事だと今は思っています。

鷹松弘章

私の父は仕事人間で、朝は7時から夜中過ぎまでいつも働いていました。私がカナダに留学した時に一緒に来てくれたのですが、会社を1週間休んだのはその時が初めてだったそうです。

鷹松弘章

そして、定年退職した2年後に脳梗塞に倒れました。なんという人生だったのだ、と思います。

鷹松弘章

私自身、離婚もして、家族の大切さを実感しました。部下ともよく話すんですが、家族あっての仕事への取り組み方がいかに大事か、ということです。皆さんにも自分自身の幸せを追求してほしいと思います。

開志専門職大学

好きなことに熱中して、失敗もして、それを成功につなげていく、そして何より家族を大事にするという鷹松さんの姿勢を是非、開志専門職大学の学生に伝えてください。どうぞ宜しくお願いします。

特別講師 鷹松弘章氏

高校卒業後にカナダに留学し、カナダの大学を卒業後に日本でロータスに就職。日本マイクロソフトからアメリカ本社の主幹マネージャーを経て2016年、タブロー・ソフトウエアに転職。2019年3月現在、同社の開発マネージャー。スターティアホールディングス社外取締役、NOBORDER社外取締役。ワシントン州シアトル近郊に在住。

インタビュー:福田恵子
撮影・動画:鈴木香織

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