

開志専門職大学
松田さんのお仕事について教えてください。
松田智生
三菱総研で日本を良くする、自分たちの社会や暮らしを明るくするための研究をして、それを世の中に提案する仕事をしています。

松田智生
三菱総研という会社は一言で言うと「シンクタンク」ですが、それでもちょっとわかりにくいですよね。

松田智生
三菱総研の総研は総合研究所という意味ですが、その総合研究所は世の中に対して提言を行うところです。

松田智生
お客さんは、国や地方自治体だったり、民間企業であったり様々です。そして、コンサルタントとして、それらのお客さんと一緒に目標を目指して伴走します。


開志専門職大学
具体的に説明していただけますか?
松田智生
最近、私が研究結果をまとめて本にしたのが『日本版CCRCがわかる本』です。

松田智生
CCRCとは、Continuing Care Retirement Community の略で、高齢者が元気に暮らし、そして地域のために活躍していけるコミュニティーのことです。

松田智生
その後、介護が必要になっても継続的に暮らし続けられるサポートシステムが整備されている地域社会のことを意味しています。

松田智生
平たく言うと、高齢者のために「カラダの安心」「ココロの安心」そして「オカネの安心」が確保された社会ですね。


開志専門職大学
高齢者が暮らしやすい世の中にするための研究ですね。

開志専門職大学
いつから、こちらの研究に関わっているのですか?
松田智生
2010年です。私の名刺の「プラチナ社会センター」にもあるように、高齢者が輝ける「プラチナ社会」の実現をめざして研究を始めました。

松田智生
よく「シルバー世代」などと言いますが、「シルバー」つまり銀だとさびてしまいます。引退後の生活をさびつかせることなく、プラチナのように輝きを失わないようにしていくことが目的です。

松田智生
日本の高齢化率、つまり人口に占める65歳以上の割合は約27%で世界で一番です。つまり日本は高齢社会先進国です。ちなみにアメリカは約13%で日本の半分です。


開志専門職大学
なるほど。高齢社会に突入している日本にとっては、非常に重要なテーマと言えそうですね。
松田智生
ちょうど2010年頃には、環境問題と同時に高齢者のための街づくりも世界で注目を浴びていました。

松田智生
私は高齢者の街づくりに興味を持って、アメリカに理想的な場所があると聞き、見学に行きました。

松田智生
ニューハンプシャー州のハノーバーというところにあるCCRCというコミュニティでした。そこで見た光景は私にとってはちょっとしたカルチャーショックでしたね。


開志専門職大学
どのように?
松田智生
日本だと高齢者は老人ホームで生活している「支えられる人」のイメージがあるでしょう?

松田智生
ところがアメリカの高齢者たちは、そのコミュニティを運営していくための委員会を構成していて、例えばダイニング委員だと献立を考えるなど、「担い手」として非常に忙しい毎日を送っていたのです。


開志専門職大学
忙しい高齢者?
松田智生
そうです。そして、忙しいだけでなく、自分の役割にやりがいを感じていました。

松田智生
さらに近くの大学で再び学び、現役学生との多世代交流が進んでいる。

松田智生
そのことがなんて素晴らしいのだろうと思い、明るいショックを受けたというわけです。


開志専門職大学
そこから、日本の明るい高齢者社会に向けた、松田さんの取り組みが始まったのですね。

松田智生
高齢社会の対策が国の政策となり、最近では大学生が私の本に興味を持ってくれて、卒業論文に取り上げたいという連絡も頂いたりしています。

松田智生
また、企業が新しい事業として取り組んだりもしていますね。


開志専門職大学
日本でも明るい高齢者コミュニティは実現しますか?
松田智生
アメリカの受け売りはダメです。日本人の国民性を踏まえた上でモデルを作る必要があります。

松田智生
例えば、元々はアメリカで生まれたマクドナルドやセブンイレブンも、日本に持ち込まれた後は日本らしく変わったでしょう?


開志専門職大学
日本らしい高齢者のためのコミュニティーが今後は誕生していくということですね。
松田智生
現在、全国の210の市町村がやりたいと手を挙げています。北海道から沖縄まで大きなうねりができています。


開志専門職大学
その市町村に対して、どのように実現させるかという説明を松田さんがされるわけですか?
松田智生
そうですね、コンサルティングを担当します。先ほど「カラダの安心」「オカネの安心」「ココロの安心」を目指すと話しました。

松田智生
まず、「カラダの安心」は健康増進や介護対応の身体面のサポートをしっかり受けられること、

松田智生
「オカネの安心」は、居住者の経済的な安心感や地域の消費が生まれることですね、

松田智生
そして「ココロの安心」は友だちができるか、生きがいができるということがテーマになります。



開志専門職大学
では、その総合研究所で働こうと松田さんが思ったのはどうしてですか?
松田智生
実は私は転職して、三菱総研に入社したんです。


開志専門職大学
それ以前は?
松田智生
不動産開発の仕事をしていました。バブル世代だった私は、何も深く考えずに、大学卒業後に不動産会社に入社しました。


開志専門職大学
深く考えず?
松田智生
そういう学生でした。大学では大教室の講義で寝ているような大学生でしたね。後は家庭教師のアルバイトとテニスサークルに飲み会といった生活。典型的なダメ学生でした。


開志専門職大学
不動産開発とはどのようなお仕事ですか?
松田智生
都市の再開発で、古いアパートなどの建物を壊して、そこに新しい立派なビルを建てるのです。

松田智生
しかし、古いアパートに安く住んでいた住民たちは、新しいビルに建て替わると家賃も上がって、もう同じ場所には住めなくなってしまうのです。

松田智生
それは果たして、世の中のためになっているのだろうか、と、そういう仕事をしながら大きな疑問を感じるようになりました。

松田智生
ここまで自分は一体何のために生きて働いてきたのだろうか、と。収益至上主義ではいけないのではないだろうか、と思い悩みました。若かったですね。


開志専門職大学
それで松田さんにとって「世の中のためになる」と思えるような仕事を探したということですね。
松田智生
三菱総研に入ることで「いくら儲けるか」ではなくて「どうすれば世の中を良くしていけるか」に携われるのではないかと、そこに魅力に感じたのです。


開志専門職大学
実際、転職されてどうでしたか?
松田智生
自分の提言が国や地方自治体の政策に反映されるのをみると、転職のきっかけだった「世の中を良くする」ことに貢献している実感が得られます。

松田智生
今の仕事は自分がやったことがダイレクトに返ってくるので、やりがいを感じます。

松田智生
高齢者から感謝されるだけでなく、例えば、地元の大学に高齢者が通って学ぶ機会を作れば、大学からも感謝されます。



開志専門職大学
そして、新しいことを学ぶことで高齢者自身にとってもプラスになりますね。皆さんを幸せにするお仕事ですね。

開志専門職大学
さて、松田さんはプラチナ社会の仕組みづくりをアメリカに学んだわけですが、海外で生活されたご経験はありますか?
松田智生
私は1998年、もう20年以上前ですが、海外研修制度に応募してワシントンDCで3カ月間、働いて暮らしました。


開志専門職大学
どのようなことが印象に残っていますか?
松田智生
いいことで言うと、まずアメリカ人は皆、明るくて元気ですよね。ファーストネームで呼び合って、非常にフレンドリーで雰囲気が良いです。

松田智生
日本だったら、肩書き、序列、年齢に縛られる面もあり窮屈です。

松田智生
それに、アメリカで感じたのが、それらの肩書きや年齢に関係なく、いいこと、正しいこと、役に立つことを発言すれば、相手はきちんと耳を傾けてくれるということです。

松田智生
私が研修生として過ごしたコンサルティングの会社は、皆さん、そういうオープンな雰囲気でしたね。

松田智生
しかも、ロシアからの移民、またサウジアラビア、フィリピンと、世界中から人が集まっていて面白かったです。


開志専門職大学
英語はその3カ月で上達しましたか?
松田智生
言葉の壁というのは確かに存在するんですけど、上達するのは、「汗をかいて、恥をかくこと」しかないですね。

松田智生
私自身は間違っても伝えるしかないと覚悟を決めたことで、それ以降、臆するということがなくなりました。

松田智生
要は、どう話すよりかの“How”より、何を伝えるかの”What”が大切なのです。

松田智生
それから、向こうに行ってから、日本のことも良く見えるようになりました。

松田智生
アメリカはもちろんいいところがたくさんあるんですけど、しかし、ストレートすぎる一面もあります。

松田智生
日本的な思いやり、例えば、席を譲るだとか、「どうぞ、どうぞ」といった精神、助け合うチームワーク。そういった日本的な良さが、海外に出たことでわかるようになりましたね。

松田智生
世界は日本を写す鏡であり自分を写す鏡でもあります。

松田智生
さらに言えば、日本国内にいると、三菱総研というのは大きくて良い会社だと言われますが、一歩、外に出ると、ほとんどの人は知らないわけです。

松田智生
三菱と言うと、まず「三菱自動車はいい会社だ」と言われましたね。それもまたカルチャーショックでした。


開志専門職大学
自分のこと、日本人のこと、会社のこと、それらすべてが、海外に出ることで客観的に把握できたのですね。
松田智生
海外に出ると日本人は尊敬されているということもわかりました。イタリア人もドイツ人も日本人が大好きだし、和食、芸術、ハイテク分野で一目置いています。

松田智生
それはこれまで海外で頑張って実績を積んできた日本人の先輩の方々のおかげだと思います。

松田智生
ですから、日本人はもっと誇りを持つべきだと、これも海外に出て初めて思うようになりました。


開志専門職大学
日本人は尊敬されているのですね。
松田智生
尊敬だけでなく、日本の行く末を注目しています。高齢化率が世界で一番で、人口が減少していく日本の将来を心配しています。

松田智生
高齢社会も含めて、日本が自国の課題をどのように解決していこうとしているか、海外諸国が見守っているのです。



開志専門職大学
ますます、松田さんが取り組むお仕事の責任は重大ですね。

開志専門職大学
大学生時代は「ダメな学生だった」と振り返っていましたが、今では日本の国を変えていくために、高齢者の住み良い地域社会作りに携わっている松田さんから、

開志専門職大学
ご自分の反省も踏まえて、これから大学生になる人たちに「大学時代にこれをやっておいた方がいい」とアドバイスするとしたら?
松田智生
まず、短期留学を勧めます。自分と同じような人々との交流だけでなく、他国の人ともっと触れ合うべきです。

松田智生
今は情報が溢れていて、オーストラリアのことでもアメリカのことでも、現地に行かなくても調べられます。どこにいても海外へのドアは開かれています。

松田智生
だから、新潟なら新潟にいるだけではなく、世界各地とコラボして、世界中の人と交流することで違う価値観に触れてほしいと思いますね。

松田智生
海外に出ることは挑戦であり、道場破りです。世界で一流の人材に触れることで自分を高めることになります。

松田智生
「人生のメジャーリーグ」に挑戦せよ、と言いたいです。


開志専門職大学
「人生のメジャーリーグ」、いい言葉です。松田さんご自身のゴールは何ですか?
松田智生
社外でも、自分の専門分野における第一人者になることです。


開志専門職大学
すでに「プラチナ社会」を専門にした第一人者では?
松田智生
いえ、国内で第一人者というだけでなく、次は国外でもそうなるように目指します。


開志専門職大学
そういう夢を叶えるためにはどうしたらいいのでしょう?

開志専門職大学
「夢の叶え方」について若い人にどうアドバイスしますか?
松田智生
まず、将来自分はこうなりたいという自分のヒーローやヒロインを見つけることです。できるだけ具体的に。

松田智生
私にとってのヒーローは、牧野昇という三菱総研の元の会長です。もともとメーカーの工場長だった人で、三菱総研に転じて、経済、産業、技術、何でも語れる専門家になった人です。

松田智生
最初は、人前で話すのが苦手だったので、落語の寄席に通って話し方や間合いを学んでビジネスに活かしたという努力の人です。


開志専門職大学
最後に開志専門職大学でどういうことを教えていただけますか?
松田智生
アメリカやヨーロッパにおける地域活性化や、ビジネスの先駆的な事例についてお話します。

松田智生
そして、それを日本にどのように活かすべきかをテーマにしたいと思います。

特別講師 松田智生氏
1966年東京都出身。1989年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。不動産会社会社を経て1991年に三菱総合研究所に入所。専門は高齢社会の地域活性化。
政府日本版CCRC構想有識者会議委員、内閣府高齢社会フォーラム企画委員。高知大学客員教授。2019年3月時点での役職は、株式会社三菱総合研究所プラチナ社会センター主席研究員・チーフプロデューサー。著書に『日本版CCRCがわかる本―ピンチをチャンスに変える生涯活躍のまち―』(法研)。
インタビュー:福田恵子
撮影:山田美幸
動画:梶浦政善

