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多世代が輝く「プラチナ社会」が日本の未来を創る。 松田智生氏

日本の高齢社会対策に関する研究の第一人者である松田智生さんは、バブル期に大学生活を送り、不動産開発会社に新卒入社。しかしすぐに「自分のしていることが社会の役に立っているのか?」と自問自答するようになったそうです。そんな時、シンクタンクの社会性、政策提言に魅力を感じ、「世の中に役立つ仕事がしたい」と、現在の三菱総合研究所に転職されました。今回、松田さんには現在進行中の高齢社会に輝きを与えるプロジェクトや地方創生について語っていただきました。
日本は世界1位の高齢社会先進国。だからこそ、高齢者が輝きを失わない「プラチナ社会構想」の実現が不可欠

開志専門職大学

松田さんのお仕事について教えてください。

松田智生

三菱総合研究所(以下三菱総研)で国や地方自治体、民間企業や大学に対して政策提言やコンサルティングをしています。自分たちの社会を良くするために知恵を出す、シンクタンクで仕事をしています。

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現在はどのような案件に取り組まれていますか?

松田智生

「プラチナ社会構想」という、新しい社会像を目指すプロジェクトに取り組んでいます。これまで高齢社会は「シルバー社会」と呼ばれていて、髪の毛のシルバーや電車のシルバーシートがそのイメージで、さびたような感じでした。

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あまり前向きなイメージじゃないですね。

松田智生

「プラチナ社会」は前向きで、シルバーのようにさびることがなく、輝きを失わない上質な社会。それを実現するのが「プラチナ社会構想」です。

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日本は高齢化がかなり進んでいると聞きますが。

松田智生

人口当たりの65歳以上の割合を示す高齢化率は、日本は28%で世界一です。つまり約3人に一人は高齢者なのです。一方でアメリカは15%、中国は10%、中東アフリカは1〜2%。いかに日本がおじいさんとおばあさんの国なのかが分かります。

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そんな日本で高齢者が輝ける社会の促進は大事ですね。

松田智生

海外からの観光客が日本に来て驚くことのひとつは、日本の高齢者が元気なことです。そんな元気な高齢者と共に多世代が「自己実現」を可能にするプラチナ社会の促進が必要です。

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シンクタンクで働くことになったきっかけは?

松田智生

バブル期の平成元年に不動産開発会社に入社しました。入社2年目の時、都市の再開発で古いアパートなどの建物を壊して、そこに新しい立派なビルを建てるという東京の再開発に関わりました。古いアパートを取り壊して新しくする開発の過程で、土地や家を借りていた人たちが出ていかざるを得ない様子を目の当たりにし、「金持ちだけが儲かるような仕事が社会の役に立っているのか?」と悩みました。

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お仕事に疑問を感じたのですね?

松田智生

もちろん、今なら不動産開発のディベロッパーというのはそういうものだと割り切れるのですが、当時は青臭いというか、「いったい僕は何のために働いているのか?」と思春期が遅れてきたかのように悩みました。

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悩んだ末にどうされましたか?

松田智生

24歳の時、三菱総研がたまたま中途入社の募集をしていて、シンクタンクの社会性とか政策提言というのが大事だと感じ、転職を決意。自分の専門性で社会と顧客に貢献する仕事ができるようになりました。

仕事にやりがいを感じるために必要なことは、「貢献欲求」と「承認欲求」と「成長欲求」を満たすこと。

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「世の中のためになる」と思える仕事に出会われたようですが、やりがいは?

松田智生

「貢献欲求」と「承認欲求」と「成長欲求」が実感できるのでやりがいを感じます。

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詳しく教えてください。

松田智生

貢献とは誰かの役に立っているということで、承認とは「ありがとう」と誰かに感謝されたりして認められることです。成長とは成長したいという気持ちが生まれ、仕事を通じて自分は成長しているという実感が得られることです。現在はこれらの「貢献欲求」と「承認欲求」と「成長欲求」の全てが感じられる仕事をしています。

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その三つが揃うとやりがいが感じられるのですね。

松田智生

そうです。仕事で自分の提言が国や地方自治体の政策に反映されるのを見ると、「世の中を良くする」ことに貢献していると実感します。自分のやったことがダイレクトに返ってくるので、認められていると実感します。仕事を通しての成長も感じています。

新型コロナ後の働き方の変化に対応して、「逆参勤交代」でリモートワークを地方創生に生かしたい。

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現在「逆参勤交代」というプロジェクトにも関わられているということですが、面白いネーミングですね。

松田智生

「逆参勤交代」というのは、江戸時代の参勤交代とは反対に、首都圏から地方に期間限定で滞在しようという試みです。それをすることで、都市と地方の両方の生活が楽しめます。都市で仕事をしながら、地方での生活も楽しめるプロジェクトです。まさにプラチナ社会を実現する新たなライフスタイルです。

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期間限定で永住ではないのですね?

松田智生

完全な移住や転職だとかなりハードルが上がりリスクも伴いますが、期間限定型であればハードルが低くなります。コロナをきっかけに自由な働き方や住まい方ができるようになり、「逆参勤交代」という新しい生き方も可能になりました。プラチナ社会とは、多世代は自己実現できる社会ですが、その場所は都市でも地方でも自由にできるということです。

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コロナが終わった後もリモートワークは可能でしょうか?

松田智生

私の働く三菱総研では、リモートワークが進んだので、定期券を廃止して、住む場所はどこでもいいことになりました。社員の中には長野や北海道、九州に住む人も含め10数名が地方移住を始めています。

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すごいですね。仕事に支障はないのでしょうか?

松田智生

会社で打ち合わせのある時は、出張扱いで交通費が出るので、特に支障なく仕事はできます。最近は、お堅いと言われる会社でも住むのはどこでもいいという制度が増えてきました。東京に本社のある企業の広報部の人が九州に住んでいますよ。生活コストも安く、満員電車で会社に通う必要もありません。リモートワークを地方創生に生かしていきたいと思います。

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全国に広がる逆参勤交代プロジェクトでのご苦労はありますか?

松田智生

世の中、新しい挑戦を阻むような困った人がいます。「否定語批評家症候群」と私は呼んでいるのですが、人にダメ出しをすることにかけて天下一品の人がいるものです。必ず新しいことをするときに反対する抵抗勢力がいます。

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そういう人は、新しいことをするリスクを先に考えるのですね。

松田智生

他にも「居酒屋弁士症候群」と言って、酒の席では雄弁だけど実行できない人(笑)。日本に多いのは、「やったもん負け症候群」です。

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「やったもん勝ち」じゃないのですか?

松田智生

本来は「やったもん勝ち」で、先行者が利益を得るはずですが、先にやったもんがちょっとしたミスでたたかれて、挑戦者が委縮してしまう傾向が日本にはあります。元首相の田中角栄が「やれ、俺が責任を取る」と言っていましたが、今では「やれ、責任はおまえがとれ」といった職場もあり、そのようなところは成長が期待できないでしょう。

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松田さんの「逆参勤交代」プロジェクトではどうですか?

松田智生

このプロジェクトに関わる市長や町長は、私がプラチナ社会や地方創生で長くお付き合いしてきた方々ばかりで、新しいことに前向きで、逆参勤交代も「面白そうだ!」、「まずやってみよう!」と積極的です。

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この仕事から得られたことや喜びは何ですか?

松田智生

異質な人との出会いが最大の財産です。東京のど真ん中の大きな会社の本社や官公庁の中で過ごしていると、どうしても同じような価値観を持っている人たちとの関わりに限られてきます。そうした環境だと、発想も限られてしまいがちですね。

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例えば?

松田智生

地方都市のベンチャー企業で、倒産するか成功するかぎりぎりの経験をした人の話を聞くと、いかに自分がやってきたことが甘いということを思い知らされます。そんな話を聞くこと、がんばっている人に対して何か協力したい、貢献したいという思いが湧いてくる。自分のなかに化学反応が生まれてくる。そんな気持ちになったことが最大の収穫です。

伴走して共に成長することを経験した家庭教師のアルバイト。この体験から誰かの成長に貢献したいと思うようになった。

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松田さんの大学時代の夢は何でしたか?

松田智生

バイトと遊びに明け暮れたので、具体的な夢というものはなく、就職もたまたま内定が出たからという感じでした。人生設計もなく、出たとこ勝負でした。

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長く続けたことはありますか?

松田智生

あえて言うと家庭教師です。私立中学に在籍していたお子さんを中2から高2まで4年間教えました。その子の英語の成績が10段階で2から7まで伸びたのです。その時に、伴走して共に成長することを経験。この原体験によって、誰かの成長に貢献したいと思うようになったのかもしれません。だから今のシンクタンクという仕事は、お客様と一緒に成長できるので、自分に合っている気がします。

常にGOOD &NEWというポジティブな考え方をしながら、好奇心旺盛な学生生活を送ってほしい。

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大学時代にこれをやっておいた方がいいとアドバイスするとしたら?

松田智生

常に好奇心を持つこと。その根底にあるのはGOOD &NEWという姿勢です。私のテニスのコーチがメンタルトレーニングとして言っていたことなのですが、テニスの試合の後、普通は「あそこがダメだった」とか「これがダメだった」と考えてしまいがちですが、それだとポジティブではありません。

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つまりどういうことですか?

松田智生

GOOD &NEWというのは、良かったこと、新しく感じたことだけに、考えを集中させる思考で、人間をポジティブにする考え方です。例えばテニスなら、負けても「今日はサーブが良かった」とか「新しい何かをこの試合でつかめた」と考える。私の仕事なら「良い地域のことを知った」とか「新しい知識や人脈を得た」というようにGOOD & NEWを大事にするのです。そういう考えがない人は、何事にも否定的になってしまう。「これいいね」、「新しいね」というポジティブな思考回路を持ち、その上で好奇心旺盛になってほしいです。

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他にやっておいた方がいい事はありますか?

松田智生

友人や知り合いをたくさん作ることです。私の場合、サークルやゼミ、クラスなどで友人を作り、それが後々の財産になりました。

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将来の夢やゴールはありますか?

松田智生

グローバルなことと、逆参勤交代のようなローカルなことをかけ合わせた「グローカル」を実践していきたいと思います。

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例えば、どんなことですか?

松田智生

今、イタリアやドイツと一緒に高齢社会の研究をしていますが、これはグローバル。そこでの国際的な研究者たちを日本の離島や地方都市に連れて行き、課題解決を一緒に考えると非常に喜ばれます。逆に私も海外の地方に行くと大きな刺激を受けます。これがローカルで、これらを一緒に組み合わせることが「グローカル」という世界です。

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グローカルの具体的な事例をもっと教えてください。

松田智生

長年お付き合いしているイタリアの大学教授は知日派で私より日本の歴史や文化に詳しいです。その教授が「日蓮が流罪で過ごした新潟の佐渡島に行きたい」と言ったので、一緒に訪問し、日蓮の過ごした場所や歴史文化を学ぶと共に、地域の高齢化や人口減少という課題の解決を日本とイタリアで一緒に解決する会議をしました。ローカルの課題解決をグローバルで考えるという挑戦です。

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地元の人たちの反応は?

松田智生

地方の過疎地の方が海外の人と触れ合い、自分たちの住む町の良いところを褒められたりすると自己肯定感が芽生えます。得てして「こんな田舎はダメだ」という自己否定感が強いなかで、外部の人、特に海外の人から評価されると、自己肯定感や町への郷土愛が高まるのです。

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それは素晴らしいですね。

松田智生

そんな様子を見ていて、グローバルとローカルの掛け合わせをやりたいと思いました。双方が幸せになれる試みです。

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特別講義ではどんなことを話していただけますか?

松田智生

私が注力している「プラチナ社会とは何か」について、それを軸にアメリカやヨーロッパや日本での好事例を紹介します。一つは、あるアメリカの大学に隣接する高齢者住宅の事例で、そこに住む高齢者が大学で再び学んだり、母校のOBとして学生のキャリアアドバイザーになり、生き甲斐を見出しています。学生にとっても、ビジネスの実体験がない教授よりも経験豊かな高齢者の話は参考になります。こうした大学連携型の多世代コミュニティは日本でも始まっており、幾つか事例を示します。

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アメリカ以外にもありますか?

松田智生

フランスの事例は、高齢の独居老人と大学生が同居することによる家賃が無料になる「世代間同居」プロジェクトについてです。学生は家賃が無料でかつ家庭的な暮らしができて、高齢者も孤独から解放されます。こちらも日本で同様の取り組みが始まっています。その他、イタリアの音楽家のヴェルディが作った音大生と元音楽家が共同生活をする多世代コミュニティについても話す予定で、皆さんがワクワクして興味を持つような具体的な事例ばかりです。

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特別講義がとても楽しみです。本日はありがとうございました。

特別講師 三菱総合研究所 主席研究員  松田智生氏

1966年東京都出身。89年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。不動産会社を経て91年に三菱総合研究所に入所。主席研究員・チーフプロデューサー。専門は高齢社会の地域活性化、アクティブシニア論。高知大学客員教授を兼務。
委員として、政府日本版CCRC構想有識者会議委員、内閣府高齢社会フォーラム企画委員、内閣官房全世代活躍まちづくり検討会座長代理、石川県ニッチトップ企業評価委員、浜松市地方創生アドバイザー、長崎県壱岐市政策顧問等を歴任。
著書に『日本版CCRCがわかる本―ピンチをチャンスに変える生涯活躍のまち―』、『明るい逆参勤交代が日本を変える』。

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