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飛行機を飛ばして人々をつなぐミッション。それが社会への責任を果たすということ。 小林弘典氏

日本を代表する航空会社ANAは、コロナ禍の中にあってもアメリカと日本を結ぶ路線を毎日就航させています。「どのような状況下でも安心安全に飛行機を飛ばすことが社会への責任を果たすことであり、それが私の仕事です」と話すロサンゼルス支店長の小林さんに、コロナ禍でさらに強まった航空会社としての使命感、海外で暮らし働いたことで得られた実感、そして日本の若い世代に向けて伝えたいメッセージを伺いました。
飛行機を飛ばして人々をつなぐミッション。それが社会への責任を果たすということ。

開志専門職大学

小林さんのANAでのお仕事について教えてください。

小林弘典

私はANAのロサンゼルス支店長として、2019年にロサンゼルスに赴任してきました。ANAは世界50都市と日本をつなぐ国際線を運航しており、世界中のお客様を安全に心地良くつなぐことをモットーにしています。

小林弘典

いかに飛行機を安全に定期的に運航するかが非常に大切で、私はアメリカ11都市から日本、そしてアジアをつなぐANA機の運航を確実に行うように管理する立場にあります。

開志専門職大学

日本やアジアに向けたアメリカ発のANAの路線の管理責任者ということですね。コロナ禍はいかがでしたか?

小林弘典

コロナ禍の間はお客様が本当に少なかったです。客室乗務員よりもお客様の数が少ないこともありました。それでも、飛行機を飛ばしてつなぎ続ける、運航を続けることが大事なのです。それは社会への責任を果たすということです。その責任を担うことが私のミッションだと考えています。

開志専門職大学

大変なお仕事ですね。

小林弘典

私が大変な仕事をしていると言うより、飛行機は勝手に飛ぶものではないので、その周辺でたくさんの人々が仕事をすることによって飛行機は飛んでいます。空港の職員の皆さん、機内食を作ってくださっている皆さん、整備の皆さん、お客様の予約を受ける皆さん。実に多くの人々が飛行機の周りで働いているのです。

開志専門職大学

コロナ禍で、そのような方々の働き方も変わりましたか?

小林弘典

飛行機を実際に飛ばす、そしてお客様とお目にかかって成り立つ仕事なので、現場に行く必要があります。ですからコロナ感染が広がっている間も変わらずに、万全の体制を敷いた上で、社会の使命を果たすために多くの人々が現場で働き続けています。

開志専門職大学

そう言われると次回、飛行機に乗る時に改めて感謝の気持ちが湧いてきます。それでは、大変だったこととは逆にコロナ禍の間に良かったと思えたエピソードがあれば教えてください。

小林弘典

やはり、飛ばし続けることで感謝の気持ちをお客様から伝えられたことですね。「毎日、アメリカと日本の間を飛んでいる」ということは、コロナ禍において必要とされる方にとっては大切なことなのだと実感しました。

小林弘典

例えば、急に日本のご親戚やご家族の事情で帰国しなければならなくなったという方にも、ANAが毎日飛んでいるということでお手伝いできましたし、また実際に帰国しない方からも、「いざという時はANAで帰れる」と心の支えにしていただけたと言われた時は、ANAで働く私としてはありがたいお言葉として受け止めました。

コロナ終息に向けて現実社会に飛び出し、多くのアメリカ人にANAを、日本を伝えたい。

開志専門職大学

そうですね。帰りたくても飛行機が飛んでいないと途方に暮れそうです。

小林弘典

一方で、辛かったのが国の定めではあるのですが、必要な方がすぐに日本に入国できないという状況です。もしくは日本に入国できても、その後、最長で14日間の自主待機が求められ、ご家族の元にすぐには行けないという状況が続きました。

小林弘典

アメリカのパスポートの方はまだ入国できない(2022年3月時点では短期滞在ビザの取得が必要)ですし、日本国籍の方でアメリカに帰化された元日本人の方も故郷である日本に入国できません。

小林弘典

「日本に行かなければいけないのに行けない」、そういうお客様のお心持ちに直接に触れる立場ですので、私も非常に辛く感じました。それは現在もまだ続いています。

開志専門職大学

また、小林さんがロサンゼルスに赴任されて1年後にコロナ禍になったので、新しい方々と出会う機会も制限されたのではないですか?

小林弘典

オンラインという文明の機器を頼りに、多くの方々と画面越しにご挨拶はさせていただきましたが、やはり「深く知る」という意味では、対面で交流することには敵いません。ですから、ここ最近、コロナが収まってきたのと同時に、外に飛び出しております(笑)。いよいよこれからだ!という気持ちです。

開志専門職大学

それでは、2022年に小林さん自身が外に飛び出して「これをやりたい」と胸に抱いている抱負とは?

小林弘典

今年だけではなく、今後もずっと続くことですが、少しでも多くのアメリカの方に私自身を知っていただくことを通じて、ANAを知っていただき、さらに日本に関心を持っていただくことが私の目標です。

小林弘典

さらに、社内に目を向けると、私よりも5歳、10歳、20歳と若い社員に「何の目的を持って働くのか」ということを伝えていきたいと思っています。

チーム一丸となって勝利を目指すスポーツ。ラグビー経験が「社会に役立ちたい」という気持ちを生んだ。

開志専門職大学

ちなみに小林さん自身がANAに入社したのは何年前ですか?

小林弘典

89年に入社しましたので、今、入社34年目です。

開志専門職大学

どういう理由でANAを選ばれたのですか?

小林弘典

実はどこの会社でも良かったんです。

開志専門職大学

本当ですか?

小林弘典

社会に役立つ仕事ができるなら、どこでも構わないと思っていました。ANAに入れば、日本国内だけでなく、世界中の人々をつなぐ仕事ができるから、それは社会に役立つことだと思い、ご縁を感じて入社しました。

開志専門職大学

「社会に役立つ仕事」が会社選びの理由だったのはどうしてですか?

小林弘典

それはラグビーの話になってしまいます。僕は大学時代にラグビーに出会いました。そして、チームが一丸となって勝利を目指すわけですが、そのためにはチーム全体でどういう動きをすればいいのかを追求するわけです。ボールを持ってないメンバーも何ができるかについて考えを巡らせます。そうやって、全員が一つの絵を描いて動くスポーツに関わることで、人のために何ができるかを常に考えるようになったのです。

小林弘典

ラグビーで達成感を得られたように、仕事でも「自分が誰かの役に、世の中の役に立っている」と感じたい、そう思うようになったことが根っこにありますね。

開志専門職大学

そうやって入社したANAでの30年以上の年月を振り返り、一番の転機とは?

小林弘典

会社の中で担当した仕事は次々と変わったのですが、自分が仕事に取り組む上での目標がガラリと変わった転機という意味では、管理職になった2000年くらいですね。

開志専門職大学

管理職になって目標がどのように変わったのですか?

小林弘典

管理職って自分の組織に集う仲間の人生を背負っていると思うんですよ。一人ひとりの成長を見守ったり、皆が過ごす職場環境を良いものにしたりする責任が伴います。いわば親のようなものですよね。

開志専門職大学

メンバーが子どもなんですね。

小林弘典

そうです。親としての意識が芽生えました。管理職ってメンバーに「ああして、こうして」と命令するものではなくて、良いチームを作ることなんだ、それが目標だということに気付きました。それに気付けたことが一番の転機でしたね。

海外に住んでみないと本当のことは分からない。空気に触れて、人々と触れ合うことが大事。

開志専門職大学

さて、ロサンゼルスに移って丸3年ということですが、海外で働く醍醐味とは何でしょうか?

小林弘典

その街の空気に触れ、人々に触れるということですね。いくら本やYouTubeを見て知った気になっても、実際に触れることが大事です。日本にいてアメリカのことを見たり聞いたりして分かったような気持ちになっていても、住まない限りは分からないのです。

小林弘典

もっと言えば、私のような駐在員という立場でも十分ではありません。本当のアメリカは分からないなと思います。市民権を持って、本物のアメリカ人にならないことにはアメリカとは何か、ということが把握できないと思います。

開志専門職大学

では、アメリカ人と交流されて日本人はどのように見られていると感じますか?

小林弘典

実は多くのアメリカ人がアジアの人たちの中で、それぞれの国を区別できてないように感じています。中国、韓国、ベトナム、日本の違いを理解していただくことはハードルが高いことです。

小林弘典

ただ、日本企業が古くからアメリカで活動しているということで、それらの企業を通じて、アメリカの方々には日本はしっかりした国であり、日本人は時間に正確な謙虚な人々だということを、分かっている方には分かっていただいているように感じますね。

開志専門職大学

アメリカ人はアジア人を全体として見ているということですね。

小林弘典

でも逆に、アメリカ人って一言に言っても、実はアメリカ人という人種が存在するわけではありません。それぞれの民族がそれぞれのバックグラウンドを持ち、それぞれのコミュニティーを形成し、互いに敬意を抱きながら権利を主張しているのがアメリカ合衆国だと思います。

開志専門職大学

なるほど。住んでみないと分からないことは多いのですね。それでは次に、日本でこれから大学生になる人に向けて、小林さんから学生時代にやっておいた方がいいことをアドバイスしてください。

小林弘典

好きなことを見つけてください、と申し上げたいです。自分の興味の行き先を発見してチャレンジしてほしいです。

小林弘典

ただし、いろいろなことを試してみないことには自分の興味がどこにあるかは発見できません。世の中には自分が知らないことがたくさんある、ということを前提に、いろいろなことを試し、自分が打ち込めることが見つかったら、そこを深く探っていただきたいです。

開志専門職大学

まずは幅広く試すことが大事なのですね。最後に、開志専門職大学での特別講義でどのようなことについてお話しいただけるか、少しだけ教えてください。

小林弘典

高校生の皆さん、そして開志専門職大学で学ばれる皆さんは、これまでに学んできて、「一つの問いにはただ一つの答えがある」ということを理解されていると思います。しかし、社会に出たら、ただ一つの正解などは存在しません。たどり着く答えが一つではないばかりか、たどり着くまでの方法も一つというわけではありません。

小林弘典

もちろん、答えが一つしかない学習をしっかり経験することも必要です。社会に出てからの応用問題は基本問題の上に成り立つからです。社会では多様にある選択肢の中から、それぞれが答えを選んでいくということを講義ではお話ししたいです。

小林弘典

それからもう一つお話ししたいのが「将来、こうありたい自分」に近づく努力をしてほしいということです。そのためには、先ほどお話ししたように、自分の興味が何なのか、幅広く挑戦して、多くの仲間と交流しながら、自分自身を探っていただきたいと思います。特別講義ではこのようなことをお話しするつもりです。

開志専門職大学

ありがとうございます。それでは特別講義を楽しみにしています。

特別講師 小林弘典氏
全日本空輸株式会社(ANA)
米州室統括部長総務担当兼ロサンゼルス支店長

大阪府出身。東京大学法学部卒業後に全日本空輸株式会社に入社。東京支店、企画室、大阪空港支店客室部、営業推進本部、営業センター業務室長、客室センター副センター長兼業務推進部長を経て、2019年4月より現職。ロサンゼルス郊外在住。

インタビュー:福田恵子
撮影・動画:安部陽二

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