

開志専門職大学
今のお仕事について教えてください。
木村恭子
ホテルというのは、そのホテルを所有しているオーナーと、実際にそのホテルを運営している運営会社により成り立っています。オーナーはプロにホテルの運営を任せるのです。

木村恭子
現在、私の勤務するアクア・アストン ホスピタリティーでは約40軒のホテルを運営していますが、それぞれのホテルのオーナー様は違うんですよ。


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ご担当の業務は?
木村恭子
私の役目は、ホテルの運営会社とホテルオーナー様の間に入り、双方に利益をもたらすような調整をすることです。

木村恭子
また、私はホテルを買おうとするオーナー様の手助けをしたり、実際に買われたホテルのインテリアなど、オーナー様の意向に合わせて整えたりもします。



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ハワイ州観光局(HTA)の理事も務められていると伺いましたが。
木村恭子
1988年にハワイ州観光局は創設され、私は12人いる理事の一人です。メンバー中、日本人は私だけ。無報酬のボランティア職です。


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すごいですね。どのようなことをされているのですか?
木村恭子
私たち理事の仕事は、ハワイ州全体の観光指針を決めて、予算の割り振りをすることです。約90億円の州予算をどのように振り分けるのがベストなのか、どのような方向に観光指針を持っていくべきかを決めます。


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予算の振り分けはどのようにしているのですか?
木村恭子
ハワイ州では、ハワイへの渡航者数を増やすよりも、渡航者が使ってくれる金額の増加を目標にしています。例えば、ある国の人はハワイ滞在中に消費額が多いのですが、ある国の人はあまりお金を使いません。


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確かに、国の文化の違いもありますね。
木村恭子
調査によりそれが分かると、使ってくれる人の多い国に対して観光プロモーションの割り当て金を増やします。つまり、予算を振り分けるのです。他にもファミリー層よりもLGBT(セクシャルマイノリティ)の消費金額が多いとなれば、そちらに対する予算を多く取ります。


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ハワイのツーリズムについて教えてください。
木村恭子
ツーリズムというのは、ビジター(訪問者)だけのためではなく、住んでいる人のためでもあるのです。単にビジター数を増やすだけではなく、住んでいる人たちにも恩恵が必要。そのこともハワイのツーリズムの根幹として決して忘れてはいけないと思っています。


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本業の他にもお忙しいですね。
木村恭子
州全体の観光行政の指針と政策を決定し、観光のマーケティングを開発、展開、予算を配分することは、ハワイを愛し、観光業の重要性が分かるからこそ、ボランティアでもやりがいがあるのです。


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お仕事の醍醐味はなんですか?
木村恭子
現在、関わっているエスパシオの場合、ホテルの建築、デザインなど一番初めから関わり、コストも考え、じっくり2〜3年の年月をかけて作り上げました。完成して、グランドオープンした際は、成し遂げた達成感とその喜びに胸がいっぱいになりました。


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現在のお仕事にはどれほどの英語力が必要ですか?
木村恭子
ビジネスの話ができる読み書きは必須です。日本の大学やアメリカの大学に留学をして、英語力は積み上げてきましたが、実務的なビジネス英語は仕事を始めてから、 身に付けてきました。


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将来のためにまず何ができますか?
木村恭子
皆さんもインターンシップなどの機会があれば、ぜひ応募してください!そういったチャンスを通じて、どんどん大学生のうちに英語力をアップさせておきましょう。



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ところで、ハワイ(アメリカ)で働くことのきっかけは?
木村恭子
私が就職したのは、男女雇用機会均等法が施工された最初の年。バブル期だったこともあり、大学卒業後、リゾートホテルの開発会社に就職しました。この会社は女性を重用してくれました。2〜3年の腰掛け勤務のつもりでしたが、会社でマウイ島に海外初のホテルを建設する計画が持ち上がり、責任者として転勤の辞令が降り、マウイ島にやって来ました。


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不安はなかったですか?
木村恭子
何もない広大な更地に、約1年半かけて日本の建築家と共に調査・開発して一から作り上げたのが、今日のホテルワイレアです。実のところ、私も非常に若く、会社も海外でどうしたらいいのかよく知らない。不安ですよね(笑)。


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それなのになぜ、ホテル建設はうまくいったのですか?
木村恭子
それはハワイの土地柄のお陰。普通ならだまそうとか、ぼったくろうとか、そういうこともあるのに、ハワイの人たちは親切で私たちを助けてくれたのです。


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その後もずっとマウイ島在住ですか?
木村恭子
はい、そうです。現地の人に温かく迎えていただきました。


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大変なことはありましたか?
木村恭子
若くして総支配人の職を得たため、自分より年上の人たちと働くという環境は実は大変でした。コンプレックスを感じ、どうやって彼らから尊敬を得るかなどに頭を悩ませることもありましたね。のちに地元の日系4世の男性と結婚し、娘を二人出産しました。


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出産後も仕事を続けられたのですか?
木村恭子
アメリカでは女性がキャリアを続けるのは当たり前でした。次女が生まれた時は2週間しか産休を取らずに、若さで労働時間を補ないました。


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仕事をしていて何かエピソードはありますか?
木村恭子
総支配人だった頃、レストランでお客様とちょっとした行き違いがありました。スタッフのサービスが悪かったようで、お客様は激怒。低頭平身、謝りました。早朝の出発に合わせて朝4時半に玄関でお客様をお見送りした時に、「そこまでしてくれてありがとう。また来るよ」と言ってくださいました。このときは本当に嬉しかったですね。


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ところで、小さい頃はどんな子どもだったのですか?
木村恭子
ベールを着たシスターたちがいる厳しいカトリックの幼稚園に入れられました。ある冬の寒い日、膝をついてチャペルで礼拝するのが嫌で、お友達5人と逃げ回ったんです。シスターたちに捕まえらえた後、ざんげ室に放り込まれました。


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怖かったでしょうね?
木村恭子
ざんげ室に閉じ込められている間に、5人で脱走計画を立て、結構、そのスリルを楽しんでいました。シスターたちも少し脅かしただけで、すぐにざんげ室から出そうとしたんです。ところがシスターたちに反抗して、「絶対ここから出ない!」と言い張ったそうです。つまり、冒険好きのチャレンジ精神旺盛な子どもだったようです。



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この仕事にはどんな人が向いていると思いますか?
木村恭子
日本語でも英語でも、コミュニケーション能力が豊かな人です。ホテルのオーナー様と言ってもいろんなキャラクターの方がいます。カメレオンのように相手に合わせて、こちらが変わり、相手の言い分を聞きつつ、こちらの言い分も通す。そんなことが可能なコミュニケーション能力があると良いですね。


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ハワイで働く魅力を教えてください。
木村恭子
ハワイは人種や性別に偏見が少ない土地柄です。マジョリティ(多数派)がいなくて、人種に多様性があります。

木村恭子
日本人をはじめとするアジア人も受け入れてもらいやすいく、LGBTへの偏見もない。そんな多様性を肌に感じながら働いていると、自分もそういった環境を受け入れ、寛容な人間になれる。そんな魅力のあるのがハワイです。


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日本人としての強みはありますか?
木村恭子
観光業をメインとするハワイにとって、日本は大きなマーケットです。しかも、ハワイから好感を持たれているマーケットです。これは日本人の持つ素晴らしい国民性のおかげです。ハワイで働いている私も含めた日本人も、プライドを持って働くことができるのです。


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日本人が好きなハワイ、ハワイの人が好きな日本ですね。
木村恭子
仕事をしていて、ハワイの人は日本人の私をリスペクトしてくれるのです。「こういう時、日本人はどうするの?」と聞かれても、すぐに答えられるので、役に立っていると実感できます。ただ、日本を離れてかなり長いので、今後は、若い日本人の考えに追いついていきたいですね。


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将来はどのような活動を行いたいですか?
木村恭子
次世代に対して、 いろんな機会に私の仕事や経験について、セミナーや講義などでお話しできればと思います。


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日本のホテル業界にも関わることはありますか?
木村恭子
「日本の地方創生にはどうしたらいいのか?」というテーマで基調講演をさせていただいたり、パネラーとして会議に参加したことがあります。そこで、ハワイのマーケティングの話をしました。


開志専門職大学
どのような話ですか?
木村恭子
ハワイではルームチャージの他、ホテル税を徴収し、それを財源として州のマーケティングを行い、将来の対策を立てています。ところが、日本の地方では税率をかけたホテル税を取らず、定額のホテル税、しかも200円ほどの少額を取るだけです。そんな少額ではマーケティングの財源とはならず、いくら素晴らしいホテルが地方にあっても十分なPRができません。


開志専門職大学
財源がなければPRもできないのですね。
木村恭子
財源がなければ、工夫ができない。ホテル税を払うのは県外から来る人なので、県民の懐が痛むわけではありません。地元の政治家にとっても有権者に悪い影響を与えることはないのですから、ハワイを模したホテル税などの改革に助言しています。


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開志専門職大学の学生にメッセージをお願いします。
木村恭子
大学にいる間に英語力を付けましょう。会話さえできればいいと思うかもしれませんが、文法や読み書きも大事です。文献などもしっかり読んでおきましょう。また、可能であれば長期間日本を離れて、英語が話せる環境に身を置くことをお勧めします。そうすれば言葉だけではなく、その国の文化などもにも触れあうことができます。



開志専門職大学
木村さんも留学をされたのですか?
木村恭子
私は大学時代に、留学先で結構ショックな経験をしました。YMCA(キリスト教青年会)の交換リーダーとしてニュージーランドのキャンプに参加したとき、女性同士が本気でけんかをする場面に出くわしました。それまでの人生で、女性同士がそんなに激しく口げんかをしているのを見たことがなかったので、すごいショックでした。


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日本人の女性はあまり人前で大げんかをしませんよね?
木村恭子
ええ。ところが言いたいことを言い合った二人が翌朝には、けんかなどまるでしなかったかのように振る舞っている様子を見て驚きました。こういう考え方もありなんだと思ったのです。

木村恭子
つまり、はっきり言わず、心の中にためておくのではなく、言いたいことははっきり言う。その代わり、後に嫌な気持ちを残さない。若い時のこのような経験は自分の資産になります。


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開志専門職大学での講義の内容はどのようなものになりますか?
木村恭子
私の人生、半分がハワイで半分が日本となりました。ハワイのホテル業、今の仕事、総支配人としての経験も含め、日本ではあり得ないハワイホテルのルール、日本で取り入れた方がいいユニークなメソッドなど、あえて裏話も交えてご紹介したいと思います。


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裏話も聞けるとは楽しみです。
木村恭子
いろんな人種、バックグラウンドを持った人たちが働くハワイのホテル。そんな環境でのスムーズなオペレーションのノウハウや観光業界の機能の仕方、政府との関係などハワイ観光業全般についてお話ししますので、楽しみにしてください。

特別講師 木村恭子氏
アクア・アストン ホスピタリティー
ディレクターズ・オブ・オーナー・リレーションズ
大阪府出身。神戸女学院大学英文学科卒業後、ダイヤモンドリゾートに入社。コーネル大学ホテル学科留学を経て、マウイ島に転勤。ダイヤモンドリゾートハワイ(現ホテルワイレア)社長兼総支配人を務める。現在は マリオットバケーションの子会社であるアクア・アストン ホスピタリティー社にて ディレクターズ・オブ・オーナー・リレーションズを担当。公務として、マウイホテル協会会長、マウイ日系人商工会議所会頭長、ハワイ州政府中小企業規制調査員、日本ハワイ観光協議会航空部会座長、ハワイツーリズムオーソリティー(HTA)理事としてハワイ州の観光政策を指揮。ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領やノーベル平和賞受賞者の元コスタリカ大統領の同時通訳を勤めた経験もある。

