

開志専門職大学
片山さんのお仕事について教えてください。
片山敏宏
国土交通省観光庁で外国人のインバウンド(海外から日本への観光客)を誘致する仕事です。今の部署では、お客さんがストレスなく日本で過ごせるように、環境の整備を行っています。


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東京オリンピックの開催も目前でもありますね。その環境の整備とは具体的には?
片山敏宏
多言語対応、Wi-Fi、洋式トイレ、キャッシュレス、この4つを整備していきましょう、ということです。


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その4つの中で一番大変なのは何ですか?
片山敏宏
おそらくキャッシュレスだと思います。外国では当たり前のキャッシュレスが日本では遅れています。クレジットカードを(たくさんの場所で)使えるようにすること以外にも、Suicaのような、交通機関やそれ以外の用途にも使えるICカードを外国人のお客さんに知ってもらう必要があります。


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現時点ではSuicaは外国人には知られていないんですね?
片山敏宏
そうなんです。ですから飛行機に乗っている段階から「Suicaを売っています」というような案内をやらなければいけないと準備しています。そうすれば両替しなくても済みます。


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オリンピックに限らず、そういった環境の整備は必要ですね。
片山敏宏
はい、オリンピックの年は混雑するからと、逆に外国のお客さんが減少するとも言われています。オリンピック開催期間よりもむしろ終わった後にどっと来てもらうようにしないといけないですね。



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さて、これまでの片山さんのお仕事で最も手応えを感じたのはどのようなことでしたか?
片山敏宏
10年ほど前に羽田空港が国際化される際に、「成田空援隊」を立ち上げて成田を盛り上げたことでしょうか。


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なぜ成田空港の盛り上げに携わっていたのですか?
片山敏宏
当時、国土交通省から成田市に出向していまして、羽田の国際化によって利用客を持って行かれるという危機感に直面していました。成田空港を目立たせなくてはいけないと、有志で成田の活性化に取り組んだのです。いわゆる地域の町おこしですね。そして、町おこしには「よそ者、若者、馬鹿者」が必要なんです。


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どういうことですか?
片山敏宏
「よそ者」は、私がやったように外から来て客観的にその町の強みを見つけることができるし、「若者」には意欲と勢いがある、そして「馬鹿者」は空気を読まないから思い切ったことができるという意味です。


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どんなことをやったのですか?
片山敏宏
一つは映画やドラマのロケ地に選ばれるような活動、二つ目はご当地グルメ、そして三つ目は「空美ちゃん」。


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空美ちゃん?
片山敏宏
飛行機が好きなのは小学生男子とマニアの中年男性だけではありません。女性でも飛行機が好きな人、「空美ちゃん」がいることに気付き、女性限定の飛行機の撮影イベントを開催しました。


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反響があったんですね?
片山敏宏
最初は弱気に定員20名としていたのが、すぐに申し込みがあって、定員を倍の40名に増やしました。そして当日は北海道から大阪と、各地から成田に参加者が集まってくれました。成田には羽田よりもカラフルな機体の飛行機が飛んで来るので成田で撮影したい、という声もいただき、元気が出ました。


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大成功ですね。
片山敏宏
成田での空美ちゃんイベントがきっかけとなり、キャノンの「空美ちゃん航空写真講座」が誕生しました。それをフジテレビが取材して、中部、羽田、関空、伊丹にも講座が広がりました。



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今は日本に外国からお客さんを集めるお仕事をされていますが、そうやって過去には日本の町に全国から人を集めることでも結果を出されていたんですね。ところで片山さんはどちらのご出身で、どのような子ども時代を過ごされたのですか?
片山敏宏
九州の福岡出身です。両親が兵庫県淡路島の出身で、里帰りするときに新幹線に乗るのが楽しみな、乗り物が大好きな子どもでした。


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もしかして時刻表に詳しい鉄道少年?
片山敏宏
そうです。3人兄弟の長男だった私が移動のスケジュールに関しては全て任されていました。どこで何時に乗り換えるなど、小学生の時から私が決めていました。


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頼もしいですね。鉄道以外で熱心に取り組んでいたことは?
片山敏宏
両親から「文武両道」を求められて、剣道もやっていました。ほとんど強制でしたね。やりたくないのにやらされていたから、常にしかめっ面で取り組んでいました。「タスクをこなしていた」という感覚です。


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その当時は将来何になろうと思っていたんですか?
片山敏宏
大人になるのは嫌だなって思っていました。働くのは大変なことだ、辛いことだ、とかなりネガティブな気持ちでした。


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なりたいものがなかった?
片山敏宏
生活するためにお金が必要だから働かざるを得ないだろうといった感じでしたね。でも、社会に出た後に働くことの楽しさに目覚めました。結果的にそれはお金を求めてではなくて、好きなこと、つまり乗り物が好きだからという理由で、国土交通省の前身の運輸省に入省したからだと思います。



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乗り物が好きだったのなら、海外に興味は向かなかったのですか?
片山敏宏
九州で育ったので、海外よりまず先に東京に出なくては、と思っていました。


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では、初めての海外はいつでしたか?
片山敏宏
中3ですね。


開志専門職大学
早いですね。それはどういうきっかけで?
片山敏宏
親が技術者だったので、単身で短期間スウェーデンに研究に行っていたことがあるのです。帰国の際に母と私がヨーロッパに飛んで、一緒に10日間周りました。


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初海外、初ヨーロッパの印象はどうでしたか?
片山敏宏
当時のヨーロッパはキラキラして見えました。でも僕自身は坊主頭でしたからね、向こうの人から「変な人」に映っていたと思います(笑)。


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キラキラした海外で将来働きたいという気持ちにはならなかったですか?
片山敏宏
海外そのものよりも、鉄道だけではなく飛行機も好きだったので、浴びるくらい飛行機に乗りまくれるような、そういう仕事に憧れるようにはなりましたね。でも、当時は飛行機は高値の花でしたから、中学3年生の頭で「もうこの先30年くらい国際線の飛行機には乗れないかもしれない」とも思っていました(笑)。


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そこまで言われると、いかに飛行機に乗って興奮されたかが伝わります。
片山敏宏
今思えば、初海外で飛び立ったのが成田空港でしたから、成田には格別の思い入れがあるんです。


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中学3年生の時の思いが「空美ちゃん」につながっているというわけですね。
片山敏宏
その後、成田の町おこしに携わったことに運命を感じます。



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その後、東京大学に進学されて、運輸省に入省されたわけですね。そして、現在の観光のお仕事につながるわけですが、お仕事の醍醐味について改めて教えてください。
片山敏宏
日本への観光客の数を倍々ゲームで増やすことができていることに尽きます。実は2001年にニューヨークで同時多発テロが発生した時、日本のインバウンドは年間500万人でした。当時の日本は旅行と言えば国内旅行で、海外から日本に観光客が来るはずはないという思い込みがあったんです。


開志専門職大学
ところが?
片山敏宏
2010年に海外からの観光客1000万人という目標をぶち上げたところ、それを2013年に達成することができました。2019年には3200万人、2020年には4000万人の目標を掲げています。


開志専門職大学
2001年の500万人からものすごい勢いで増えてきたのですね。どうしてそれだけ増えたんでしょうか?
片山敏宏
国が観光を主要な産業に位置付けて取り組んだ後に、ある程度の結果を出し始めると、航空会社をはじめとする観光業界がプロモーションを始めて、それらの相乗効果で結果が出たということが言えます。

片山敏宏
金額で換算して観光を輸出産業ととらえると、今や、日本の輸出産業の3位が観光業なのです。ちなみに1位は自動車です。観光は日本の電機製品も超えてしまいました。


開志専門職大学
それだけ日本には魅力的な観光資源がたくさんあるということなのですね。
片山敏宏
そうです。2001年以前にはそれに日本人が気付いていなかったのです。日本はいわばフルセットです。


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フルセット?
片山敏宏
はい、海あり山ありです。沖縄のマリンリゾートから北海道のスノーリゾートまで。



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温泉も、おいしい日本食も、アニメも漫画も何でもありますよね。さて、学生時代は将来の仕事をイメージできなかったという片山さんですが、今は生き生きと日本に海外から観光客を呼び込むお仕事に携われています。

開志専門職大学
そんな片山さんから、今の大学生やこれから大学生になる人たちにメッセージを送るとしたら何と言いますか?
片山敏宏
例えば「勉強しても社会に出たら役に立たない」とか「好きなことは仕事にできない」って言うじゃないですか。でも、そんなことは実はなくて、勉強や興味があることに一生懸命打ち込むことが、社会で仕事をする上でもかなりの強みになると私は思います。


開志専門職大学
片山さんが乗り物に興味があったように。
片山敏宏
はい、それに仕事で自分の個性を活かすには「掛け算」で考えればいいと思うんです。英語が好きだからということだけで仕事をイメージするのではなく、英語も好きだしファッションも好きだし、大都市より地方がいいなら、英語ができる人を探している地方のアパレル会社を狙えばいいのです。

片山敏宏
「掛け算」で自分の個性が生まれるし、強みにもなります。そういうことって意外に大学生には伝わってないような気がします。


開志専門職大学
では、開志専門職大学の特別講義では、片山さんにはもちろん日本の観光産業のお話もしていただきたいですが、今おっしゃったあたりもお話しいただけるということですか?
片山敏宏
そうですね。私自身、学生時代は社会に出ることや仕事をすることに恐れを抱いていました。でも、関心とか経験を生かしつつ仕事を選べば、社会人になってからもいい出会いがあり、スキルも鍛えられて、初めて人は成長していくものだと思うのです。

片山敏宏
ですから学生の皆さんがそういう仕事を選べるように橋渡しさせていただけるようなお話をしたいですね。社会に出てから20代でスキルを上げて、30代でもさらにスキルは磨かれるのです。給料とか待遇だけに目を奪われるのではなく、好きなことを膨らませて、それを自分の将来につなげていく戦略をお教えしたいですね。


開志専門職大学
学生にはとても大切なアドバイスですね。ぜひよろしくお願いします。
特別講師 片山敏宏氏
国土交通省観光庁参事官(外客受入担当)
1970年生まれ。福岡県出身。1994年東京大学法学部卒、運輸省(現国土交通省)入省後、同省では観光、海運、自動車行政など、また、地方では東北地方整備局、成田市副市長を経験。2015年から港湾局港湾経済課長、鉄道局鉄道事業課長、国土交通大臣秘書官、総合政策局地域交通課長を経て、2019年9月より現職。
インタビュー:福田恵子

