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新商品開発18年。ヘアカラー部門トップの売上を達成。 今野佳洋氏

ヘアケアやヘアカラー製品の新企画を考え、開発する仕事に携わっている今野佳洋さん。新しい発想で、かつ消費者に受け入れられるアイデアを出し、実際に製品化するまでを日本で手がけた後、異動でアメリカのカリフォルニアに渡ります。カリフォルニアでは多様な人種、多様な言語の消費者向けの商品開発がいかに日本と事情が異なるかを肌で感じ、その経験を通じて、より多面的な見方ができるようになったと話してくれました。大きな窓から陽光が燦々と降り注ぐ、会社内に設けられた広々としたヘアスタジオで今野さんにお話を伺いました。
新商品開発に携わって18年。上司に反対されたアイデアも 社長決裁で商品化。8年かけてカテゴリー中売上トップに

開志専門職大学

今野さんのお仕事について教えてください。

今野佳洋

ヘアカラーとヘアケアの新商品開発に携わっています。

今野佳洋

大学院を卒業してホーユーに入社してからですから、経験は18年になります。

開志専門職大学

18年の中で最も大きな手応えを得たお仕事とは?

今野佳洋

8年くらい前に私がアイデアを出して商品化したヘアカラーの製品が、つい最近、そのカテゴリーで売上1位になったことです。

開志専門職大学

8年かけてトップ!

今野佳洋

最初、商品化を認めてもらえなくて、「絶対売れるから」と上司とは押し問答をしました(笑)。

開志専門職大学

どういう商品なのですか?

今野佳洋

ヘアカラーというのは、リキッドタイプ、クリームタイプ、そして最近の主流が泡タイプです。

今野佳洋

当時まだ泡は主流ではありませんでした。すでに競合他社が売り出していましたが、当社でも是非泡タイプのヘアカラーを出したいと思いました。

今野佳洋

しかし、特許の関係で同じものは作れませんから開発費もかかるし、また生産のための設備投資も必要でしたから会社側を説得する必要がありました。

開志専門職大学

どうやって会社を説得されたのでしょう?

今野佳洋

リキッドが入ったボトルを振ったら泡になる商品を作ることにしました。振っているところをビデオに撮って、それを役員の前で見せてプレゼンテーションをしました。

今野佳洋

振っているとなぜか人って笑顔になるんですよ。その動画を見せた結果、説得することができました。

開志専門職大学

やりましたね!

今野佳洋

社長に「一度やってみたら」と言われて、社長決裁でスタートしたんです。

英語で書かれた論文の数の多さに日本社会の狭さ実感 大きな世界で勝負したいという気持ちが膨らむ

開志専門職大学

現在はロサンゼルスにある現地法人に赴任中ですが、いつアメリカにいらしたんですか?海外勤務は初めてですか?

今野佳洋

2014年にこちらに来ました。ずっと「海外に行きたい」と言い続けて実現しました。

開志専門職大学

どうして海外勤務を志望されたんですか?

今野佳洋

色々あるんですけど、まず大学院の時に海外の論文を読んだりする機会があって、そうすると、日本語で書いた同じテーマの論文が2件しかなくても、

今野佳洋

それが英語になると100、テーマによっては200件くらいに一気に増えるんです。それで日本社会の狭さを実感しました。

今野佳洋

海外までカバーすると情報量って爆発的に増えるということがわかり、もっと大きな世界で勝負したいと思うようになりました。

開志専門職大学

他には?

今野佳洋

はい、パテント(特許)を日本で出願しても、海外のパテントはまた別だったりするわけです。

今野佳洋

世界市場は大きいのだということを、この仕事を始めてから知りました。

開志専門職大学

アメリカで働いてみて率直なところ、どうですか?日本と働き方は違いますか?

今野佳洋

まず仕事の幅が広がりましたね。

今野佳洋

日本だと、自分の専門の仕事だけですが、こちらでは商品を企画して、どのような成分にするかも決めて、ボトルやパッケージ、そのデザインまでを手がけています。

今野佳洋

さらにどういう風に売るのか、というマーケティングの部分も含まれます。全部やっていますね(笑)。

開志専門職大学

それは大変ですね。

今野佳洋

でも、一番大変なのはアメリカは多人種社会だと言う点です。日本だったら日本人の髪の毛ってそんなに変わらないんです。

今野佳洋

でも、こちらには白人、アフリカ系、アジア系で、それぞれ髪質が全く違うので、製品を人種の髪のタイプに合わせる必要があります。

今野佳洋

買ったけれど自分の髪に合わないというクレームにつながらないように、パッケージの写真でどの人種向けかをわかるようにしなければなりません。

開志専門職大学

なるほど、日本では考えられないですね。それ以外で大変なことは何でしょう。

今野佳洋

パッケージ上の言語の問題ですね。日本は日本語だけですが、こちらは英語だけでなくスペイン語、さらに中国系の人も多いので中国語を使うこともあります。

今野佳洋

以前、中国語で色を表現する時に、3人の中国系の従業員に聞いたら全員が違うことを答えたので困りました。どれも間違いではないのですが、微妙に違うんですよね。

開志専門職大学

自分が理解しない言語だと判断できなくて困りますね。

アメリカの職場で日本人はマイノリティー チームワークと円滑なコミュニケーションに留意

開志専門職大学

御社のスタッフは様々な人種で構成されているのでしょうか。

今野佳洋

そうです。60名ほど働いていますが、日本人はマイノリティーです。

開志専門職大学

英語でのご苦労は?

今野佳洋

今も苦労しています。ですから、通勤の車内で30分ほど英語のセンテンスを聞いてそれをリピートする練習をずっと続けています。

開志専門職大学

お仕事で困ることはないですか?

今野佳洋

私は自分で言葉にすることより、ヒヤリングの方が得意です。ですから、社員にまず私から説明して、その内容を彼らの口から再度言ってもらうんです。

今野佳洋

それによって私の説明がちゃんと伝わっているのかどうかを確認しています。

開志専門職大学

それはいい方法ですね。仕事以外でも何かチームワークを良くするために工夫していることはありますか?

今野佳洋

私が所属するR & D(研究開発)チームでは、月に1回、皆でランチに行きます。私の提案です。

今野佳洋

皆と世間話をするんですけど、実は仕事上の会話よりも、たわいのない話の方が英語でしゃべるのは結構難しいんです。

開志専門職大学

一緒のランチは、英語も上達して皆さんのことも知ることができて一石二鳥ですね。

今野佳洋

それから、これは非常に誇りに思っていることなんですが、私が赴任してからの5年で、チームに属する7人のメンバーで辞めた人は一人しかいないのです。

今野佳洋

アメリカではすごく転職が多くて、20代の人の平均転職回数は7回と言われています。

開志専門職大学

7回!

今野佳洋

今のチームメンバーに聞くと、「前の会社では忙しいだけだった。楽しくなかった」と言う話や、

今野佳洋

他の日系企業で働いていた人からは「駐在が変わるとやり方がころっと変わったりしてやりにくかった」と言う話も聞きました。

今野佳洋

今の職場を働きやすいと思ってくれていることが、私自身もとても嬉しいです。

開志専門職大学

それは素晴らしいことですね。

会社ではしっかり働きプライベートではサッカーに興じる メリハリの効いた過ごし方がカリフォルニア流

開志専門職大学

では、今野さん自身がアメリカ生活で素晴らしいと思うことはどんなことでしょう?

今野佳洋

まず、ここカリフォルニアは天気がいいことが一番の魅力です。旅行を企画しても、ほぼ雨が降らないから、絶対に予定を変更するような事態にはなりませんよね。

今野佳洋

それから、私はこっちに来て初めてサッカーチームに入りました。

開志専門職大学

サッカーデビューですか!

今野佳洋

子どもが所属するサッカーチームの隣で、お父さんたちが同じくサッカーの練習をするチームがあるんですよ。

今野佳洋

サッカーの運動場もすごくいい所が安く借りられるし、日本と比べられないくらい恵まれた環境です。

開志専門職大学

会社ではしっかり働いて、プライベートではサッカーを楽しまれているんですね。

今野佳洋

ここで新しい趣味ができました。本当にあんな素晴らしいグラウンドはないです(笑)。

開志専門職大学

お父さんたちが練習している隣でお子さんがサッカーをやっていると言うことですが、お子さんは何歳ですか?

今野佳洋

8歳の男の子と5歳の女の子です。下の子は日本で生まれてすぐこちらに来たんです。

開志専門職大学

ご家族でアメリカのあちらこちらに旅行に行きましたか?

今野佳洋

ナショナルパーク(国立公園)を中心に回りました。グランドサークルやイエローストーンですね。「これぞアメリカ」と言うほどの感銘を受けたのはモニュメントバレーです。

今野佳洋

あの岩山を真正面に眺められるホテルに夕方に到着して、夕焼けを見て、満天の星空を見て、さらに日の出も楽しみました。そうそう、流れ星も見ました!

今野佳洋

グランドキャニオンにも行きました。柵がないから怖いですけどね。

開志専門職大学

アメリカで働く前と5年働いた今を比較すると、ご自分の中で最も変わったことは何ですか?

今野佳洋

幅広い分野の仕事を経験したことで、以前は一面的にしか物事を捉えることができませんでしたが、今は多面的に捉えることができるようになったと思います。

今野佳洋

それから、結構、こちらの自由な働き方の良さに開眼したことでしょうか。

今野佳洋

働くスタイルが個人によって違って非常にフレキシブルですよね。

開志専門職大学

学校のイベントも平日に昼間にあったり?

今野佳洋

そうそう、日本だったらありえないですよね。そこにお父さんたちが大勢来てますしね。家族との時間を大事にしているんだなと思います。

今野佳洋

やることをやればあとは自由だと言うことで、ある意味、成果主義なんでしょうね。

開志専門職大学

メリハリがはっきりしている?

今野佳洋

そう、効率的ですね。時間の振り分けがちゃんとできている気がします。

開志専門職大学

それをアメリカで知ったんですね。

今野佳洋

はい、アメリカに来て本当に良かったと思います。

若い頃に英語をもっと勉強していれば、という後悔抱く 海外での経験で視野が広がり、違った見方ができる人間に

開志専門職大学

さて、今野さんはどちらのご出身で、どんなお子さんだったのでしょうか。

今野佳洋

神戸の出身です。子どもの頃、勉強は全然、でした。運動しかできなくて(笑)。

開志専門職大学

将来はどんな仕事に就こうと思っていたんでしょうか。

今野佳洋

親が自営業だったので、サラリーマンがいいなと漠然と考えていました。

今野佳洋

両親ともに土日も仕事、夜も遅くまで働いていたんです。大体、家にはいなかったですね。

開志専門職大学

大学は神戸を離れて名古屋工業大学に進学されたんですね。どのような大学生活を?

今野佳洋

勉強以外のことに熱心でしたね(笑)。家庭教師のアルバイトを一生懸命やって海外旅行に出かけました。最初の旅行先はグアム、それからハワイにも行きました。

今野佳洋

でもあの時、いかに自分は英語が喋れないかを実感しましたね。

開志専門職大学

あの時、英語をもっと勉強していれば良かったと後悔したとか?

今野佳洋

そうですね。私の場合、駐在で30代後半にアメリカに来たので、もっと早く海外に出ていれば、と言う思いは正直ありますね。

今野佳洋

そうすれば視野がいろんな方向に広がって、また違った見方ができる人間になれていたのではないかと思えます。

開志専門職大学

海外に出るのは早い方がいいと?

今野佳洋

その方が、可能性がより広がるはずです。

開志専門職大学

日本の若い人と接する機会はありますか?

今野佳洋

弁理士(注:知的財産の業務に携わることができる国家資格)の資格を取得してから、知財について大学で講演の依頼を受けるようになりました。

今野佳洋

学生を前にして感じるのは、やはりおとなしい、ということです。でも、それは10年前も20年前も同じだったはずです。私が大学生の時もそうでしたしね。

今野佳洋

自分自身の知識量が少な過ぎて、人の話を聞いてもピンとこないんじゃないか、と。

開志専門職大学

では、知識量を増やすにはどうしたらいいでしょう。

今野佳洋

先ほどのアドバイスと同じで、早い時期に海外に一度出てみることをお勧めします。

今野佳洋

日本国内にいると相手は単一民族だし、ある程度、考えは努力しなくても伝わります。しかし、異なる文化や考え方を持つ人々とこれからはコミュニケーションが取れるようにしないと、

今野佳洋

日本はこれからますます人口が減っていきますし、海外に出る、もしくは自分は日本にいても海外とやりとりしなければ生き残れない時代がやって来ます。

今野佳洋

日本以外の世界についても知るべきだと私は思います。

開志専門職大学

ありがとうございました。確かにおっしゃる通りですね。

開志専門職大学

特別講義を楽しみにしています。

特別講師  今野佳洋氏

1975年、神戸市生まれ。名古屋工業大学の大学院修士課程を物質工学専攻で修了しホーユーに入社。数々の新商品の開発に携わる。日本弁理士会所属。商品開発・管理学会会員。2014年より、アメリカのロサンゼルス郊外にあるホーユー・アメリカ社に赴任。研究開発部門のディレクターを務める。2019年2月に日本に帰任。

インタビュー:福田恵子
撮影:鈴木香織
動画:ジーン渋谷

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